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153、壊した。
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今日の少女は料理のお手伝いをと、複眼に指示された事をしに台所に向かっていた。
台所に着くと鍋を出し、指示された材料を用意して行く少女。
そして複眼が来る前に解る範囲で下ごしらえをして、鍋をコンロに置き直そうと持ち上げる。
するとすぽっと底が抜け、鍋の底という名のお皿が出来上がってしまった。
少女は穴が開いた瞬間ひゅい!?と声を出し、穴を見る様に掲げてフリーズしてしまう。
この鍋は少女の記憶が間違いでなければ、複眼が気に入って良く使っている物だ。
いや、知っているからこそこの鍋を出したのだが、それが壊れてしまった。
これは少女にとって、前回の食器全滅よりも重大な事件だ。
少女は頭の中で纏まらない思考がグルグル回ったまま固まっている。
空いた底をじーっと見つめながら、壊しちゃったどうしよう壊しちゃったどうしようと。
それはまるで考えていないのと殆ど変わらないのだが、完全にパニックになっているのでどうしようもない。
少女は今まで色々と壊しているが、幸いな事に人のお気に入りな物はほぼ壊さずに済んでいる。
力の加減が下手だった時期は、解っている物はなるべく近づかない様に対処もしていた
ただ今回は使用人の中ではすこーしだけ厳しめの、複眼のお気に入りの鍋だ。
まあ厳しいと言っても基本は甘いし可愛がっているのだが。
そんな複眼の鍋を壊してしまった事で、少女は完全に思考が働かなくなっている。
とはいえ壊れ方的にドジって壊した訳ではない事に気が付くだろうが、今の少女にそんな考えが浮かぶはずがない。
有るのはただただ複眼のお気に入りの物を壊してしまったという焦りだけだ。
「ちみっこ、できてるー?」
そこに他の仕事を終えて台所に来た複眼が声をかけた。
少女はぴきゅ!?っとまた変な声を出して驚き、鍋を掲げたままギギギと錆びたロボットの様に振り向く。
複眼は少女の反応に怪訝な顔をしていたが、少女が手に持つ物を見て合点がいった。
少女は鍋に空いた穴越しに複眼の顔を見て、何も言わない様子に余計に焦りが湧いて来る。
ただし複眼は「新しい鍋買わなきゃな」と、余り気にしていないのだが。
調理器具なんてものは消耗品だ。たとえお気に入りであっても何時かは壊れる。
どれだけ大事に大事に使ったとしても、絶対に壊れないなんて事は有りえない。
長年料理を好きでやっている複眼にとってそんな事は当たり前だ。
だが少女は複眼の様子に言葉も無い程なのかと受け取ってしまう。
罪悪感でうりゅっと涙が溜まりそうになる少女だが、キュッと目を瞑って我慢するとそのまま頭を勢い良く下げた。
今の少女は叱られる覚悟ではなく、怒られる覚悟をして待っている。
だが下げた頭にポンと優しく手を置かれ、少女は恐る恐る顔を上げた。
「気にしなくて大丈夫。壊れ方的に元々弱ってたのかもしれない。これだけ綺麗に割れる事はそうそうないし、事故は事故でも防ぎようのない事故だよ。へーきへーき」
複眼は少女の頭を撫でながら、反対の手で鍋の底を確認する。
余りに綺麗な壊れ方に落とした訳ではないという事は解るし、こんな壊れ方普通はしない。
むしろ面白い壊れ方をしたなと少し楽しんでいるぐらいだ。
「私が気に入って使ってるから気にしたんだろうけど、これは今日が寿命だっただけだよ」
複眼の言葉にほっと息を吐き、少女は安心して先程我慢した涙がほろほろと流れる。
「ああほら、大丈夫大丈夫。怒ってないよ。ちみっこは泣き虫だなぁ」
少女は怒られる事や叱られる事には涙を我慢出来たのに、安心して泣きだしてしまった。
そんな少女を優しく抱きしめ、背中をポンポンと泣き止むまで優しく叩く複眼。
料理を再開するにはもう暫くかかりそうだが困った様子は無く「この子はまだまだ手がかかるなぁ」と楽し気に感じているのであった。
台所に着くと鍋を出し、指示された材料を用意して行く少女。
そして複眼が来る前に解る範囲で下ごしらえをして、鍋をコンロに置き直そうと持ち上げる。
するとすぽっと底が抜け、鍋の底という名のお皿が出来上がってしまった。
少女は穴が開いた瞬間ひゅい!?と声を出し、穴を見る様に掲げてフリーズしてしまう。
この鍋は少女の記憶が間違いでなければ、複眼が気に入って良く使っている物だ。
いや、知っているからこそこの鍋を出したのだが、それが壊れてしまった。
これは少女にとって、前回の食器全滅よりも重大な事件だ。
少女は頭の中で纏まらない思考がグルグル回ったまま固まっている。
空いた底をじーっと見つめながら、壊しちゃったどうしよう壊しちゃったどうしようと。
それはまるで考えていないのと殆ど変わらないのだが、完全にパニックになっているのでどうしようもない。
少女は今まで色々と壊しているが、幸いな事に人のお気に入りな物はほぼ壊さずに済んでいる。
力の加減が下手だった時期は、解っている物はなるべく近づかない様に対処もしていた
ただ今回は使用人の中ではすこーしだけ厳しめの、複眼のお気に入りの鍋だ。
まあ厳しいと言っても基本は甘いし可愛がっているのだが。
そんな複眼の鍋を壊してしまった事で、少女は完全に思考が働かなくなっている。
とはいえ壊れ方的にドジって壊した訳ではない事に気が付くだろうが、今の少女にそんな考えが浮かぶはずがない。
有るのはただただ複眼のお気に入りの物を壊してしまったという焦りだけだ。
「ちみっこ、できてるー?」
そこに他の仕事を終えて台所に来た複眼が声をかけた。
少女はぴきゅ!?っとまた変な声を出して驚き、鍋を掲げたままギギギと錆びたロボットの様に振り向く。
複眼は少女の反応に怪訝な顔をしていたが、少女が手に持つ物を見て合点がいった。
少女は鍋に空いた穴越しに複眼の顔を見て、何も言わない様子に余計に焦りが湧いて来る。
ただし複眼は「新しい鍋買わなきゃな」と、余り気にしていないのだが。
調理器具なんてものは消耗品だ。たとえお気に入りであっても何時かは壊れる。
どれだけ大事に大事に使ったとしても、絶対に壊れないなんて事は有りえない。
長年料理を好きでやっている複眼にとってそんな事は当たり前だ。
だが少女は複眼の様子に言葉も無い程なのかと受け取ってしまう。
罪悪感でうりゅっと涙が溜まりそうになる少女だが、キュッと目を瞑って我慢するとそのまま頭を勢い良く下げた。
今の少女は叱られる覚悟ではなく、怒られる覚悟をして待っている。
だが下げた頭にポンと優しく手を置かれ、少女は恐る恐る顔を上げた。
「気にしなくて大丈夫。壊れ方的に元々弱ってたのかもしれない。これだけ綺麗に割れる事はそうそうないし、事故は事故でも防ぎようのない事故だよ。へーきへーき」
複眼は少女の頭を撫でながら、反対の手で鍋の底を確認する。
余りに綺麗な壊れ方に落とした訳ではないという事は解るし、こんな壊れ方普通はしない。
むしろ面白い壊れ方をしたなと少し楽しんでいるぐらいだ。
「私が気に入って使ってるから気にしたんだろうけど、これは今日が寿命だっただけだよ」
複眼の言葉にほっと息を吐き、少女は安心して先程我慢した涙がほろほろと流れる。
「ああほら、大丈夫大丈夫。怒ってないよ。ちみっこは泣き虫だなぁ」
少女は怒られる事や叱られる事には涙を我慢出来たのに、安心して泣きだしてしまった。
そんな少女を優しく抱きしめ、背中をポンポンと泣き止むまで優しく叩く複眼。
料理を再開するにはもう暫くかかりそうだが困った様子は無く「この子はまだまだ手がかかるなぁ」と楽し気に感じているのであった。
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