角持ち奴隷少女の使用人。

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145、大惨事。

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どうしてこうなったのだろうか。少女は目の前の惨状を見つめながらそんな事を考えていた。
切っ掛けは些細な事だったのに、その些細なきっかけにより大惨事となっている。
世の中は往々にしてその様な出来事が溢れているんだろうなぁ、等と変な方向に思考回路が働いている少女。間違いなく現実逃避である。

今少女は台所に居り、目の前には倒れた棚と、その棚に入っていた食器の無残な姿が。
オーブンやレンジなどの調理器具も棚の下敷きになって歪んでいる。
呆然とその状況を見つめる少女の横では犬が何だか申し訳無さげな感じで座っており、その口元には良く解らずにぶなーと鳴いている猫の姿が有った。

切っ掛けは本当に些細な事だったのだ。
犬の背中に乗った猫が少しずり落ち、少女がそれを掴みに行こうとした。
だが犬は最早慣れたものといった様子で体を丸めて支え、猫を咥えて元に戻そうとする。

少女はそれを見てほっとしたのだが、思ったより勢いが付いていた動きは本来踏み止まる予定の位置より前に止まろうとして、当然止まれるはずもなくこけそうになる。
危ないと思い手を突いた先が食器棚であり、少女の力の強さに棚がグラッと揺れた。

このままでは犬と猫が下敷きになると思い慌てて支えようと棚の前に向かったのだが、その際に何かの電源コードをひっかけてしまう。
普通なら人間側がこけるかコンセントから抜ける程度であろうが、異様な力で引っ張られたコードは本体の方が飛ぶという惨事に。
それも運の悪い事に犬の方に飛んで来たので、少女は慌てて犬を抱えて逃げ、犬も絶対に猫を離さない様にと力を入れて咥えていた。
ちょっと痛かった様で猫は状況も解らず少し怒っていた。

そしてその逃げる際にも何かをひっかけてと、最終的に見るも無残な状態になっている。
何時もなら慌てて片付けて報告に行き謝りに行く少女だが、余りに惨状が酷くて思考が働いていないようだ。
とはいえこの惨状では流石に無理も無いだろう。

「角っこちゃん、なんか凄い音してたけど大丈夫かーい?」

少女が立ち尽くして現実逃避をしている所に、彼女が少し慌て気味に駆け寄って来た。
彼女は先程少女が台所に向かう所を見ていたので「角っこちゃんの事だからまた何かやらかしたんだろうなー」とは思っているが、音が大きかったので心配で少し急いでいる様子だ。
そうして台所に向かい、状況を見た彼女も一瞬固まってしまう。

「・・・え、何が起こったらこうなるの」

ごもっともな言葉に少女はハッと正気に戻り、改めて惨状を見て涙目になりながら頭を下げる。
そうして取り敢えず倒れた食器棚を戻そうとして、その際に実はまだ棚に無事に残っていた食器もばらばらと落ちて全滅した。
少女の頭は最早完全に真っ白である。

「あ、ああ、えっと、あー、どうしよう、か。取り敢えず危ないから、一旦棚を置こうね。割れた食器も手で片付けるのは危ないから、箒取って来ようか。君らもこっち来ちゃ駄目だよー」

棚を持ち上げたまま無表情で固まる少女に困惑しつつも、彼女は何とか指示を口に出す。
少女は涙目になりながらそれに従い棚を戻すと、トボトボと箒を取りに行った。
何時もの元気が無い少女だが、この惨状では致し方ないだろう。

以前も何かを壊す事の有った少女だが、これだけいっぺんに破壊した事は無い。
そもそも最近はそんな事も少なくなってきていた所にこの惨状だ。ショックは中々に大きい。

そうして片づけに入ろうとしていると他の住人達もぞろぞろと様子を見に来た。
余りの惨状に皆彼女に確認をとるのだが、その度に少女はうりゅと目に涙が溜まる。
くしくしと涙を拭きながら掃除を続ける少女に、皆何となく察したのであった。

「おチビちゃん、怪我はない?」
「天使ちゃんが怪我が無くて良かったー」
「ちみっこに怪我は無しか。刃物は別に所の置いておいて良かった・・・」
「怪我は無いんですね、良かった」
「もう良い解った、謝るな。怪我は無いな。次から気を付けろ」
「あーあー、こりゃひでえ。まあ怪我が無いなら良いが」

少女は駆け付けた住人達に謝ったのだが、この通り少女の怪我が無いかだけを気にしている。
それが尚の事申し訳なく、泣きそうになるのをぐっと堪えて掃除を続けた。

その後は皆で食器を片付けて、綺麗になった台所に残るは無残な調理器具。
特にレンジとオーブンはかなりの頻度で複眼が使っている為、壊れたそれらを見つめる複眼に少女は頭を下げた。
持ち主は男なのだが、その辺りは今の少女に言ってもどうしようもないだろう。

「これは使え無さそうかな。という訳で新しいの宜しくお願いしますね、旦那様」

複眼は少女の頭を撫でながら、男にもう使えないと告げる。
その事実に少女はまたうりゅっと涙を溜めるが、大丈夫大丈夫と頭を撫でる複眼。

「まあ、しょうがねえか」
「では、これなんてどうでしょう。これも良いですよ。後これも欲しいです。ああ、このさいついでにこれも買ってはどうでしょう」

複眼の言葉に男が応えると、複眼は嬉々として端末を取り出し画像を見せながら男にすり寄る。
そこには壊れた器具の買い替えだけではなく、屋敷に無い道具も多くあった。
普段から欲しいなと思っていた物をここぞとばかりに買わせる気である。

普段物静かな複眼の勢いに男は呑まれており、確実にいくつかは予定外の物を買う事であろう。
仕事ならば圧されない男だが、私生活だと若干ヘタレである。
女はその様子に少し呆れながらも口を出す気はない様だ。

「ま、そういう訳で良い機会だったって事だねー」

彼女が笑顔で少女の頭を撫で、少女は不安げに首を傾げながらも頷く。
ただ惨状が余りに酷かったことは理解しているし、今回は大失敗だ。
その上で皆が許してくれた事を解らない少女ではない。
頷きつつも、やはりその表情は優れなかった。

ただ猫だけは状況が良く解っておらず、それでも少女が気落ちしている事だけは解っており、慰める様にぶな~と鳴く。
守るべき存在に心配されている事実に、少女はふんすと気合いを入れ直すのであった。







「ねえ、あんたオーブン壊れてるの見た時、内心「やった!」って思ってたでしょ」
「うん、新しいの欲しかった」
「角っこちゃん出汁にしたんだから、ちゃんとフォローしてよ」
「解ってる解ってる」

等という会話も後に有ったそうな。
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