角持ち奴隷少女の使用人。

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143、いつも通り。

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わーいと元気よく駆ける少女と、それにワフワフと鳴きながら楽しそうに並走する犬。
あれから数日たち、少女はやっと屋敷の外に出られる事に喜んでいる。
久々の庭以外の屋外疾走なせいか、逆に犬が追い付けていない程に夢中だ。

そんな様子を見てクスクスと笑いながら追いかける彼女と、その胸元でぶなーと鳴きながら手足をバタバタさせて気分だけ一緒に走っている猫。
実際に走らせると少女の歩行より遅いから抱えている訳なので、絶対に追いつけないだろう。

とはいえあんまり動かなさ過ぎても良くないので、ある程度は歩かせている。
ただ猫の動きはとても遅くてどんくさい為、単眼と少女がまったりと見守っている事が多い。
そこだけ時間が遅くなったかの様な空間が出来上がっており、少々邪魔をするのが憚れる雰囲気の世界が良く構築されている。

「あはは、本当に元気だねぇ・・・これなら何も問題も無さそうかな」

笑顔でバタバタ走り回る少女を眺めながら彼女はぽつりと呟く。
少女は起きた後、当時の事を何も覚えていなかった。
蝙蝠男との戦いは勿論の事、単眼の足を直した事も一切だ。

あの時の少女が少し普通ではなかったとはいえ、それでも記憶が無いという事は心配になる。
とはいえ彼女はその時気絶していたので良く解っていない。
羊角と単眼、後は少年から聞いた話でしかないので余り実感はない様だ。

「ま、角っこちゃんが元気ならあたしはそれでいーや」

何とも彼女らしい気楽な結論を口にしながら、もう豆粒になっている少女を追いかける。
いつの間にかかなり離れた所まで駆けている少女。
どうにも楽しくて仕方ない様だが、目の届かない範囲に行かれては彼女も少し困る。

「角っ子ちゃーん! 戻っておいでー!」

だがそうやって声をかければ、素直にはーいと返事をして戻って来るので問題は無い。
ただし戻って来る時も全力で、勢いが良すぎて彼女も少し怖い様だ。
直前で速度を落とすとはいえ、少女は偶にすっころんで飛んで来る事が有るので油断出来ない。

とはいえリードを握っているので犬が走れない速度ではないのだが。
だとしても小さくない犬の全力疾走なので、下手な車など追い越す速度。
その速度で人間が突っ込んでくれば普通は誰でも怖いだろう。

「ホント元気だなぁ。楽しそう」

それでも満面の笑みで戻って来る少女を見みていると、どうしても笑みがこぼれる彼女。
あんな事が有ったとは思えない程に少女はいつも通りだ。
楽し気な少女につられてしまっているが、彼女はそれが楽しいらしい。

「いや、むしろ覚えてないから、かな。その方が良いのかも」

少女は当時の事を覚えていない。蝙蝠男相手に何をしたのかを。
そしてその蝙蝠男が最後どうなっていったのかも、全く記憶に無い様だ。
だが彼女だけではなく、男や女も彼女と同じ様に思い詳しい話はしていない。

女にも目が覚めた後に色々確認したが、しっかりと蝙蝠男の事を覚えていた。
記憶の無い少女と記憶のある女。そこにどんな要因が有るのかは解らない。
だが少女が心安らかに居られるなら、それが一番だろうと皆思っている。

「ま、あたしは別に二人が何だろうと本当にどうでも良いしなぁ」

他の皆がどう判断するかは、根っこの所は解らない。
だけど彼女は少女と女がいる屋敷での生活が好きだし、あの事件が有ってもそれは変わらない。
雇い主も気楽な人だし待遇も良い。危ない事に慣れっこの身としては全然問題無い。
少女は可愛くて良い子で、女は怖いけどやり易い先輩。彼女にとってはそれで十分な様だ。

「おっかえりー」

ブレーキをかけて砂埃を上げながら目の前で止まった少女を彼女が抱きしめると、きゃーっと楽し気に抱き返して来る少女。
猫もぶなーっと鳴きながら抱きつき、それに気が付いた少女は猫も優しく抱きしめる。
普段と同じな素直で優しい少女の様子をみて、彼女はいつも通りの生活に満足するのであった。



犬は「僕も混ざって良いのかな」とそわそわしていたのだが、気が付いた少女が後でギューッと抱きしめたので満足な様だ。
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