角持ち奴隷少女の使用人。

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141、少女の力。

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「それは・・・私が居ない間にそんな事が。力になれずに申し訳ありません」

屋敷に異変が有ると聞き慌てて来た老爺は男から説明を聞き、申し訳なさそうに頭を下げる。
老爺がやって来た時には全てが終わっており、せめて後の事だけでもと手伝っていた。
当然男は責める気など無いし、むしろ駆けつけてくれた事に感謝している。
なにせ老爺は事情を全て知る人間だ。化け物が暴れていると、解ってやって来たのだから。

「気にしないでくれよ。偶々そうだっただけだし、昔だって偶々居ただけだろ」
「旦那様・・・ありがとうございます」
「礼を言うのは、それもそれで何かおかしくねえ?」
「ははっ、お気遣いに礼を述べただけですよ」

男は気遣ったつもりではなく、ただ単に本心からの言葉だ。
当然老爺も男の性格を解ってはいるが、それでも礼を口にしていた。
お互いにお互いの性格をある程度解っているからこそ、その話はそこで終わる。

「しかし、良かったですな。怪我人が殆ど居なくて」
「爺さん爺さん、俺の肩見て。外れてはめなおして、めっちゃ痛いから。包帯めっちゃ巻いてるから。打撲も有るから」
「良かったですなぁ、旦那様の脱臼と打撲だけで済んで」
「良くねえよ、いてえよ。何で俺だけなんだ・・・つーか爺さん、今の何気に酷くねえか」
「はっはっは」
「笑って誤魔化しやがった・・・」

男は老爺に応えながら顔を顰め、ベッドで寝ている女と、女の手を握って離さずに隣で寝る少女に視線を向ける。
そしてその二人の面倒を、普通に立って見ている単眼の姿が有った。
蝙蝠男に折られたはずの足は何処にも怪我らしい様子は無く、当たり前の様に立っている。

あの騒動の後、少女は倒れている単眼の傍に寄ると、その足に優しく触れた。
暫くして手を離すと女の下へ向かい、女の手を握ってぱたりと倒れた。
男と単眼が慌てて少女と女の下へ向かい、そこで単眼は足が治っている事に気が付く。
痛みは一切無く、傷痕も一切無く、しっかりと立てていたのだ。

「不思議な子、ですな。本当に」
「何なんだろうな、あの子の角は。本当にあいつとは違うらしい」
「御付き様には出来ない、はずですよね」
「出来ねえだろ。一度も使った所は見てねえし、出来るならやってるはずだ。あいつならな」
「そう、ですよね」

少女の不思議な力は今に始まった事では無いが、今回ばかりは驚きが大きい。
なにせただ女よりも強大な力を持っていたのではなく、他者の怪我を治したのだから。

男の記憶にそんな事をした女は居ない。
有るのはただ破壊と殺戮を目的とした化け物としての姿だけだ。
いや、意識がしっかり有る時でも、そんな事をして見せた事は一度とてなかった。

「警察は呼んだのですよね?」
「あー・・・まあ、うん、またあいつに借りを作っちまったけど」
「ご友人を呼ばれたのですね。宜しいと思いますよ」

田舎町で家が離れているとはいえ、あれだけ大暴れすれば周囲の住人達も気が付く。
少女の事が有る以上変に隠し過ぎると余計な面倒になると思い、男は友人に助けを求めた。
友人ならば上手く事を運んでくれると思っての事だが、それは事実その通り上手くやってくれたらしい。
おかげで当日だというのに既に落ち付き、男も治療を受け終わっていた。

「殺人罪に問われなさそうで良かったよ」
「死体が有りませんし、問われないでしょうね。問われたとしても正当防衛でしょう」
「どうかなぁ・・・相手素手だったからな。こっち銃使ってるし」
「とはいえあの惨状を引き起こして危険が無い、とは判断されないでしょう」

屋敷の惨状は酷い物であり、庭は当然屋敷自体もボロボロだ。
壁は完全に崩れている所も有るし、使い物にならなくなっている部屋も有る。
この惨状で相手に悪意が無かった、とは流石にならないだろう。
とはいえその相手がもう何処にも居ない以上、ある程度事情をでっちあげているのだが。

「ま、でも実際、俺意外に怪我人が居なかったのだけが救いだな。結果的にだけど」

彼女と複眼は衝撃で気絶こそしていたが、怪我らしい物はしていなかった。
後々精密検査もしたが異常は無しの健康体。
単眼も念の為見て貰ったが、足はやはり何の問題も無かった。

羊角と少年は当然怪我をしていないし少女も無傷だ。
女も病院に連れて行きたくはあったのだが、少女が手を離さないので後回しにしている。
ただ何となくだが、きっと大丈夫だと男は感じていた。

「やっと死ねる、か・・・だったら最初からそう言えっつの、くそっ」
「どれだけの時間を生きていたんでしょうな・・・疲れていたのかもしれませんね」
「はっ、だからってうちの連中傷つけたの許せるかよ」
「そこで俺に怪我させたのを、と言わない辺り旦那様らしいですな」
「・・・真面目に話してる時に茶化すの止めてくれない?」
「はっはっは、これはすみません」

蝙蝠男の最後の言葉。それはどれだけの時間を生きた上での言葉だったのか。
少なくとも手段を選ばない程度に、思考を止めてしまう程に長い時間だったのだろう。
それはつまり、同じ思いを女と少女もするのではという事でも有る。
二人ともその事を考えながらも、わざと口にはしていない。

「ま、これで取り敢えず暫くは平和だな」
「やっとあの子も外に出かけられますな」

思う所は幾らでもある。だが今それを口にする程野暮ではない。
今はただ皆が無事である事を喜び、今暫くの平和を享受する事だけを考える事にした様だ。

「とは言っても、今後の事も話さねえとなぁ・・・・」

ただし今回は運が良かっただけだ。確かに今回の被害は男と屋敷だけ。
だが運が悪ければ使用人達は皆死んでいたかもしれない。
今回の出来事は皆がそう感じるに十分な出来事なだけに、女が目を覚ました後にその話をしなければと、頭を悩ませる男であった。







とはいえ使用人達は辞めるなどという事は一切考えて居ない様子である

「いやー、今回はスリリングだったね!」
「アンタ、良くそれで済ませられるわね・・・私はもうあんな緊張する射撃したくないわ」
「天使ちゃんに怪我が無くて良かったー」
「あの、おチビちゃんは怪我してないけど、旦那様が怪我してるからね?」

等と気軽に世間話をするぐらいであり、後に引きずった様子は余り無い。
いつも通りの使用人達の様子を見て、逆に男が面食らうのであった。
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