130 / 247
128、蝙蝠の判断。
しおりを挟む「・・・余りに情報が少ない。まるで意図的に隠されている様だ」
少女を見つけた日から、蝙蝠男はずっと少女を捜し続けていた。
最初の情報で手に入れた遊戯場は勿論、周辺の聞き込みもやっている。
だがそれでも情報は皆無と言って良い程に無く、全く成果は上がっていなかった。
「せめてあの動画か写真をコピー出来ていれば」
まさかあんなにすぐ消えるとは思っておらず、蝙蝠男は何も保存していない。
そして元データの持ち主達も諸々の事情からデータを消している。
友人が余りに全力で事に臨んだ為、データの持ち主は裁判沙汰になる可能性が有った為だ。
それにより少女の姿がネットに再度上がる事は無く、半ば都市伝説のような扱いになっている。
尚、蝙蝠男は聞き込みの最中に何度か警察を呼ばれている。
ただし警察が現場に到着する頃には蝙蝠男の姿は無く、目立つその翼にも関わらず誰もどこに向かったのかが解らない様になってしまう。
とはいえ警察がくればそこでの聞き込みはままならず、尚且つ警察の来る頻度と早さが日に日に上がっていた。
「・・・逆に怪しい、な」
警察が余りに仕事をし過ぎている。
勿論この辺りはそれなりに仕事をする警察組織のいる土地だが、だとしても仕事熱心過ぎる。
たかが人探しをしている男一人の為に、連日即出動はどうにも不可解だ。
その上現場に駆け付ければ本人は居ない。悪戯通報と考えてもおかしくない。
「隠されている、というのは間違いないだろう」
蝙蝠男はそう思考し、この地に留まる事への意味を見出していた。
これらの事は友人の根回しが存在するのだが、蝙蝠男には逆効果になっていた様だ。
勿論友人のおかげで少女が見つかっていないことは事実なのだが、現状を冷静に見た蝙蝠男は少女が隠されていると確信している。
何より隠されていると思った理由が、情報を売る事を生業にしている人間すら口を閉じた事だ。
勿論本当に知らない可能性もあったが、腕や足を折っても何も情報を吐かなかった。
そのせいで裏家業の人間にも追われる羽目になっている蝙蝠男だが、そちらは全く意に介していない様だ。
「これ以上の聞き込みは無駄だな。せめてデータを上げた人間が解れば、そいつを締め上げられるんだがな」
蝙蝠男は聞き込みを諦める事を口にするが、それは少女を捜す事を諦めた訳では無い。
むしろ少女がここからそう遠くない所に居ると確信を持った以上、諦める訳が無いだろう。
「あの娘が街に良く出没していれば、もっと大きな噂になっていてもおかしくはない。一度でもネットに上がったなら尚の事だ。となると普段は外に出ないような生活をしているか、目立たない田舎町に居る可能性が有る」
蝙蝠男は限りなく正解に近い事を口にするが、それはあくまで近いだけの話。
田舎町なぞ大量に有るし、国中歩いて調べるには余りに広すぎる。
何年かければ見つけられるのか、という様な気の遠い話だ。
普通なら、そう、思うはずだ。
「やっと見つけたんだ。絶対に諦めん」
蝙蝠男は何年かかってでも探す事を胸に決め、その場から大きく空に飛び立つ。
人が豆粒ほどの大きさに見える高度まで難なく上昇し、その場で滞空して周囲を見回す。
「時間は有る。腹が立つぐらいにな・・・必ず、見つけてやる」
そう小さく呟いた蝙蝠男は、ふうと気合を入れる様に息を吐く。
すると蝙蝠男の額に、少女とよく似た、大きな一本の角が現れた。
同時に感情が抜け落ちた様な無表情になり、そのまま何処かへ高速で飛び去って行った。
その頃少女はというと、くちんと可愛いくしゃみをして、何だか寒気を感じていた。
それも只寒い訳では無く、何だか変に背中にくる怖気のような寒気。
ぞくっとくる寒気にプルプルしていると、心配そうに単眼が顔を覗き込む。
「おちびちゃん、大丈夫? んー、熱は、なさそうだね。ちょっと冷えちゃったかな?」
手では大き過ぎるので指先を少女の額に当て、熱が無い事を確認する単眼。
少女もずびっと鼻を鳴らすも、特に不調な感じはない様だ。
今回は我慢している訳では無く、本当に特に問題ないらしい。
なので少女は両手をぱーっと広げ、元気ですとどや顔で単眼に返した。
「ふふっ、そう、元気なら良いんだけどね。でもやっぱり冷えちゃうと良くないし、お風呂に入って温まろっか」
少女の返しに思わず目じりを下げながら、単眼は少女を抱き上げる。
そのまま二人はお風呂に向かい、ほへーっと気を抜いて温まるのであった。
因みに少女はこの時点で、何だか良く解らない寒気の事は完全に忘れてしまった様だ。
元々少女は余り深く考える方ではなかったが、男や彼女の影響が出ている気がしなくもない。
とはいえ現状は特に何も無いので、ごっきゅごっきゅと風呂上がりの牛乳を幸せそうに飲む少女であった。
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~
トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。
旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。
この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。
こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。
恥ずかしい 変身ヒロインになりました、なぜならゼンタイを着ただけのようにしか見えないから!
ジャン・幸田
ファンタジー
ヒーローは、 憧れ かもしれない しかし実際になったのは恥ずかしい格好であった!
もしかすると 悪役にしか見えない?
私、越智美佳はゼットダンのメンバーに適性があるという理由で選ばれてしまった。でも、恰好といえばゼンタイ(全身タイツ)を着ているだけにしかみえないわ! 友人の長谷部恵に言わせると「ボディラインが露わだしいやらしいわ! それにゼンタイってボディスーツだけど下着よね。法律違反ではないの?」
そんなこと言われるから誰にも言えないわ! でも、街にいれば出動要請があれば変身しなくてはならないわ! 恥ずかしい!
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる