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122、警戒。
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少女は悲しげな表情を見せ、しゃがみ込んで犬に目線を合わせてウルウル瞳で見つめていた。
犬もくーんと寂しそうに鳴きながら、お座りして少女を見つめ返している。
暫くすると少女はギューッと犬を抱きしめ、犬も悲し気にすり寄っていった。
それはさながら今生の別れを惜しむ様で、傍から見てもどこか胸に来る光景だ。
「・・・何かあたしが凄く悪い事してる様に見えるんだけど」
犬のリードを持つ彼女は、ひしっと抱き合う犬と少女を困った表情で眺めている。
これではまるで自分が少女と犬を引き離そうとしている様だと、何だか悪役気分になっていた。
別段彼女も引き離したい訳では無いのだが、どうしたものかとなやんでいる。
ただこれには事情が有り、先日の少女を捜している人物を警戒しての事だ。
普段から良く犬の散歩に自ら向かう少女なのだが、今日はお留守番を言い渡されていた。
ちょっと寂しいけども女の言いつけなので犬を見送る少女だったのだが、犬が外に出て数歩進んだところで「何で来ないの?」と首を傾げた事でこうなっている。
少女は悲し気な表情のまま犬から離れ、眉を八の字にして小さく手を振る。
いつまでもこのままではいけないと、早くお行きと言うかの様に。
犬は悲し気にキューンとひと鳴きしてから立ち上がり、チラチラと少女に振り返りながら散歩に向かっていく。
少女が見えなくなるまで何度も何度も振り返り、そんな犬に少女もずっと手を振り続けていた。
「・・・これ、もしかして毎日やるのかな」
当然だが散歩が終われば犬は帰って来る。
そして暫く少女は散歩に行けないので、また似たような光景が繰り広げられる事だろう。
彼女は帰って来た時に犬に抱きつく少女を予想しながら、犬に問う様に口にする。
犬は解っているのか解っていないのか、首を傾げながら小さく「わふぅ?」と鳴いていた。
そして犬が散歩の最中の少女はというと、犬が見えなくなって暫くしたところでパンパンと頬を叩き、小さな紅葉を頬に作りながらふんすと気合を入れる。
今日は犬の散歩をしない分、少しでも屋敷のお仕事を頑張るつもりの様だ。
ただパタパタと忙し気に動いているが、効率は余り変わらない様に見える。
そもそも少女は体がちまっとしているし不器用なのだ。
少々急ぎ気味に動いたところでさほど変わる訳も無い。
だがそれでも一生懸命に動くその様は可愛らしいので、誰も特に何も言わないでいる。
様子をクスクス笑いながら見守る単眼と、いつも通り撮影している羊角。
そして何処か少しだけ気を張った雰囲気で、外の様子を見ている複眼の姿が有った。
「あまり気を張り過ぎるな。気にしてくれるのはありがたいが、ここまで来るならその時はもう警察を呼ぶだけだ」
「それは、まあ、そうですけど」
女は少し張りつめている複眼に声をかけるが、複眼は不安そうな顔を見せた。
何故ならここは田舎であり、警察を呼んだところで来るにはかなり時間がかかる。
ならば結局の所、ある程度は自衛しなければならないと思っているからだ。
「それに流石にここまで来る様な事は無いだろう。あの子を外に出さない限りはな」
「・・・そうだと良いんですけど」
複眼の不安は女も良く解っている。
友人が早めに動いて消したはずの情報だけを手掛かりに少女を捜しに来る様な人間だ。
何か有るとみて間違いないし、ここまで辿り着く可能性はゼロではない。
それに複眼は自分が付いていた時の事が原因だという事も気にしている。
だからこそ女は「お前のせいではない」という意味も込めて肩の力を抜く様に言ったのだ。
「もし事が起こった時は頼りにさせて貰う。だから余り気にするな」
「そうですね・・・ええ、解りました」
女の気遣いに感謝しながら、複眼は少し肩に力が入り過ぎていたと息を吐く。
そして気合いが入り過ぎて空回りし、躓いてころころと転がっていく少女を眺めるのだった。
犬もくーんと寂しそうに鳴きながら、お座りして少女を見つめ返している。
暫くすると少女はギューッと犬を抱きしめ、犬も悲し気にすり寄っていった。
それはさながら今生の別れを惜しむ様で、傍から見てもどこか胸に来る光景だ。
「・・・何かあたしが凄く悪い事してる様に見えるんだけど」
犬のリードを持つ彼女は、ひしっと抱き合う犬と少女を困った表情で眺めている。
これではまるで自分が少女と犬を引き離そうとしている様だと、何だか悪役気分になっていた。
別段彼女も引き離したい訳では無いのだが、どうしたものかとなやんでいる。
ただこれには事情が有り、先日の少女を捜している人物を警戒しての事だ。
普段から良く犬の散歩に自ら向かう少女なのだが、今日はお留守番を言い渡されていた。
ちょっと寂しいけども女の言いつけなので犬を見送る少女だったのだが、犬が外に出て数歩進んだところで「何で来ないの?」と首を傾げた事でこうなっている。
少女は悲し気な表情のまま犬から離れ、眉を八の字にして小さく手を振る。
いつまでもこのままではいけないと、早くお行きと言うかの様に。
犬は悲し気にキューンとひと鳴きしてから立ち上がり、チラチラと少女に振り返りながら散歩に向かっていく。
少女が見えなくなるまで何度も何度も振り返り、そんな犬に少女もずっと手を振り続けていた。
「・・・これ、もしかして毎日やるのかな」
当然だが散歩が終われば犬は帰って来る。
そして暫く少女は散歩に行けないので、また似たような光景が繰り広げられる事だろう。
彼女は帰って来た時に犬に抱きつく少女を予想しながら、犬に問う様に口にする。
犬は解っているのか解っていないのか、首を傾げながら小さく「わふぅ?」と鳴いていた。
そして犬が散歩の最中の少女はというと、犬が見えなくなって暫くしたところでパンパンと頬を叩き、小さな紅葉を頬に作りながらふんすと気合を入れる。
今日は犬の散歩をしない分、少しでも屋敷のお仕事を頑張るつもりの様だ。
ただパタパタと忙し気に動いているが、効率は余り変わらない様に見える。
そもそも少女は体がちまっとしているし不器用なのだ。
少々急ぎ気味に動いたところでさほど変わる訳も無い。
だがそれでも一生懸命に動くその様は可愛らしいので、誰も特に何も言わないでいる。
様子をクスクス笑いながら見守る単眼と、いつも通り撮影している羊角。
そして何処か少しだけ気を張った雰囲気で、外の様子を見ている複眼の姿が有った。
「あまり気を張り過ぎるな。気にしてくれるのはありがたいが、ここまで来るならその時はもう警察を呼ぶだけだ」
「それは、まあ、そうですけど」
女は少し張りつめている複眼に声をかけるが、複眼は不安そうな顔を見せた。
何故ならここは田舎であり、警察を呼んだところで来るにはかなり時間がかかる。
ならば結局の所、ある程度は自衛しなければならないと思っているからだ。
「それに流石にここまで来る様な事は無いだろう。あの子を外に出さない限りはな」
「・・・そうだと良いんですけど」
複眼の不安は女も良く解っている。
友人が早めに動いて消したはずの情報だけを手掛かりに少女を捜しに来る様な人間だ。
何か有るとみて間違いないし、ここまで辿り着く可能性はゼロではない。
それに複眼は自分が付いていた時の事が原因だという事も気にしている。
だからこそ女は「お前のせいではない」という意味も込めて肩の力を抜く様に言ったのだ。
「もし事が起こった時は頼りにさせて貰う。だから余り気にするな」
「そうですね・・・ええ、解りました」
女の気遣いに感謝しながら、複眼は少し肩に力が入り過ぎていたと息を吐く。
そして気合いが入り過ぎて空回りし、躓いてころころと転がっていく少女を眺めるのだった。
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