118 / 247
116、勝負事。
しおりを挟む「レイズ」
静かにそう告げる複眼を不敵な笑顔で見つめる彼女。
横ではドキドキした様子で二人を見つめる少女の姿も有った。
そしてニヤリと口を歪めた形のまま、彼女は口を開く。
「コール」
コールと言葉を発し、手に持つカードをテーブルに投げる彼女。
それは5枚のトランプであり、数字は6が三つ揃っていた。
少女はその手におーっと驚いた様子を見せ、手をパチパチ叩く。
「スリーカード! 流石に今回は勝ったでしょ!」
楽し気にそう言って胸を張る彼女であったが、複眼は表情を変えずにカードを投げる。
そこには同じくスリーカードが出来ていた。ただしAのスリーカードが。
少女は彼女に何と言って良いのか解らない様子の顔を向けている。
拍手の途中で止まっている手が物悲しい。
「はい、私の勝ち」
「なんでえええええ! おかしいって、あんた強過ぎるって!」
複眼の無情な勝利宣言に彼女は嘆き項垂れる。
それも仕方ない事で、彼女はここまでボロ負けであった。
因みにチップは今日のおやつであり、彼女は2枚のクッキーしか残っていない。
「強いも何も、あんたが一回も降りないからでしょうが」
「だって、勝負の時点でベットしてるんだから、何か降りたくないじゃん~」
ルールを完全に無視したような発言に、複眼は呆れた様に溜め息を吐く。
彼女がここまで負け続けているのは単純明快。
一度も勝負を降りずに勝負し続けた結果、最終的に複眼に搾取されたのであった。
「うえーん、折角の角っ子ちゃんのお菓子ー」
「言っとくけど、やろうって言い出したのアンタだからね」
嘆き机に突っ伏す彼女の頭をなでなでして慰める少女。
彼女は解り易くおよよと泣きながら少女に抱きつき、ぎゅっと頭を抱きしめて貰いに行く。
複眼はそれを冷めた目で見つめながら、手に入れた菓子を情け容赦なく食べている。
だが彼女はふと、何かを思いついた様な様子を見せて顔を上げた。
「角っこちゃんもちょっと勝負しない?」
笑顔で提案してくる彼女に少女は少し思案する。
だがすぐにニコーっと笑顔を返し、トランプを手に取る少女。
そしてたとたどしい手でシャッフルし、カードをお互いに配っていく。
「お、やる気だね?」
彼女は配られたカードを手に取り、少女も自分に置いたカードを取る。
そして複眼はその様子を見て、思わず吹き出しそうになったのを堪えていた。
何故なら少女は自分の手札を見た瞬間、物凄いがっかりした顔をしたのだ。
これでは「何も手が出来ていない」と教えている様なものだ。
「ド、ドロー」
彼女は狼狽えつつカードを交換し、少女もしょぼんとした様子のまま交換をする。
すると少女はむーっと困った顔でカードを見つめ始め、どうやらいい手が来なかった事が解る。
複眼はもう耐えられなくなり後ろを向いて震えていた。
彼女はそれなりに良い手が出来ているのだが、このまま勝負して良い物か悩み始めている。
だがしかし勝負を始めた以上、やるしかないとコールする二人。
「えっと、フルハウス」
彼女の手はフルハウスと中々良い手であり、対する少女の手は2のワンペア。
役にはなっているが、その中でも一番弱い役である。
彼女に回収されて行くお菓子へ悲し気にああっと手を伸ばすも、大人しく手を下ろして再度シャッフルを始める少女。
悲しげな様子の少女に彼女は悪い事をした気分になって来ている。
そんな複雑な様子のまま、次のゲームが開始された。
少女の手でゆっくりとカードが配られ、カードを確認する。
その瞬間少女はパァッと笑顔になり、どう見ても良い手が来た事が解った。
少女の解り易すぎる様子にお腹を抱えて蹲る様に震える複眼。
対して彼女はどう見ても降りるべき様子に目を細めながら困っている。
「あー・・・」
だがこんなに嬉しそうな表情を見て降りれるはずもない。
少女はレイズをして上乗せし、彼女は少し悩んでからコールした。
結果は少女がストレートであり、彼女は役無し。
勝てた事にわーいっと体全体で表現して喜ぶ少女を見て、負けたけどなんかもうこれで良いやと思う彼女であった。
「あー、結局お菓子が無くなったー」
「・・・ぷくくっ、あんたが、勝てない勝負、挑むのが・・・・くくっ、悪い」
「あれ見て勝ちに行くとか無理だよー・・・」
「ふふっ、そうね、私も無理かな」
心底楽しげな複眼と何かを諦めた彼女の会話を聞くも、良く解らずに首を傾げる少女。
どうやら勝負中の自分の表情の自覚は一切ないらしい。
だが彼女の手元に何も無いのを見て、少女はクッキーを手に取る。
「ん、角っこちゃん、くれるの?」
そのまま彼女の口元に向ける様に差し出し、あーんと咥える彼女。
モグモグと食べる彼女を見てニコーっと笑顔になり、彼女も笑顔で返して少女を抱きしめる。
「角っこちゃんは優しいねえ。もうだーい好きー」
頬をすりすりしながら好意を口にする彼女に応える様に、少女もきゃっきゃと頬を摺り寄せる。
勝負した意味無いなーと思いながら、本人が楽しそうなら良いかとクスッと笑う複眼だった。
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~
トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。
旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。
この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。
こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる