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108、何時かの未来。
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少女はルンルンとスキップをしそうな程ご機嫌に台所に向かっていた。
それは先程複眼からプリンが出来たから食べにおいでと言われ、複眼のプリンのおいしさを知っているが故のご機嫌である。
複眼のお菓子はお店の商品に引けを取らないので、ご機嫌になるのも致し方ないだろう。
なにせ複眼の作るプリンは良くあるキットで作る様な冷やして固めるものではなく、ちゃんと過熱して作るプリンなのだ。
その上クリームやら美味しいスポンジやらも一緒に入っており、器に凝っていれば店で買って来たと言われても信じてしまう程の物であった。
そんな以前食べた美味しいプリンの事を思い出しながら、ズレた鼻歌を歌いつつ台所に辿り着き―――――。
「勝手な事ばっかり言ってんじゃないわよ!」
複眼の怒号が耳に入り、ビクッと跳ね上がって固まってしまう少女。
気を付け状態で固まりながら複眼を見ると、とても怒った表情で電話をしていた。
複眼はそこで少女が驚きながら若干涙目になっている事に気が付き、しまったと言う顔を見せて一度深呼吸をする。
そして少女にごめんねと口だけ動かし、電話に意識を戻した。
「だから、そっちが勝手にやった事でしょ。あんたの面子なんて知らないわよ」
先程よりは落ち着いたが、それでもやはり怒った気配の複眼に少し不安になる少女。
複眼は叱ったりする事は有っても、怒る事は余り無い。
感情露わに話している様子に心配になりながら、電話の邪魔にならない様に静かに待つ。
複眼の電話の向こうでは、男性らしき声の人物がかなり大きい声で怒鳴っている。
漏れ聞こえる言葉からは「見合い」や「バカ娘」や「縁を切る」などと言う物が聞こえていた。
「あーはいはいそうですか、じゃあ親子の縁はこでれもう切れたって事で、二度と連絡してこないでよ。っさいわね、あんたが縁を切るつったんでしょうが! 自分の言葉に責任持てないなら口に出すな! あんたのそういう所昔から嫌いなんだよ! 良いか、二度と電話して来るな!」
複眼は最後の方はまた怒鳴り声になっており、少女は少し怯えながら様子を窺っている。
その事に気が付いている複眼はまたやってしまったと頭を押さえながら電話を切った。
するとすぐに呼び出し音が鳴り響いたが、即座に切った上に着信拒否設定をする複眼。
「ごめんね、驚かせて。プリンはもう冷やしてるから、今出すね」
既に飾りつけも済んだプリンを冷蔵庫から出そうとする複眼だが、少女が複眼の服の裾をくいっと引いた事で動きが止まる。
複眼は目の一つだけを少女に向けると、少女は心配そうに複眼を見上げていた。
先程の様な複眼を見たのは始めてなので、とても不安になっている様だ。
「そんな不安そうな顔しなくても大丈夫よ。良くある事だから」
複眼は少女の頭を一度優しく撫でてから冷蔵庫を開け、生クリームで飾りつけされたプリンを取り出す。
ガラスの器に飾り付けられたそれはとても綺麗で、少女は一瞬でぱぁっと顔を輝かせた。
そんな単純さに微笑ましく思いながらも、お菓子で変な人について行かないか少し不安になる複眼。
「はい、召し上がれ」
少女はワクワクしながらプリンを一口含み、んーっとこれ以上ない程に幸せそうな顔を見せる。
そんな少女を見て、先程の怒りが完全に消えるのを感じる複眼。
この子の幸せそうな様子は周囲も幸せにするな、等と思いながら少女を見つめていた。
「さっきの電話ね、親からだったのよ」
複眼に話しかけられ、口をもむもむしながら複眼に顔を向ける少女。
落ち着いた気持ちで先程の事を口にしている自分に、少し驚きながら複眼は話を続ける。
「良い歳して何時まで独り者つもりだ、ってね。何時までも田舎で働いてないで、結婚して街に戻ってこいって。勝手に見合い用意して、何で来ないんだ、だってさ。ホント勝手な話よね」
少女は複眼の話を静かに聞いていたが、内容を理解して寂しそうな表情になっていく。
複眼がここから居なくなる事を想像してしまったらしい。
その様子にふふっと笑みを漏らし、少女の頭を撫でながら複眼は口を開く。
「大丈夫。今の所出て行く予定はないわ。この屋敷は仕事場としては良い所だもの。とても田舎だって事を除けばね」
複眼の言葉に少女は笑顔になり、だけど複眼は少し寂しい顔をして続けた。
「でもね、いつまでも居る、とは言えない。私達が仕事でここに住んでいる所にちみっこが来た様に、何時か私達が居なくなる日は来るかもしれない。逆にちみっこがこの屋敷を出て行く日が来るかもしれない」
寂しそうで、でも優しい顔と声音で、少女に諭す様に語る複眼。
何時までも同じ状態が続くとは限らないと。
少女はその事をちゃんと受け止め、でもやっぱり寂しいと思い、しょぼんとした顔になってしまう。
自分が出て行くのも、複眼や他の皆が居なくなるのも、今の少女にとっては大きな出来事だ。
それでも仕方ないのだろうと、頭では思っている。
今自分が屋敷に居て幸せな様に、皆が幸せの為に何処かに行く事を受け止めなければと。
けど、それでも、やはり寂しいものは寂しく、想像すると少し泣きそうになる少女。
「ああ、ごめんね。泣かしたい訳じゃ無かったんだけど・・・でもね、ちゃんと考えておいた方が良いよ。ちみっこの、自分自身の幸せの為にも、ずっとこの屋敷に居る事が全てじゃないって」
複眼の言葉は解るけど解らない。
そんな矛盾した気持ちで少女は頷き、でもやっぱり悲しくなって泣き始めてしまう。
複眼は少女の頭を優しく抱きかかえて、こんなに自分の事を思ってくれる人が居るのは幸せだなと思っていた。
「あー、角っ子ちゃん泣かしてるー! いーけないんだ、いけないんだ、せーんぱいに言ってやろー!」
「子供かアンタは」
そこに彼女が茶化す様に乱入し、呆れた様に返す複眼。
何時も通りの二人の様子に、少しほっとした気持ちで笑う少女であった。
それは先程複眼からプリンが出来たから食べにおいでと言われ、複眼のプリンのおいしさを知っているが故のご機嫌である。
複眼のお菓子はお店の商品に引けを取らないので、ご機嫌になるのも致し方ないだろう。
なにせ複眼の作るプリンは良くあるキットで作る様な冷やして固めるものではなく、ちゃんと過熱して作るプリンなのだ。
その上クリームやら美味しいスポンジやらも一緒に入っており、器に凝っていれば店で買って来たと言われても信じてしまう程の物であった。
そんな以前食べた美味しいプリンの事を思い出しながら、ズレた鼻歌を歌いつつ台所に辿り着き―――――。
「勝手な事ばっかり言ってんじゃないわよ!」
複眼の怒号が耳に入り、ビクッと跳ね上がって固まってしまう少女。
気を付け状態で固まりながら複眼を見ると、とても怒った表情で電話をしていた。
複眼はそこで少女が驚きながら若干涙目になっている事に気が付き、しまったと言う顔を見せて一度深呼吸をする。
そして少女にごめんねと口だけ動かし、電話に意識を戻した。
「だから、そっちが勝手にやった事でしょ。あんたの面子なんて知らないわよ」
先程よりは落ち着いたが、それでもやはり怒った気配の複眼に少し不安になる少女。
複眼は叱ったりする事は有っても、怒る事は余り無い。
感情露わに話している様子に心配になりながら、電話の邪魔にならない様に静かに待つ。
複眼の電話の向こうでは、男性らしき声の人物がかなり大きい声で怒鳴っている。
漏れ聞こえる言葉からは「見合い」や「バカ娘」や「縁を切る」などと言う物が聞こえていた。
「あーはいはいそうですか、じゃあ親子の縁はこでれもう切れたって事で、二度と連絡してこないでよ。っさいわね、あんたが縁を切るつったんでしょうが! 自分の言葉に責任持てないなら口に出すな! あんたのそういう所昔から嫌いなんだよ! 良いか、二度と電話して来るな!」
複眼は最後の方はまた怒鳴り声になっており、少女は少し怯えながら様子を窺っている。
その事に気が付いている複眼はまたやってしまったと頭を押さえながら電話を切った。
するとすぐに呼び出し音が鳴り響いたが、即座に切った上に着信拒否設定をする複眼。
「ごめんね、驚かせて。プリンはもう冷やしてるから、今出すね」
既に飾りつけも済んだプリンを冷蔵庫から出そうとする複眼だが、少女が複眼の服の裾をくいっと引いた事で動きが止まる。
複眼は目の一つだけを少女に向けると、少女は心配そうに複眼を見上げていた。
先程の様な複眼を見たのは始めてなので、とても不安になっている様だ。
「そんな不安そうな顔しなくても大丈夫よ。良くある事だから」
複眼は少女の頭を一度優しく撫でてから冷蔵庫を開け、生クリームで飾りつけされたプリンを取り出す。
ガラスの器に飾り付けられたそれはとても綺麗で、少女は一瞬でぱぁっと顔を輝かせた。
そんな単純さに微笑ましく思いながらも、お菓子で変な人について行かないか少し不安になる複眼。
「はい、召し上がれ」
少女はワクワクしながらプリンを一口含み、んーっとこれ以上ない程に幸せそうな顔を見せる。
そんな少女を見て、先程の怒りが完全に消えるのを感じる複眼。
この子の幸せそうな様子は周囲も幸せにするな、等と思いながら少女を見つめていた。
「さっきの電話ね、親からだったのよ」
複眼に話しかけられ、口をもむもむしながら複眼に顔を向ける少女。
落ち着いた気持ちで先程の事を口にしている自分に、少し驚きながら複眼は話を続ける。
「良い歳して何時まで独り者つもりだ、ってね。何時までも田舎で働いてないで、結婚して街に戻ってこいって。勝手に見合い用意して、何で来ないんだ、だってさ。ホント勝手な話よね」
少女は複眼の話を静かに聞いていたが、内容を理解して寂しそうな表情になっていく。
複眼がここから居なくなる事を想像してしまったらしい。
その様子にふふっと笑みを漏らし、少女の頭を撫でながら複眼は口を開く。
「大丈夫。今の所出て行く予定はないわ。この屋敷は仕事場としては良い所だもの。とても田舎だって事を除けばね」
複眼の言葉に少女は笑顔になり、だけど複眼は少し寂しい顔をして続けた。
「でもね、いつまでも居る、とは言えない。私達が仕事でここに住んでいる所にちみっこが来た様に、何時か私達が居なくなる日は来るかもしれない。逆にちみっこがこの屋敷を出て行く日が来るかもしれない」
寂しそうで、でも優しい顔と声音で、少女に諭す様に語る複眼。
何時までも同じ状態が続くとは限らないと。
少女はその事をちゃんと受け止め、でもやっぱり寂しいと思い、しょぼんとした顔になってしまう。
自分が出て行くのも、複眼や他の皆が居なくなるのも、今の少女にとっては大きな出来事だ。
それでも仕方ないのだろうと、頭では思っている。
今自分が屋敷に居て幸せな様に、皆が幸せの為に何処かに行く事を受け止めなければと。
けど、それでも、やはり寂しいものは寂しく、想像すると少し泣きそうになる少女。
「ああ、ごめんね。泣かしたい訳じゃ無かったんだけど・・・でもね、ちゃんと考えておいた方が良いよ。ちみっこの、自分自身の幸せの為にも、ずっとこの屋敷に居る事が全てじゃないって」
複眼の言葉は解るけど解らない。
そんな矛盾した気持ちで少女は頷き、でもやっぱり悲しくなって泣き始めてしまう。
複眼は少女の頭を優しく抱きかかえて、こんなに自分の事を思ってくれる人が居るのは幸せだなと思っていた。
「あー、角っ子ちゃん泣かしてるー! いーけないんだ、いけないんだ、せーんぱいに言ってやろー!」
「子供かアンタは」
そこに彼女が茶化す様に乱入し、呆れた様に返す複眼。
何時も通りの二人の様子に、少しほっとした気持ちで笑う少女であった。
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