角持ち奴隷少女の使用人。

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102、大冒険。

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少女は屋敷を出発した後、ペースを変えずにぽてぽてとのんびり駅に向かっている。
当然上空から追いかけているドローンなど気が付くはずもなく、屋敷に居ない彼女と仕事をちゃんとしている複眼以外はモニター前に居る事も知らない。
男はもう完全に諦めているのと同時に、複眼が楽し気に台所に向かった事を恐怖していた。

「昼食に変な物出て来ませんように・・・」

そんな祈りを捧げつつ、台所に行って現実を知るのが怖いので見には行かない。
男は色々な事に向けて溜め息を吐きながら、モニターに映る少女に視線を向ける。

「このドローンかなり動作が安定してるな。本体見ずに操作してんのに。それにかなり遠くまで行ってるのにまだ操作出来るんだな」
「無茶な軌道させなきゃある程度自動制御してくれる、最新型のかなり遠距離迄飛ばせる物ですから。高い買い物でしたけど、天使ちゃんの初の一人のお出かけ記録の為なら・・・!」

羊角の何処から沸いて来るのか不明な情熱に男は呆れつつ、この為に買わせたのかと女に視線を向ける。
だが女は一切表情を変えずに口を開く。

「一応私も半分出しましたよ」

女のシンプルな答えに男は溜め息しか出ない。
金を出したどうこうの前に、この為だけに買ったのかという意味も有ったのだがと。
とはいえ羊角も全てを了承の上、ドローンに設置されているカメラは羊角の要望でかなり良い物が付けられている。
その分の金額も折半しているので、羊角にとってはむしろありがたい事であった。

「あ、おチビちゃん駅に着いたみたいですよ」

単眼が声をかけて来たので男は視線をモニターに戻す。
その言葉通り少女は駅に辿り着き、キョロキョロと周囲を見回していた。
初めて来た訳では無いのだが、一人で来た事で何だか違う場所に来た気分になっているらしい。

とはいえ田舎の小さな駅。見る物など殆ど無く、駅員室と待合小屋が有る程度の物。
少女がそれらをぽやっと眺めていると、ここに勤めている女性駅員が少女の存在に気が付いた。

「あれ、お屋敷のお嬢ちゃんだよね。今日は一人?」

と声をかけた駅員だが、実は少女が一人で来る事は知っている。
事前に女が手土産もって話しに来たので、微笑ましく思いながらこの日を待っていた。
少女はぽけっとしていたせいもあって、話しかけられた事に少々ワタワタとしてからペコリと頭を下げる。

「ふふっ、はい、こんにちは」

少女の可愛らしい様子にくすくすと笑いながら駅員は返事をし、モニター前の羊角も悶えながら見つめている。
もし自動制御の無いドローンであれば、今頃ガタガタと画面が揺れていた事だろう。

少女は少し照れ臭そうな様子を見せた後、一瞬動きが止まった。
その事に駅員は首を傾げるが、すぐに少女は再起動して懐からメモと許可証を出す。
切符を買おうと思ったのだが、どうやら目的地の名前が出て来なかったらしい。
なのでお使いメモを直接駅員に見せ、切符を発行して貰う事にした様だ。

「はいはい・・・これが許可証か、実際に見るのは初めてだなー」

駅員は許可証をマジマジと見ながら切符を発行する。
田舎ののんびりした町に奴隷などほぼ居らず、許可証などめったに見る機会が無い。
そもそもこんな田舎町では、少女の様な奴隷自体が珍しい存在だ。
なので物珍しい物を楽しむように確認しつつ、駅員は切符を少女に手渡した。

「はい、これが切符。無くさないようにね」

駅員が切符を渡すと、少女はにこーっと満面の笑みで受け取って頷く。
そして初めて自分で買った切符に特別感を感じながら、無くさない様に許可証と一緒に内ポケットに締まって、ムフー息を吐いてと満足げな様子を見せる。

「・・・これは可愛がっちゃう理由が解るなぁ」

少女の一連の様子に駅員は和み、屋敷の人間達の気持ちを少し理解した様だった。
そして当然その様子を見ているモニター向こうの者達もその様子に和んでいる。
特に単眼が、少女と同じ様にニコーっと笑顔になっていた。

「まだもう少し電車が来るまで時間が有るから、小屋の中で待ってると良いよ。外で待ってると寒いからね。暖かいお茶でも入れて来るから好きな所に座ってて」

駅員はそう言うと駅員室に引っ込み、持参している私物のガスコンロでお湯を沸かし始める。
ここに勤めている駅員はこの駅員一人なので、好き放題に私物を置いている様だ。
田舎の駅なので電車に乗る人間も少なく、降りる人間も少ない。
そもそも電車の本数自体が少ない。

少女は言われた通り待合小屋の中で待ち、設置してある簡素な椅子に座る。
ただ椅子にはクッションが用意されており、椅子自体は良い物でなくとも座り心地は悪くない。
ふかふか具合を少女が楽しんでいると、駅員は暖かいお茶を持って小屋に入って来た。

「今日寒いからか、ご近所のお婆ちゃんも来なくて大分暇だったんだ。電車が来るまでのんびりお茶に付き合ってよ」

そう言ってお茶を少女に手渡し、向かい側に座る駅員。
少女はぺこりと頭を下げて受け取り、暖かいお茶を飲んでほへぇっと気の抜けた顔を見せた。
そんな可愛い様子にまた駅員は和みつつ、他愛ない雑談をしながら電車を待つ二人。
そうして暫くまったりしていると、ゴトゴトと電車がやって来た。

「お、来たね。今日は20分遅れか。まあまあマシかな」

時計を見つつ電車の遅れを確認する駅員。
駅員の言葉から基本時間通りに来る事は無いらしい事が察せられる。
当然少女もそれは知っているので、案外早く来た事に少し喜んでいた。
因みに電車は一両編成であり、ここが田舎駅という事が良く解る。

「さ、行ってらっしゃい。気を付けてね」

手を振って見送ってくれる駅員にぶんぶんと手を振り返しながら電車に乗る少女。
運転手もその様子に少し和みつつ、ドアを閉めて電車を発車させた。
ここからはドローンは流石に付いて行けないので、屋敷の住人達は彼女から連絡が来るまで一時休憩となる。

とはいえ少女は変わらず大冒険中で、誰も乗っていない電車の中をきょろきょろと眺めている。
ふと操縦席が気になりぽてぽてと向い、じーっと良く解らない機械を見つめ始めた。
全く解らないが色々機械があって、未知の道具に見えて少女は何だかワクワクしている。

だがそれも暫くすると景色の方に意識が行き始め、窓際にぽてぽてと移動をする。
揺れる電車の中で歩き回るのは余り宜しくないが、今日の少女は保護者が居ない事で少しばかり自由な部分が強く出ている様だ。

椅子に座って足をパタパタさせながら外を眺め、流れる景色にそれだけで楽しくなる少女。
今日の少女は何もかもが楽しいらしい。
そうして暫く景色を眺めていると、目的地の駅が近づいている事に気が付いた。
電車が駅にゆっくりと止まり、たった一人の乗客がそこで降りる。

ただしここからの乗客はそれなりに多い様で、一両の電車内はそれなりの人で埋まっていく。
少女はそんな様子をぽやっと眺めながら、電車が去っていくまで見つめていた。
何となく電車にバイバイと小さく手を振り、それを偶々見ていた駅員はクスクスと笑いながら和んでいる。
電車が見えなくなった所で少女はハッと本来の用事を思い出し、ぽてぽてと駅から出て行く。

「角っ子ちゃん無事到着。オーバー」
「了解、そのまま天使の尾行を続行せよ。オーバー」
「携帯電話で何やってんだお前らは・・・」

少女が到着した事を確認し、連絡を入れる彼女とそれに応える羊角。
ただしそれは無線機などではなく普通の携帯端末なので、良く解らないノリに呆れた声で男は突っ込んでしまう。
そしてまたモニターに少女が映し出され、現代の技術は凄いなと変な感動を覚えていた。

当然少女は彼女が居る事を知らないので、メモを片手にぽてぽてと店に向かう。
店自体は駅からそう遠くないが、のんびりぽてぽて状態の今の少女だとそれなりの距離だ。
なので何か有ってはいけないと、彼女は陰ながら少女の後を付いていく。

「ちょっと、天使ちゃんがちゃんと映って無いわよ」
「移動しながら操作って難しいんだって。これでも頑張ってんだから許してよ」
「駄目よ。ちゃんと手元で確認出来る様にしてるんだから、もう少しちゃんと映しなさい」
「・・・あんた角っ子ちゃんの事になるとほんと人が変わるよね」

泣き言をいう彼女だったが、羊角は強い口調でそれを許さない。
彼女は溜め息を吐きながら、手元にある小型モニタを確認しつつ少女を追う。
散々練習をさせられた成果も有ってそれなりに上手いのだが、どうにも羊角の様に綺麗に捉えられていない。

それでも何とか少女の様子は見て取れるので、女は特に文句を言わずにじっと見つめていた。
単眼も単純に心配をしているだけなので、とりあえず様子が解れば特に気にしていない。

そんな事になっている等知る由もない少女は、一人で見る街の景色にご機嫌な様子だ。
傍に誰かが居ない事で、何だか変に視界が広い様に感じているらしい。
そして無事何事も無く店に辿り着き、再度メモに目を通して買う物を確認する。

店に入ると店員達はすぐに少女に気が付き、声はかけずにそれとなく様子を見ていた。
然程大きくない雑貨店なので、少女に何か有ればすぐに誰かが駆け付けられる。
と、何故か不思議な気合いが入っている店員達の事など知らず、少女はちょっと高めの位置になっている籠をうんしょと取る。

「しまった。位置下げとくんだった」
「馬鹿野郎、来るの解ってたのに何であんな高く積み上げてんだよ」

などと店員達はこそこそ話しているが、少女は気にせずメモに視線を落としてお使いを進めていく。
書かれている物をフンフンと一つずつ確認し、籠に入れていく少女。
ただ籠が少し大きいのか、上手く持てておらず偶にふらついている。
重い訳では無いのだがバランスが上手く取れていない様だ。

「ああ、もうちょっと小さい籠でもつくっときゃ良かった」
「こけないか、あれ。大丈夫か?」

店員たちの心配は募るばかりだ。
それでも少女は無事に買う物を全て籠に入れ、ぽてぽてとレジに向かう。
少女は許可証とクレジットカードを出して、店員は許可証をほぼ確認せずに清算を済ませる。

その事に他の店員達が「馬鹿、確認しないと知ってるってばれるだろ!」と内心思っていたが、少女は特に気にした様子無くにこっと笑顔を向けて許可証を受け取っていた。
店員達はほっと息を吐き、籠を持って移動する少女をまた見守る。

少女は籠を一旦台の上に置くと、ポケットをごそごそとまさぐって何かを取り出す。
それは折り畳んだ買い物袋で、背負う事も出来る様になっている物だった。
音のズレた鼻歌をフンフンと歌いながら袋に詰め、よいしょっと背負って少女は店を出る。
店員達は店を出て駅にちゃんと向かっているか迄確認をし、近くから様子を窺っていた彼女にぐっと親指を立てるのだった。

彼女はそれに同じ様に指を立てて返し、少女の後を追う。
そしてその後ろ姿を少女見るのとは別の感情で、鼻の下を伸ばしながら見送る店員達であった。
この寒空の中で生足ミニスカの彼女は少し気合いを入れ過ぎである。

「無事買い物は終了。特に問題無く帰路についています。オーバー」
「了解、そのまま無事駅迄天使を見届けよ。オーバー」
「だからお前等、そのノリ何なんだよ・・・」

二人の良く解らないノリに呆れつつも、男も少女に問題がなさそうな事は安心している。
少女自身はちゃんとやるべき事を済ませられた事にご機嫌で、フンフンと鼻歌を歌いながら駅に向かって歩いていた。
そして帰りも特に問題無く切符を買い、また一両編成の電車を足をパタパタさせながら乗って帰り、駅員に「おかえりー」と笑顔で出迎えて貰ってご機嫌に屋敷へと足を向ける。

ただ帰り路は気が逸ってしまっているのか、少女は少し早足になっていた。
屋敷が視界に入った瞬間など思わず走り出してしまっている。
パタパタと走って玄関に辿り着き、ちゃんと帰って来た事が無性に嬉しくなっている様子だ。

因みにドローンは駅で待機しており、電車が来た時に駅員が電話をして再度飛ばしている。
どこまでも事前連絡に抜かりなく、本当に少女に一人立ちさせる気が有るのか少々疑問が残る。
そうして少女は皆に見守られて無事屋敷に帰って来た。

とはいえそれでも少女は一人で出かけ、一人で用事を済ませている。
これは今迄屋敷から一人で出かけた事のない少女にとっては大きな一歩で、大冒険だった事は間違いないだろう。
だから全てを知っていながらも帰って来た少女の楽し気な報告を邪魔はしないし、それを楽し気に聞く使用人達に野暮な突込みもせず、男は少女の頭を撫でて褒める。
その事に少女は尚の事笑顔を見せ、また頑張ろうと気合いを入れるのだった。







「さ、寒い・・・早く帰りたい・・・!」

そして少女が電車に乗った後、1時間以上遅れている次の電車を寒空の中待つ彼女であった。
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