角持ち奴隷少女の使用人。

四つ目

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94、共通点。

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女はあの後、助けを呼ぶ彼女の声に反応した屋敷の住人が慌てて集まり、全員に一通り驚かれてから単眼に抱えられて一旦自室に連れていかれた。
そしてその間に羊角が男に連絡に行き、彼女と複眼は少女を外に捜しに向かう。

最初に逃走したところ以外誰も少女を見ておらず、外に出て行ったのではと判断した為だ。
念の為外に行く前に屋敷内を隅々まで捜したが少女は見つかっていない。
外に出てからもそれなりに時間が経っているが、まだ二人は見つけられていない様だ。

女の部屋に来た男は何時もと違い過ぎる女の様子に驚き、とりあえず女が落ち着いて話せる様になるまで静かに待った。
その間は単眼にも一緒に居て貰い、羊角と少年は部屋には居ないが屋敷に残っている。
これは少女が帰って来た時にすぐに反応出来る様にする為でもあった。

「みっともない所を見せた・・・もう大丈夫だ」

落ち着いた普段通りの声で女はそう口にするが、その言葉を素直には取れない。
目は真っ赤で悲しげな表情の女に、単眼は心配で少しオロオロとしている。
そんな二人を確認して、男は単眼に向かって口を開いた。

「・・・すまん、少し二人で話がしたい。外に出て貰っていいか?」
「え、その・・・解りました、旦那様。何か有ったらすぐに呼んで下さい」

男は単眼に二人きりにして欲しいと頼み、単眼は戸惑いながらも頷いて外に出た。
ただ単眼はその言葉通り、何か有ればすぐに駆け付けられる様に部屋の外で立って待つ。
部屋の中の声は聞こえない程度の位置で待つ辺り、単眼の気遣いが見て取れる。

「で、どうした。何でこんな事になってんだ。何が有った」
「解らない。何故か急にあの子に拒否された」
「拒否、ってのがどの程度か見てないから解んねえが、心当たりは全くないのか」
「・・・解らない。私はいつも通り接していたつもりだ」

女の答えを聞いて、男は小さく溜め息を吐いた。
そして少し女の様子を窺う様にじっと見つめ、再度口を開く。

「心当たり、有るんだろ。無いってツラしてねえぞ」
「――――」

男の言葉に女は表情を強張らせた。そしてそれが何よりの返事になっている。
その事に女は下唇を噛みながら、手を強く握って顔を俯けた。

女は拒否されてすぐは頭が回らず、本当に何故拒否されたのか解らなかった。
だからこそ女にしては珍しく異常なパニックを見せ、他の使用人達も見ているというのに涙迄流してしまった。
だが今は違う。泣いて慰められて少し落ち着いた今は、ほんの少しだけ心当たりがある。

「・・・私を見たあの子の目に、心当たりが、ある」
「目に?」
「過去、お前が私に向けた目と同じ物だ」
「―――っ」

女の心当たりを聞き、今度は男が言葉に詰まる。
過去男が女に向けた目に心当たりがあると言われ、男は即座にどういう物かを理解する。
それは『化け物』を見た目の事。姉を化け物だと恐怖の目で見つめた記憶の事だと。

「まさか、角を見せたのか」
「いいや、見せていない。言っただろう、いつも通りだったと」
「じゃあ、何で――――」
「何でなんか私が聞きたい!」

男の質問を遮る様に女が叫び、その声は外にいる単眼にも聞こえていた。
何か有ったのかと不安になりつつもじっと待ち、片手で胸を押さえて不安も一緒に抑える。

「っ、す、すまん。叫ぶ、つもりは、無かった。すまん・・・」

女は叫んだ後にはっとした顔を見せ、叫んだ自分自身に驚いていた。
そしてまた顔を俯かせ、ぼそぼそとした声で男に語る。
女はまるで自分の感情が解らず、どうしたら良いのかとそれだけが頭に渦巻いていた。

「いや、こっちこそ悪い。責めるつもりは無かったんだが、結果的にそうなっちまってた」
「・・・いや、良い。事実は事実だ。あの子は私を恐れ、そして逃げていった」

ぎゅっと拳を握りながら『逃げていったと』口にする女。
自ら口にした事で、その現実味に頭が痛くなって来ている。
また感情が溢れそうになり、涙がジワリとせり上がって来ていた。

「しかし、そうなると・・・原因はあの子の角かな」
「・・・あの子の?」
「実際は本人に聞いてみないと解らねえが、それ以外は心当たりになる様な物は無いだろ。あの子とお前の共通点。それが何かしらを見せた、って可能性が有るんじゃないか?」
「この、角か・・・この角のせいか・・・! これのせいで私はまた・・・!」

その瞬間、男は背中にぞわりと悪寒が走った。
何時か経験した、目の前の物が化け物だと感じた恐怖。
姉が、もう姉ではない化け物だと、そう思った時の恐怖が。

「くっ、馬鹿、落ち着け! おい! 姉貴!」

だが今はあの頃の様な非力な小僧ではない。恐怖に足が震えてへたり込む様な気は無い。
その想いで女の肩を掴み、男は強く呼びかけた。

今も体は恐怖を感じている。姉にかけている手は震えているのが解っている。
だからといって姉から手を離す事は、もう二度としたくはない。
化け物になったのだとしても、もう人間じゃないのだとしても、姉をもう一度殺したくない。
その想いから男は手に強く力を入れる。

「がっ・・・ぎっ・・・!」

だが男の必死の呼びかけもむなしく、女は正気を失った様な表情で虚空を睨む。
そして段々と角がその形を形成していき、周囲に見えないが何かが有ると感じる力が舞う。
その力に男は吹き飛ばされ、盛大に壁に体を打ちつけられた。

「がっ、はっ・・・!」

背中を強打した事で息が出来ず、その場に倒れて動けなくなる男。
そしてその音に流石に何か有ったのだと思い、単眼は部屋にノック無しで突入した。
その時には既に、女の姿は部屋から消えていた。
ただ窓が開け放たれている事に気が付いた男は、そこから出て行ったのだと察する。

「先輩! 旦那様! どうし―――旦那様大丈夫ですか!? 先輩は何処に!?」
「げほっ、けほっ・・・く、そ・・・!」

単眼は倒れている男に気が付き即座に近寄り、女が居ない事にも気が付く。
男は悪態を吐きながらなんとか体を動かそうとするが、強打した体はいう事を聞いてくれない。
だがそれでも無理矢理に体を動かし、心配そうにする単眼の手を優しく払って立ち上がる

「旦那様、大丈夫ですか・・・一体何が・・・」
「悪、い。説明してる、時間が、惜しい。なるべく、早めに、あの子を、捜しに、行ってくれ」

男は単眼の質問に、途切れ途切れになりながら答える。
そして一度深く呼吸をして、辛いのを抑えて口を開く。

「多分、あの馬鹿はあの子を探しに向かった。俺の事も家の事も気にしなくて良いから、全員で探しに行ってくれ。そして見つけたらすぐに俺に連絡を。特に飛び出してった馬鹿は見たら即連絡をくれ。見つけても声をかけずにな。他の連中にもそういう風に言っておいてくれ」
「え、ど、どういう事ですか。声をかけるなって・・・」
「悪い、時間が無い。頼むから早く行ってくれ。俺はまだうまく動けそうにないしな」
「・・・解りました。今は旦那様の指示に素直に従います。ただ―――」

単眼はそこで一度目を瞑り、開いた眼で男を睨むように見つめた。

「全部終わった後、ちゃんと説明をお願いします」
「・・・ああ、無事に終わったら、ちゃんと説明するよ」
「解りました。では私はもう行きます」
「ああ、頼む」

単眼は『無事に終わったら』の所に少し問い詰めたい気持ちが有ったが、ぐっと堪えて部屋を出て行く。
その後ろ姿に声をかけ、男もふらふらしながら部屋を出て自室に向かう。

「・・・俺と姉貴、どっちかがちゃんと生きてれば、説明はするよ」

男はそう呟きながら自室の扉を開き、机から銃とナイフを取り出した。
それらをズボンに押し込んで部屋を出て、既に誰もいなくなっている屋敷を出る。

「あの子が来なけりゃ、こうはならなかったのかな」

そう呟いてすぐに男は頭を振る。何を馬鹿な事を言っているのかと。

あの子がどれだけ姉を幸せにしていたか知っているだろう。
あの姉があんなに穏やかになっている様子を見て来ていただろう。

最近は苦しむ様子を殆ど見ていない。
いや、俺を助ける為に力を使った事を除けば、一度も見ていない。
あの子が来てからこっち、一度も見ていないんだ。
どれだけあの子の存在が役に立っていたかぐらいわかっているだろう。

男はそう思い、自分の浅はかな言動に嫌悪で一杯になっていた。

「今はとりあえず、どっちでも良いから見つけねぇと」

男は少し回復した様子で走り出す。
当てなんて特にない。田舎の広い土地で山も多い。
山に入られたら見つけるのは容易じゃない。
それでも男は駆けるしかなかった。探しに行くしかなかった。

「もし、手遅れだったら・・・約束通り、俺が殺してやる、姉貴・・・!」

過去にした約束を、姉とした約束を、果たしたくない約束を果たす為に。
それでも殺したくないという想いを消し切れず、女を捜し始めた。
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