角持ち奴隷少女の使用人。

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69、流派。

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「こうだろう?」
「いや、こうですよ」
「む、こうか?」
「もうちょっと、こう、直線的な動きですね」

のどかな昼下がり、屋敷の庭で蹴りの動きを確かめ合う者達が居た。
女と複眼がああでもないこうでもないと言いながら、色んな蹴りを見せている。
因みに本日は使用人服ではなく私服であり、二人共パンツルックだ。

女はシンプルな白ブラウスにジーンズ姿で、普段と変わらずピシッとした雰囲気を出している
逆に複眼は少し大きめで襟の無いペプラムブラウスとワイドパンツという、ゆったりした感じの服装だ。腰にリボンが付いている辺りも含め、複眼の性格にしては少し可愛らしい。

「珍しい組み合わせで何やってんの? 角っ子ちゃんは興味津々で見てるし」

そこにやって来た彼女は、傍に居た少女の頭を撫でながら片眉を上げて訊ねた。
少女は背後から撫でられ少し驚いたが、撫で方で彼女と気が付き気持ち良さそうに目を細める。
良く頭を撫でられるせいで、最近は誰が撫でているのか見なくても解るらしい。
単眼は撫で方以前に手が大きく、乗せられた時点で気が付ける様だ。

「昨日、総合格闘技の番組が有っただろう?」
「ええ、まあ、ありましたね」
「この子が偶々旦那様と一緒に見ていて、流派が何だとか国技が何だと色々あるみたいだが、そんなに違うのかと聞かれてな。軽く見せていた」

少女は余り格闘技番組という物は見ない。
勿論存在は知っているが、余り殴り合いの番組には興味が無かった。
男と女の殴り合いは二人のコミュニケーションの一種だと思っているから平気なのだが、それ以外の攻撃的な行動は少し苦手らしい。

ただその日は男と一緒に遊んでいた時に、男がモニターで格闘番組を垂れ流していたのだ。
そして少女は普段そういった番組を見ないので「流派」という物に少し興味を持った。
少女の目には皆似た様な動きに見えるのだが、そんなに違うのだろうかと。
翌日に首を傾げながら女に訊ねたら、解り易い様に見せてやろうという話になり今に至る。

「先輩、そんなに色々出来ましたっけ?」
「いいや、私は自分が知っている武術しか基本は出来ないぞ。だが多少は見様見真似で出来る」
「んで、あんたは先輩と一緒に何やってんの?」
「ちょっと動きが違ったから教えてただけよ。総合技術系の動きは少し経験あるから」

女は武道の経験者ではあるが、別に大会に出たり他流派と手を合わせる等はした事が無い。
なので格闘番組で見た限りの知識でしかない動きだったが、それを見た複眼が動きの違いが気になって参加して来たのだ。
複眼は本人の言う通り経験者らしく、女とは種類が違うが良い動きを見せていた。
そして少女の前で二人して様々な打撃の動きを披露し、武道を見ているというよりも、ダンスを見ている気分で少女は見つめていた。

「ふーん」

聞いておきながら余り興味が無さそうに返す彼女。
その間も少女を撫でる手は止まらず、少女は気持ち良さそうに目を細めている。

「お前はこういう事に余り興味が無いんだったか」
「殴り合いに興味のある女性の方が少ないと思いますけど」
「近年はそうでもないと思うがな。格闘技の世界大会もそれなりに女性が多いぞ?」
「そういうのは、その世界で生きたい一部の人じゃないですか・・・」

女の言葉に彼女はつまらなそうに答える。
言葉通り彼女にはそういった事に興味が無いので、致し方ない反応ではあるだろう。
だが少女がそんな彼女の袖を引き、横に座るようにポンポンと地面を叩いて促した。

「ん、なに、座れば良いの?」

彼女が促されるままに少女の横に座ると、少女は女と複眼に先程の続きをしてくれる様にぺこりと頭を下げる。
胸元で両手を握るキラキラした瞳の少女に勝てるはずもなく、女と複眼は中断された動きを再開した。

「それでは行くぞ」
「どうぞ」

女が構えをとって宣言すると、複眼も構えて応える。
そして二人の約束組手が始まるのだが、それはとても綺麗で、まるで躍っている様だった。
勿論約束組手だからなのだが、それでもその美麗さは素人が見ても感嘆する程のものだ。

少女はこの様子を見せたくて彼女を横に座らせ、少し認識を変えて欲しかったらしい。
ね、ね、凄いでしょう、という目を向けて来る少女に苦笑し、笑顔で少女を撫でる彼女。

「これは綺麗だねぇ。殴り合いには興味無いけど、確かにかっこいいかも」

彼女の言葉に大満足した少女は、花が咲く様な笑みを向けて喜ぶ。
その少女の様子と彼女の珍しく素直な言葉に、女と複眼は少し照れ臭そうだ。
少女の存在は住人達の相互理解を深める役割もなしている様だが、少女自身は完全に無意識にやっている。
このまま時間が過ぎれば、最早少女の居ない屋敷など誰も思い出せない様になるかもしれない。







尚、後日男との殴り合いで女は新しい技を披露し、男は全く反応出来ずに倒れるのだった。
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