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62、気の緩み。
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少女が屋敷に来てから、屋敷の中は大分変ってしまった。
勿論少女にそれが解るはずは無いが、屋敷の誰もがそう思っている。
ただしそれは悪い変化ではなく、皆が皆良い変化として喜んでいた。
「あはは、角っ子ちゃんが庭で行き倒れてる」
「あら本当。素敵」
ふと庭に目を向けた彼女が少女を見つけて口元が緩み、それを聞いてすかさず一枚撮る羊角。
そしてカメラを動画モードにして固定し、そのまま仕事に戻った。
彼女はそのカメラをそっと少しだけずらしてから仕事に戻る。
酷いいたずらにも見えるが、羊角はほぼ盗撮なので良い勝負だ。
二人が向けていた視線の先に居るは、庭で完全に寝入っている少女。
少女は犬と一緒に庭で日向ぼっこをしていたのだが、陽気が気持ち良くて寝てしまった様だ。
それも今日はうとうとしている様子ではなく、犬の上に覆いかぶさって完全に寝入っている。
犬は嫌がる様子も無く、少女と同じ様にポカポカ陽気にお昼寝をしていた。
この少女と犬の関係は、どちらが面倒を見ているのか悩む所だ。
一人と一匹が気持ちよく寝ていると、大きな影が落ちる。
犬が接近してきた人物に気が付き顔を上げると、単眼がパラソルを持って立っていた。
それもテーブルに固定するタイプの物を、テーブルごと抱えて持って来たらしい。
片手で軽々と持っているので軽そうに見えるが、他の使用人達には確実に不可能だ。
「あ、起こしちゃった? おチビちゃんはまだ起きてないよね?」
小さな声で犬に話しかけながら、そーっと少女の横にテーブルを置く単眼。
少女を起こさない様に注意を払い、振動が起きないようにゆっくりと。
直射日光の中寝ている少女を見かけ、日陰になる様にと思っての事らしい。
ただ日の傾きと犬の寝ている態勢の問題で、少女が少しだけ影からはみ出ていた。
犬はその様子を見て、少女を起こさない様にそっと立ちあがる。
そして少女を背負ったまま移動し、パラソルの陰になる位置でそっと伏せた。
「・・・君、前から賢いとは思ってたけど、本当に賢いよね。ありがとね」
気を遣ってくれた犬にお礼を言い、頭を優しくなでる単眼。
犬は気にするなとでも言わんばかりに小さくパフっと鳴き、そのまま寝に入る。
単眼はしゃがみ込み、気持ち良さそうに寝る少女と犬をニコニコしながら眺め始めた。
眺めていると少女は何か夢を見ているのか、口がむにゃむにゃと動いている事に気が付く。
それが堪らなく可愛かったようで、優しく少女の頭を撫でる単眼。
すると少女はその手に頭をこすりつけ、満面の笑みになっていた。
起きている様子は無い。どうやら無意識の行為の様だ。
「・・・! かわっ、いいっ・・・!」
起こしてはいけないので声を抑えて悶える単眼。
その後も暫く少女を眺め、満足したのか立ち上がると、またそーっと去って行った。
体重を感じさせない軽やかな足取りで、単眼が少女は来た事も去った事も解らぬまま愛でられたのだった。
その後暫くするとまた傍に誰かがやって来た。
犬はまた顔を上げると、今度は複眼が犬の水入れを片手に立っているのを確認する。
「ほら、あんた昼ぐらいから水とって無いでしょ」
しゃがみ込み、犬が飲み易い様に水入れを口元に近付ける複眼。
それは犬に飲ませてあげる為でもあるが、少女を起こさない様にとも思っての行動だ。
犬は嬉しそうに、だが静かにパフっと鳴き、寝転がったまま水を飲む。
そして半分ほど飲んだところで満足したのか、また頭を地面に降ろした。
「一応傍に置いとくから、喉が渇いたら飲みなさい」
複眼はそう言うと水入れを犬の横に置き、犬と少女の頭を軽く撫でて立ち上がる。
その口元は少し緩んでおり、複眼の持つ全ての目も機嫌良さげに緩んでいた。
少年は少女が気持ち良さそうに寝ているのを見て、固まって見つめていた所を彼女に見つかり、「一緒に寝てきたら?」などと言われて揶揄われてしまう。
真っ赤になって逃げた少年だったが、頭には気持ち良さげに眠る少女の顔が焼き付いていた。
少年が素直になれる日はいつになるだろうか。
以前彼女が少女中心になっていると言った事が有ったが、まさしくその通りなのだろう。
皆が少女を気にかけ、それが皆の気持ちをやわらげ、結果として職場環境を良くしている。
だが何よりの大きな変化は女の態度だ。
「そろそろ涼しくなる時間だから角っ子ちゃんを起こしに行きましょうねーっと。それとももう起きてるか・・・ぷはっ! せ、先輩可愛い・・・!」
「なに、どした・・・あー、これは確かにちょっと可愛いかも」
日が傾き始め、涼しくなって来た事で少女を起こしに来た彼女と羊角。
だがその視線の先には少女に膝枕をされ、少女の手を握りながらすやすやと眠る女の姿が。
それも少女に頭を撫でられ、ほのかに口元が緩んでいるようにも見える。
女は手が空いてすぐ少女を捜しに行き、寝ている少女を発見。
最初は気持ち良さそうに寝る少女を何時もの眼光で眺めていたのだが、仕事疲れのせいか、少女の手から伝わる体温のせいか、それとも陽気のせいなのか、いつの間にか少女の傍で寝てしまっていた。
そして少女はハッと目を覚まし、寝ぼけ眼で周囲を見渡すと傍で女が寝ているのを確認。
寝起きで働いていない頭から導き出された答えは、膝枕をしてあげようという結論だ。
いや、少女なら寝ぼけていなくてもやりそうだが、寝ぼけていたせいか思考時間が無かった。
そうして今の状況が出来上がったわけだが、似た様な事が今まで無かった訳ではない。
女が少女に気を許し、何処か気が緩んだ様子を見せる事は増えている。
それが屋敷の空気を良い意味で緩くしており、皆が過ごしやすいと感じる理由にもなっていた。
「・・・もう少し寝かせてあげるか。旦那様が帰って来ても起きなかったら呼びに行こう」
「そうね・・・一応何枚か撮っておこうかしら。撫でてる天使ちゃんも可愛いし」
羊角はズーム機能を使い、女の写真を複数枚撮っておく。
後日その写真を見せられた女は、照れ隠しに膝十字固めを羊角に放つのであった。
勿論少女にそれが解るはずは無いが、屋敷の誰もがそう思っている。
ただしそれは悪い変化ではなく、皆が皆良い変化として喜んでいた。
「あはは、角っ子ちゃんが庭で行き倒れてる」
「あら本当。素敵」
ふと庭に目を向けた彼女が少女を見つけて口元が緩み、それを聞いてすかさず一枚撮る羊角。
そしてカメラを動画モードにして固定し、そのまま仕事に戻った。
彼女はそのカメラをそっと少しだけずらしてから仕事に戻る。
酷いいたずらにも見えるが、羊角はほぼ盗撮なので良い勝負だ。
二人が向けていた視線の先に居るは、庭で完全に寝入っている少女。
少女は犬と一緒に庭で日向ぼっこをしていたのだが、陽気が気持ち良くて寝てしまった様だ。
それも今日はうとうとしている様子ではなく、犬の上に覆いかぶさって完全に寝入っている。
犬は嫌がる様子も無く、少女と同じ様にポカポカ陽気にお昼寝をしていた。
この少女と犬の関係は、どちらが面倒を見ているのか悩む所だ。
一人と一匹が気持ちよく寝ていると、大きな影が落ちる。
犬が接近してきた人物に気が付き顔を上げると、単眼がパラソルを持って立っていた。
それもテーブルに固定するタイプの物を、テーブルごと抱えて持って来たらしい。
片手で軽々と持っているので軽そうに見えるが、他の使用人達には確実に不可能だ。
「あ、起こしちゃった? おチビちゃんはまだ起きてないよね?」
小さな声で犬に話しかけながら、そーっと少女の横にテーブルを置く単眼。
少女を起こさない様に注意を払い、振動が起きないようにゆっくりと。
直射日光の中寝ている少女を見かけ、日陰になる様にと思っての事らしい。
ただ日の傾きと犬の寝ている態勢の問題で、少女が少しだけ影からはみ出ていた。
犬はその様子を見て、少女を起こさない様にそっと立ちあがる。
そして少女を背負ったまま移動し、パラソルの陰になる位置でそっと伏せた。
「・・・君、前から賢いとは思ってたけど、本当に賢いよね。ありがとね」
気を遣ってくれた犬にお礼を言い、頭を優しくなでる単眼。
犬は気にするなとでも言わんばかりに小さくパフっと鳴き、そのまま寝に入る。
単眼はしゃがみ込み、気持ち良さそうに寝る少女と犬をニコニコしながら眺め始めた。
眺めていると少女は何か夢を見ているのか、口がむにゃむにゃと動いている事に気が付く。
それが堪らなく可愛かったようで、優しく少女の頭を撫でる単眼。
すると少女はその手に頭をこすりつけ、満面の笑みになっていた。
起きている様子は無い。どうやら無意識の行為の様だ。
「・・・! かわっ、いいっ・・・!」
起こしてはいけないので声を抑えて悶える単眼。
その後も暫く少女を眺め、満足したのか立ち上がると、またそーっと去って行った。
体重を感じさせない軽やかな足取りで、単眼が少女は来た事も去った事も解らぬまま愛でられたのだった。
その後暫くするとまた傍に誰かがやって来た。
犬はまた顔を上げると、今度は複眼が犬の水入れを片手に立っているのを確認する。
「ほら、あんた昼ぐらいから水とって無いでしょ」
しゃがみ込み、犬が飲み易い様に水入れを口元に近付ける複眼。
それは犬に飲ませてあげる為でもあるが、少女を起こさない様にとも思っての行動だ。
犬は嬉しそうに、だが静かにパフっと鳴き、寝転がったまま水を飲む。
そして半分ほど飲んだところで満足したのか、また頭を地面に降ろした。
「一応傍に置いとくから、喉が渇いたら飲みなさい」
複眼はそう言うと水入れを犬の横に置き、犬と少女の頭を軽く撫でて立ち上がる。
その口元は少し緩んでおり、複眼の持つ全ての目も機嫌良さげに緩んでいた。
少年は少女が気持ち良さそうに寝ているのを見て、固まって見つめていた所を彼女に見つかり、「一緒に寝てきたら?」などと言われて揶揄われてしまう。
真っ赤になって逃げた少年だったが、頭には気持ち良さげに眠る少女の顔が焼き付いていた。
少年が素直になれる日はいつになるだろうか。
以前彼女が少女中心になっていると言った事が有ったが、まさしくその通りなのだろう。
皆が少女を気にかけ、それが皆の気持ちをやわらげ、結果として職場環境を良くしている。
だが何よりの大きな変化は女の態度だ。
「そろそろ涼しくなる時間だから角っ子ちゃんを起こしに行きましょうねーっと。それとももう起きてるか・・・ぷはっ! せ、先輩可愛い・・・!」
「なに、どした・・・あー、これは確かにちょっと可愛いかも」
日が傾き始め、涼しくなって来た事で少女を起こしに来た彼女と羊角。
だがその視線の先には少女に膝枕をされ、少女の手を握りながらすやすやと眠る女の姿が。
それも少女に頭を撫でられ、ほのかに口元が緩んでいるようにも見える。
女は手が空いてすぐ少女を捜しに行き、寝ている少女を発見。
最初は気持ち良さそうに寝る少女を何時もの眼光で眺めていたのだが、仕事疲れのせいか、少女の手から伝わる体温のせいか、それとも陽気のせいなのか、いつの間にか少女の傍で寝てしまっていた。
そして少女はハッと目を覚まし、寝ぼけ眼で周囲を見渡すと傍で女が寝ているのを確認。
寝起きで働いていない頭から導き出された答えは、膝枕をしてあげようという結論だ。
いや、少女なら寝ぼけていなくてもやりそうだが、寝ぼけていたせいか思考時間が無かった。
そうして今の状況が出来上がったわけだが、似た様な事が今まで無かった訳ではない。
女が少女に気を許し、何処か気が緩んだ様子を見せる事は増えている。
それが屋敷の空気を良い意味で緩くしており、皆が過ごしやすいと感じる理由にもなっていた。
「・・・もう少し寝かせてあげるか。旦那様が帰って来ても起きなかったら呼びに行こう」
「そうね・・・一応何枚か撮っておこうかしら。撫でてる天使ちゃんも可愛いし」
羊角はズーム機能を使い、女の写真を複数枚撮っておく。
後日その写真を見せられた女は、照れ隠しに膝十字固めを羊角に放つのであった。
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