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56、男の不安。
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「真冬は地獄だったが・・・暖かくなって来たから大分マシだな」
着々と広がり、最近は近所の人間も周知となりつつある畑を眺めながら男は呟く。
もう色々と誤魔化せないなと思い、一応農地にする手続きは進めている。
半分以上女に作業を投げているので、時々ねちねちと文句を言われるが気にしていない様だ。
「爺さん、途中で止めてくれても良かったんだぞ」
「うーむ、あの楽しげな様子を見ていると、どうしても言えませんで」
二人の視線の先には、これから育てる作物の為に畑を耕す少女の姿があった。
相変わらず自分の体よりも大きい鍬で、耕運機の如く進んでいく。
無尽蔵の様な体力なせいか、全く止まる気配が無い。
とはいえ疲れない訳では無いので、畑を広げた日はお眠になるのが少し早めになったりする。
夕食を食べた後、歩きながらうつらうつらしている様はとても可愛らしい。
ポテ、ポテ、と揺れながら歩く少女の後ろには大体女が付いているので、寝てしまってもそのまま抱えてベッドに連れていかれる。
稀に誰も見ていない所で力尽き、廊下で倒れている時が有るが、その内誰かが回収するので問題はない。犬が最初に見つけた時は、寒くない様に寄り添って寝ていたり等も。
だが今はそんな眠たげな様子など一切無く、元気はつらつと農作業に励んでいる。
恐らく今日は気持ちよく眠れる事だろう。
「それにほら、野菜以外にも、可愛らしい花なども最近は興味を持ったようですよ」
「まあ、確かに。なかなか立派な花畑だよな」
最近の少女は野菜以外にも、花やハーブなども育てている様だ。
一角は既に花畑になっており、単眼と一緒に眺めているところを良く見かけている。
ただ花は単眼以外は余り興味を持ってくれなかったので、少女は少しだけ残念だったらしい。
羊角は花畑に立つ少女を撮る事にご執心であったが、それはまた違うのだ。
ハーブは複眼が一番興味を持ってくれたので、なるべく複眼が要りそうな物を選んではいる。
とはいえ供給過多な状態に複眼は少し困っているが、何も言えないでいた。
言えば少女がしょんぼりとするのが目に見えているので、ありがとうと表情を変えずに受け取っている。無論無駄にしない様に色々と手を打っている様だが。
彼女は食べられる花をもしゃもしゃと食べて、少女を固まらせた。勿論わざとである。
「花が好きってのは可愛らしいと思うんだが、あの規模の花畑を道具も無しに個人でやったってのがなぁ・・・ああでも、あっちは爺さんも管理してるのか」
「ええ、本来あっちが本業ですからねぇ。それなりに手は入れてますよ」
忘れがちだが、老爺は農家ではなく庭師である。
庭木や花の方が本来の仕事の領分だ。けして野菜やビニールハウスの管理が本業ではない。
とはいえ、そちらも全部をきっちりと見れるかと言われれば、少し困ってしまう広さだが。
「そういえば、あの子は自分の事を調べたと聞きましたが・・・」
「ああ、調べてたな。自分が何やったのか覚えて無いそうだが、何をやって奴隷になったのかはもう知っている」
「もう一つの事情は、教えはしないので?」
「んー、正直どうしたら良いのか悩んでんだよ。あの子は変わる気配が無い。あいつと違っていつも穏やかで明るくて優しい。なら、もう黙ってても良いんじゃねえかなって」
二人が語るは少女の角の事。あの角の力の事。
男とて、実際にその光景を見ていなければ信じられなかった、あの角の力。
少女はその力を使ってはいる様だが、女と違って常に角が出ている状態なのに調子を崩す気配はない。少女が何か別の物に代わる気配も一切ない。
それ故に、角の事を詳しく知った少女の反応が、男は怖くなりつつあった。
「今は下手に喋って、それが切っ掛けで変わりそうで、怖いんだよな」
「・・・そうですか・・・それも宜しいかもしれませんなぁ」
以前はどちらかと言えば「面倒」だった事柄だが、今は「心配」になっている。
それは男にとって、少女が既に身近で大事な存在になっている証拠であった。
故に男は変わる事を恐れ、現状維持を選んでしまう。
きっとその選択は悪ではない。だが正しいのかどうかも、誰にも解らない事だった。
「まあ、今はあの幸せそうな顔だけ守れれば、良いかな」
「ははっ、可愛がってますなぁ」
「爺さんだって人の事言えないだろ」
「そこは屋敷の者全員、ですな」
ひと段落着いて額の汗を拭き、見つめられている事に気がついて笑顔でブンブンと手を振る少女を見て、男は手を振り返しながら笑う。
不安になるだけ無駄かもしれない。前回も結局心配されたのは自分なのだから。
少女の笑顔を見ながらそう思い、一つ息を吐いてこちらにパタパタと駆けて来る少女を待つ男。
そして当の少女といえば、大好きな主人の下へ辿り着き、良く頑張ったと頭を撫でられるだけで幸せな様子であった。
ただそこで老爺は思っていた。
そうやってすぐ褒めるから畑が広がるのだと。
だがそれで一番苦労するのは男なので、何も言わずに微笑みを向ける老爺であった。
着々と広がり、最近は近所の人間も周知となりつつある畑を眺めながら男は呟く。
もう色々と誤魔化せないなと思い、一応農地にする手続きは進めている。
半分以上女に作業を投げているので、時々ねちねちと文句を言われるが気にしていない様だ。
「爺さん、途中で止めてくれても良かったんだぞ」
「うーむ、あの楽しげな様子を見ていると、どうしても言えませんで」
二人の視線の先には、これから育てる作物の為に畑を耕す少女の姿があった。
相変わらず自分の体よりも大きい鍬で、耕運機の如く進んでいく。
無尽蔵の様な体力なせいか、全く止まる気配が無い。
とはいえ疲れない訳では無いので、畑を広げた日はお眠になるのが少し早めになったりする。
夕食を食べた後、歩きながらうつらうつらしている様はとても可愛らしい。
ポテ、ポテ、と揺れながら歩く少女の後ろには大体女が付いているので、寝てしまってもそのまま抱えてベッドに連れていかれる。
稀に誰も見ていない所で力尽き、廊下で倒れている時が有るが、その内誰かが回収するので問題はない。犬が最初に見つけた時は、寒くない様に寄り添って寝ていたり等も。
だが今はそんな眠たげな様子など一切無く、元気はつらつと農作業に励んでいる。
恐らく今日は気持ちよく眠れる事だろう。
「それにほら、野菜以外にも、可愛らしい花なども最近は興味を持ったようですよ」
「まあ、確かに。なかなか立派な花畑だよな」
最近の少女は野菜以外にも、花やハーブなども育てている様だ。
一角は既に花畑になっており、単眼と一緒に眺めているところを良く見かけている。
ただ花は単眼以外は余り興味を持ってくれなかったので、少女は少しだけ残念だったらしい。
羊角は花畑に立つ少女を撮る事にご執心であったが、それはまた違うのだ。
ハーブは複眼が一番興味を持ってくれたので、なるべく複眼が要りそうな物を選んではいる。
とはいえ供給過多な状態に複眼は少し困っているが、何も言えないでいた。
言えば少女がしょんぼりとするのが目に見えているので、ありがとうと表情を変えずに受け取っている。無論無駄にしない様に色々と手を打っている様だが。
彼女は食べられる花をもしゃもしゃと食べて、少女を固まらせた。勿論わざとである。
「花が好きってのは可愛らしいと思うんだが、あの規模の花畑を道具も無しに個人でやったってのがなぁ・・・ああでも、あっちは爺さんも管理してるのか」
「ええ、本来あっちが本業ですからねぇ。それなりに手は入れてますよ」
忘れがちだが、老爺は農家ではなく庭師である。
庭木や花の方が本来の仕事の領分だ。けして野菜やビニールハウスの管理が本業ではない。
とはいえ、そちらも全部をきっちりと見れるかと言われれば、少し困ってしまう広さだが。
「そういえば、あの子は自分の事を調べたと聞きましたが・・・」
「ああ、調べてたな。自分が何やったのか覚えて無いそうだが、何をやって奴隷になったのかはもう知っている」
「もう一つの事情は、教えはしないので?」
「んー、正直どうしたら良いのか悩んでんだよ。あの子は変わる気配が無い。あいつと違っていつも穏やかで明るくて優しい。なら、もう黙ってても良いんじゃねえかなって」
二人が語るは少女の角の事。あの角の力の事。
男とて、実際にその光景を見ていなければ信じられなかった、あの角の力。
少女はその力を使ってはいる様だが、女と違って常に角が出ている状態なのに調子を崩す気配はない。少女が何か別の物に代わる気配も一切ない。
それ故に、角の事を詳しく知った少女の反応が、男は怖くなりつつあった。
「今は下手に喋って、それが切っ掛けで変わりそうで、怖いんだよな」
「・・・そうですか・・・それも宜しいかもしれませんなぁ」
以前はどちらかと言えば「面倒」だった事柄だが、今は「心配」になっている。
それは男にとって、少女が既に身近で大事な存在になっている証拠であった。
故に男は変わる事を恐れ、現状維持を選んでしまう。
きっとその選択は悪ではない。だが正しいのかどうかも、誰にも解らない事だった。
「まあ、今はあの幸せそうな顔だけ守れれば、良いかな」
「ははっ、可愛がってますなぁ」
「爺さんだって人の事言えないだろ」
「そこは屋敷の者全員、ですな」
ひと段落着いて額の汗を拭き、見つめられている事に気がついて笑顔でブンブンと手を振る少女を見て、男は手を振り返しながら笑う。
不安になるだけ無駄かもしれない。前回も結局心配されたのは自分なのだから。
少女の笑顔を見ながらそう思い、一つ息を吐いてこちらにパタパタと駆けて来る少女を待つ男。
そして当の少女といえば、大好きな主人の下へ辿り着き、良く頑張ったと頭を撫でられるだけで幸せな様子であった。
ただそこで老爺は思っていた。
そうやってすぐ褒めるから畑が広がるのだと。
だがそれで一番苦労するのは男なので、何も言わずに微笑みを向ける老爺であった。
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