角持ち奴隷少女の使用人。

四つ目

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55、人形。

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ある日の使用人達と少女は、一緒に人形を作っていた。
少女は最近、子供向け番組の着ぐるみ人形をいたく気に入っている。
その様子を見た単眼が「小さい人形でも作ってみる?」と言い出して始まった事だ。

最初は少女と二人でのんびり作るつもりの単眼だったのだが、聞きつけた彼女が参加し、ついでに複眼も連れて来た。
結果として、楽し気に針仕事をする彼女と、真顔で黙々と針を通す複眼と、こんなはずじゃなかったんだけどなぁと思いながらも楽しげな様子の単眼。
そして皆と一緒にする作業が楽しくて、ニコニコしながら慎重に針を通す少女の姿があった。

「いたっ」

彼女の指に針が刺さり、痛みで手を引くも遅かった様で血が出ていた。
ぷっくりと丸い血が出来ているのを見て、彼女は指を咥える。
少女はその様子を見て、ワタワタと慌ててつつも絆創膏を取り出した。
針で刺した経験は自分も有るので、事前に用意していたらしい。

「お、用意が良いねー。ありがと」

彼女は少女の頭を撫でてから受け取り、ウサギの柄の入った絆創膏を指に巻く。
可愛い柄が自分に似合っていないな、などと思いつつも少し嬉しい様子だ。
ただそこでふと思ったのは「これ可愛いけど買ったの誰だ」という事だったのだが、何となく詮索すると女がやって来そうな気がしたので止めておいた。

「うーん、針を刺すなんてひっさびさだわ。ここ最近やって無かったから鈍ったかなぁ」
「あんたが不器用なだけでしょ」
「あ、ひっどい」

自分の腕が鈍ったのかと呟く彼女に、突き放す様に告げる複眼。
唇を尖らせながら彼女は針山に戻しておいた針を掴み、また手を動かし始める。
その動きは鈍ったと言いつつも滑らかだと、二人を見ている少女は思っていた。

「一応針仕事も私達の仕事なんだから、こんな事で怪我してたら話にならないわよ」
「はいはい、家庭的な方の言う事は違いますねー。貴女言動以外はとっても女の子ですよねー」

二人の会話を聞いた少女が静かにショックを受けていたが、それは誰も気がついていない様だ。
喋りながら、よそ見をしながら綺麗に縫っていく彼女と複眼の手元をちらっと見て、自分の手元に目を戻してその速度にしょぼんとする少女。
だがすぐに気を取り直し、もっと上手くなるのだと気合いを入れるのだった。

そして気合いが空回りして針から糸が抜け、何とも言えない顔を見せる少女。
誰にも気がつかれない様に糸を通し直してこっそり再開したつもりだったが、そこは複眼の目にばっちりと捉えられていた。
こっそり再開しようとしていたのは解っているので複眼はあえて見ていない振りをし、少女の可愛らしい行動を胸の内にとどめておく事にした様だ。

「女の子って・・・それは私よりこいつでしょ」

複眼は親指をくいっと単眼に向ける。
そこには一つの目を細めながら、楽しそうに人形を作る単眼の姿が有った。
大きな手でありながら、皆と同じ大きさの針を器用に使っている。
鼻歌交じりに作っている辺り、何の苦も無くこなしている事が伺えた。

「人形作りは慣れてるからねー。実家の部屋人形だらけにした事も有るから」
「実家じゃなくて自室もそうじゃない、あんた」

複眼に突っ込まれ、うっという顔をする単眼。
単眼の部屋には確かに他の部屋に比べると小物や人形が多い。
だがそれも、可愛らしい、で済ませられる範囲だ。
そこそこの大きさの人形がベッドにデンとありはするが、きっと可愛い範囲だろう。

「そ、そこまで酷くないもん。ね、可愛いよね?」

必死に少女に助けを求める単眼の様子に、少女は少し驚きながらコクコクと頷く。
少女も単眼の部屋を見に行った事は有るので、その可愛らしい自室は知っている。
だが焦っているせいか、論点がズレている事には気がついていない様だ。

「だ、大体そんな事言い出したら、もっと酷いのが居るじゃない」
「・・・いや、あんた」
「・・・あいつと比べたら、駄目でしょ」

単眼の言葉に、少し呆れた様子で応える複眼と彼女。
酷いのとは勿論この場に居ない羊角の事である。
羊角の部屋は最近「天使ちゃんの記録」というアルバムが着々と増えている。
データのままにせず、態々全部印刷しているらしい。

動画データも消える事を恐れ、複数バックアップを取ってディスクにも焼いている。
それも既に中々の量になっており、羊角以外の使用人達は軽く引いている。
元々コスプレ服などが有ったのでカオスな部屋だったのだが、最近はベクトルが違う方向に振り切ってしまっている。
最早元の趣味など忘れてしまったかと思う程に。

三人は微妙な表情をしながらも手は止めず、着々と人形は出来上がっていく。
一番難しいであろう顔の造形部分は、慣れていると言った単眼がやっているので綺麗なものだ。
そうして出来上がった人形は、少女の体と同じぐらいの大きさの人形になっていた。

「・・・作っといてなんだけど、でかいね。角っ子ちゃん、これ抱えられる?」
「・・・抱きかかえるとちみっこが見えないね、これは」
「え、あれ、大きい?」

彼女と複眼は人形を見て大きいと思った様だが、単眼はその言葉に驚く様子を見せる。
何故なら単眼にとっては「小さくて可愛い」範囲の大きさのつもりだから。
たとえ少女の半分以上の大きさであっても、単眼にとっては小さい人形なのだ。

複眼と彼女は少し思う所は有ったが、少女が嬉しそうに人形を抱えるのを見て口にしなかった。
単眼はそんな二人の様子に少し不安そうだったが、少女の満面の笑みを見て自身も笑顔になり、二人でニコニコと人形を愛で始めるのだった。
その後、少女の部屋に着々と人形が増えるか否かは、まだ定かではない。
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