53 / 247
52、競争。
しおりを挟む
「位置に付いてー」
楽しそうな様子で彼女が片手をあげ、応じる様に単眼と少女が走る用意をする。
単眼はキリッとした様子で構え、少女もやる気満々で構えていた。
二人の視線の先にはゴールテープ代わりに包帯を持って立つ少年と複眼。
そしてその横にはカメラを構え、膝を突いてしっかりと少女の目線で撮る羊角が居る。
更に少し離れた所で女と男が見ており、それが余計に少女のやる気を増幅させていた。
二人が競争する様な事になっているのは、彼女の発言が発端である。
犬と同じ速度で走る少女と単眼、どっちが早いのだろうと言い出した事が原因だ。
そこで単眼が「流石に私じゃない?」と言った所、じゃあ競争してみようという事になった。
そうして外に出ようとすると何故かぞろぞろと人が増え、気がつくとほぼ全員揃っている。
道中で男に「がんばれ」と言われた事で、少女は鼻息がとても荒くなっていた。
女がフスフスと息の荒い少女に鋭い眼光を向けていると、その視線に気がついた少女は更に気合いを入れ始める。どうやら二人に良い所を見せたいらしい。
怪我しないと良いけどなーと、ここにきて少し心配になって来た彼女。
だがここまでやる気満々なのを止めるのは忍びないし、やる事はただ走るだけ。
多分大丈夫だろうと気楽に結論を出す。
「よーい、どん!」
そして手が下ろされ、それと同時に二つの疾風が舞う。
単眼の脚力から発生する推進力は凄まじく、歩幅の大きさも相まって原付程度ならば余裕で追い抜く速度だ。
巨体にも関わらず軽快な足取りも速さの理由だろう。その走りはまるで重さを感じさせない。
巨大な砲弾が進んでいく様な、そんなイメージすら沸く程の速さ。
だが、少女は更にその上を行く。歩幅は小さく、一歩の距離はどう足掻いても単眼に届かない。
にも関わらず少女はスタート時点で単眼の先を行き、そのままゴールテープを切った。
そして盛大な砂埃を立ててブレーキをかけ、止まれ切れずに転んで行ってしまう。
「あーあー、盛大に転んでまぁ。ちみっこー、大丈夫ー!?」
少女は少し目を回した様子ながらも怪我は無い様で、よろよろとしながら片手を上げて応える。
それを見て女は誰にも気がつかれない程度の安堵の溜め息を吐き、少女の下へ歩いて行った。
男もくすくすと笑いながらその後を追いかけて行く。
「うにゃー、はやぁいー。何あれびっくりしたー」
「いやー、本当にびっくりしたねぇー。あ、目を回してる様子も可愛い♪」
途中でこれは追い付けないと思い、ゆっくりと速度を落としながらゴールに到着した単眼。
羊角はカメラを少女に向けながらもそれに応える。
「突風でしたね・・・」
「正直ゴールテープ持ってるの怖かったよ、私」
ぶつかったら大怪我していただろう速度で突っ込んで来る少女に、少年と複眼は少しだけ恐怖を感じていたらしい。
当然少女はそんな事が無い様にゴールテープの真ん中を突っ切って行ったのだが、怖い物は怖いだろう。
「いやー、すごいね。角っ子ちゃんの踏み込み、あの体格なのに全部地面が抉れてるよ。んで、ちょっとづつ距離が広がってる。あれもうちょっと距離有ればまだ加速するんじゃない?」
「うにゃー、それ私でも絶対追い付けないじゃないぃ。速すぎるよぉ」
彼女の分析に単眼はぐでーっと項垂れる。
だが自分を負かした相手を見て、すぐに笑顔になった。
「嬉しそうだねぇ、おチビちゃん」
「ははっ、大好きな人達にカッコいい所見せれたからね。角っ子ちゃん的には満足でしょ」
「ちみっこは本当に旦那様と先輩の事好きだよね。撫でられてる姿は子犬みたいだ」
「はぁん、とろんとした目がかぁわいいぃー」
使用人達は皆、微笑ましく感じながら少女達を見ていた。
ただ一人、少年だけは、少女が男へ向ける視線に何とも言えない物を抱えてはいたが。
「・・・良いなぁ」
少年は自分が無意識に呟いている事に、全く気がついていなかった。
楽しそうな様子で彼女が片手をあげ、応じる様に単眼と少女が走る用意をする。
単眼はキリッとした様子で構え、少女もやる気満々で構えていた。
二人の視線の先にはゴールテープ代わりに包帯を持って立つ少年と複眼。
そしてその横にはカメラを構え、膝を突いてしっかりと少女の目線で撮る羊角が居る。
更に少し離れた所で女と男が見ており、それが余計に少女のやる気を増幅させていた。
二人が競争する様な事になっているのは、彼女の発言が発端である。
犬と同じ速度で走る少女と単眼、どっちが早いのだろうと言い出した事が原因だ。
そこで単眼が「流石に私じゃない?」と言った所、じゃあ競争してみようという事になった。
そうして外に出ようとすると何故かぞろぞろと人が増え、気がつくとほぼ全員揃っている。
道中で男に「がんばれ」と言われた事で、少女は鼻息がとても荒くなっていた。
女がフスフスと息の荒い少女に鋭い眼光を向けていると、その視線に気がついた少女は更に気合いを入れ始める。どうやら二人に良い所を見せたいらしい。
怪我しないと良いけどなーと、ここにきて少し心配になって来た彼女。
だがここまでやる気満々なのを止めるのは忍びないし、やる事はただ走るだけ。
多分大丈夫だろうと気楽に結論を出す。
「よーい、どん!」
そして手が下ろされ、それと同時に二つの疾風が舞う。
単眼の脚力から発生する推進力は凄まじく、歩幅の大きさも相まって原付程度ならば余裕で追い抜く速度だ。
巨体にも関わらず軽快な足取りも速さの理由だろう。その走りはまるで重さを感じさせない。
巨大な砲弾が進んでいく様な、そんなイメージすら沸く程の速さ。
だが、少女は更にその上を行く。歩幅は小さく、一歩の距離はどう足掻いても単眼に届かない。
にも関わらず少女はスタート時点で単眼の先を行き、そのままゴールテープを切った。
そして盛大な砂埃を立ててブレーキをかけ、止まれ切れずに転んで行ってしまう。
「あーあー、盛大に転んでまぁ。ちみっこー、大丈夫ー!?」
少女は少し目を回した様子ながらも怪我は無い様で、よろよろとしながら片手を上げて応える。
それを見て女は誰にも気がつかれない程度の安堵の溜め息を吐き、少女の下へ歩いて行った。
男もくすくすと笑いながらその後を追いかけて行く。
「うにゃー、はやぁいー。何あれびっくりしたー」
「いやー、本当にびっくりしたねぇー。あ、目を回してる様子も可愛い♪」
途中でこれは追い付けないと思い、ゆっくりと速度を落としながらゴールに到着した単眼。
羊角はカメラを少女に向けながらもそれに応える。
「突風でしたね・・・」
「正直ゴールテープ持ってるの怖かったよ、私」
ぶつかったら大怪我していただろう速度で突っ込んで来る少女に、少年と複眼は少しだけ恐怖を感じていたらしい。
当然少女はそんな事が無い様にゴールテープの真ん中を突っ切って行ったのだが、怖い物は怖いだろう。
「いやー、すごいね。角っ子ちゃんの踏み込み、あの体格なのに全部地面が抉れてるよ。んで、ちょっとづつ距離が広がってる。あれもうちょっと距離有ればまだ加速するんじゃない?」
「うにゃー、それ私でも絶対追い付けないじゃないぃ。速すぎるよぉ」
彼女の分析に単眼はぐでーっと項垂れる。
だが自分を負かした相手を見て、すぐに笑顔になった。
「嬉しそうだねぇ、おチビちゃん」
「ははっ、大好きな人達にカッコいい所見せれたからね。角っ子ちゃん的には満足でしょ」
「ちみっこは本当に旦那様と先輩の事好きだよね。撫でられてる姿は子犬みたいだ」
「はぁん、とろんとした目がかぁわいいぃー」
使用人達は皆、微笑ましく感じながら少女達を見ていた。
ただ一人、少年だけは、少女が男へ向ける視線に何とも言えない物を抱えてはいたが。
「・・・良いなぁ」
少年は自分が無意識に呟いている事に、全く気がついていなかった。
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~
トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。
旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。
この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。
こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる