角持ち奴隷少女の使用人。

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47、洗髪。

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「あ~・・・気持ち良い。冬の風呂は格別だよなぁ・・・」

仕事も終わり、夕食もとり、後は寝る以外の用事の無い状態でゆったりと風呂に入る男。
屋敷には少女が良く叩き込まれる風呂が有るのだが、男がここを使う事は少ない。
男の部屋にはシャワーも付いている為、夏場は特にそれで済ましてしまう。
だが寒くなって来た時期の風呂は好きな様で、こうやって時々使っている。

ただこの風呂、普段は使用人達が使っているので男が入り難いというのも理由だ。
なので入りたい時は先に告げてから入るという様子で、家主なのに気を使いまくりである。
だが女性を敵に回すと怖いと知っている男は、その辺りは細心の注意を払っている。

「・・・あれ?」

そんな彼なので風呂に入る時の対応はしっかりやっているつもりだ。
だから今日もちゃんと伝えてから入っているのだが、それなのに脱衣所に人の気配がする。
男は慌てて腰を上げ、脱衣所の方を凝視した。

「・・・俺、ちゃんと言ったよな・・・うん、言った」

うっかりをやったかと思い自分の記憶を手繰り寄せ、確かに女に伝えた事を思い出す。
確かに言ったと不安ながらも確信を持ち、ならば誰だろうかと考える。
そこでふと、唯一の男の使用人の存在を思い出し、それなら大丈夫かと腰を落ち着けた。
暫くしてカラカラと音が鳴り、ペタペタと歩いて来る音が耳に入る。

「おう、少年、今丁度良い加減だ・・・」

男は湯船に浸かりながら入ってきた人物を見て、びしっと固まってしまった。
そこに居たのは少年ではなく、スポンジを手に持つ少女であった。
ただしちゃんと服は着ており、使用人服ではないが濡れても大丈夫な服の様だ。

「・・・あ、あー。多分予想通りだと思うけど、洗いに来たのかな」

男はすぐに気を取り直し、おそらくそうであろうという予想を口にする。
そしてそれは予想通りであり、少女は気合いを入れてコクコクと頷く。
その様子を見て、男は今から言う事にとても気が重くなっていた。
だが言うしかない。言わざるを得ない。意を決して男はそれを口にする。

「その、ごめん、俺、もう洗ってる」

男はちゃんと体を洗ってから湯船に入る人間であった。
少女はその言葉を聞き、ガーンと効果音がしそうな表情でぽとりとスポンジを落とす。
余りに解り易い反応に少し苦笑してしまうも、どうしたものかと頭を悩ませる男。
そもそも今日に限ってこんな事をしに来た理由は何故なのだろうかと。

「いや、あいつだろ。あいつしか居ねぇ」

男は少女に聞かずに入れ知恵をした人間を決め付け、後で制裁を加える事も決める。
ただその決めつけは実は正解であり、犯人は案の定彼女である。
そうこうしているうちにショックから立ち直った少女はぺこりと頭を下げ、トボトボと風呂場を去って行く。

「あー、そ、そういや、髪は湯船で温まった後もう一回洗うと良いとか、そんな事を聞いた事が有る様な気がするな」

そんな少女を不憫に思い、棒読みで少女に告げる男。
ただし効果は素晴らしく、少女はパァっと顔を輝かせてパタパタと戻って来た。
何がそんなに嬉しいのかと思いながらも、笑顔に戻った事に男は息を吐く。

「こーら、嬉しいのは解ったけど走るな。こけるぞ」

少女は注意されてピタッと止まり、ちゃんと歩いて洗い場に陣取る。
男が上がって来るまで動く気がない様だ。
ニコニコ笑顔で待つ少女に負け、男は立ち上がろうとして、また座った。

「すまん、ちょっと後ろ向いてて」

少女は男の言葉に首を傾げながらも素直に後ろを向き、その間に男は少し遠い所に置いたタオルを手に取る。
そして前を隠しながら洗い場に向かい、椅子に座ってタオルを足の上に被せる。

「よし、良いぞー」

少女は振り向くと男が椅子に座っている事に少し残念な顔を見せた。
予定では椅子を温める予定だったのだが、座ってしまったものはしょうがないと次に進む。
そしてスポンジを泡立てようとして、体は洗わなくて良い事に気が付く。
最初の予定と違う事だらけで少女は若干パニックになっている様である。

男はその様子を何となく察しながらも黙って待っていた。
変に声をかけると余計にパニックになりそうだし、慌てて怪我をしそうだと感じていたからだ。
少女は時々信じられない勢いでミスをするので、なるべく慌てさせない方が良い。

特に今いる場は風呂場で自分は裸。何か有ったら女に殺される。
男は命が惜しいので、静かに少女が正常に戻るまで待つのであった。
そうして男がゆっくり待っていた甲斐が有り、少女はとりあえず復帰した様だ。
とりあえずスポンジを置いてシャワーを手に取り、お湯を出して男の頭にお湯をかける

シャワーを一度止め、シャンプーを泡立て始めた所で男は少し嫌な予感がした。
少女が背後で泡立てている物から、やたらとフローラルな香りがする。
だがそれを問う前に頭にわしゃわしゃと少女の手が入り、男はそこで全てを諦めた。

少女が使っているシャンプーは確実に使用人の誰かが使っている物だ。
明日は頭からこの香りがするのかと死んだ目になり、少女に気がつかれない様に溜め息を吐く。

そんな男の心情など知るはずもなく、少女は懸命に頭を洗っていた。
ただ今回も料理と同じく、他の使用人達の頭を洗って練習をしていたりする。
なので案外気持ち良い事に男は気が付き、ちょっと眠くなり始めていた。
この後は寝るだけの予定だったので余計に眠いのだろう。段々猫背になっている。

「あー・・・上手いな」

男少し意識を手放しそうになりながらの、無意識に口から出た言葉だった。
だが少女にとってはとても嬉しい言葉だった様で、ご機嫌になりながら洗髪を続ける。
風呂場特有の反響する空間の中、少女の鼻歌が響く事で余計に間延びした空気が生まれていた。

少女はシャワーを手に洗剤を洗い流し、今度はトリートメントを手に取る。
それからもかなりフローラルな香りがしていたが、男は眠たくなっているので気にならない。
少女の小さい手がわしゃわしゃと頭に這うのがマッサージになっている様で、意識を手放さない様にするだけで精いっぱいの様だ。
ただ髪の短い男のトリートメントはすぐ終わり、少女はしっかりと洗い流す。

「・・・・あ、終わったか」

頭に手が乗っていない事で、はっと意識を取り戻す男。最早殆ど寝ていた様だ。
男が顔を上げると少女は横に立ち、ニコニコ笑顔で男を見つめていた。

「ありがとな。気持ち良かったよ」

頭を撫でて礼を言うと、少女は手に頭を擦りつけるようにしながらこれ以上ない笑顔を見せた。
犬か猫のような仕草に微笑ましく思いながらも、覚めてきた頭は状況を思い出す。
今の自分は裸で、目の前に居るのは少女なのだと。
間違いを犯す気などは無いが、状況的に色々不味いと。

「ちょっと温まったら出るから、もう行ってくれると嬉しいかなぁ・・・」

少女は男の少し焦る様な言葉に首を傾げるが、素直に頷いて風呂場を去ってはくれた。
ただ最後まで何でだろうという表情のままではあったが。
男はほっと息を吐いて浴槽に戻り、ぐでっと体を伸ばす。
ただ少女の洗髪は予想以上に気持ち良く、このまま浸かっていては寝ると思い早めに上がる。

そして脱衣所に向かうと、少女はタオルを手に待っていた。
まさか待っていると思っていながった男は前を隠しておらず、慌てて扉を閉める。
少女は勢いよく閉められた扉に驚いて固まり、男は心底驚いた様子で蹲った。

「そういうのは良いから! 自分でやるから!」

怒る気は無いし焦っただけなのだが、少々強めの言葉で男は言ってしまう。
少女はそれにビクッとした後、少し俯きながら脱衣所を出て行った。
男は自分の失敗にすぐ気が付いたが、この姿で追いかける訳にも行かないので服を着る。

服を着終わって脱衣所を出ると、少女は扉の前で男を待っていた。
その事に安堵の息を吐きながら男は少女の前に立つ。
少女は一瞬びくっとした後、恐る恐るといった様子の上目遣いで男を見上げた。

今から怒られるのだろうかと思っている少女だが、男にそんな気は無い。
いつもの様子で少女を撫で、少女は何故撫でられているのかと首を傾げる。
さっき怒られたのだから注意を受けると思っていたのに、何故撫でられているんだろうと。

「さっきは怒鳴ってごめんな。けどな、お前は女の子で俺は男なんだ。だからその、異性の裸っていうのは余り見ちゃいけないもんでな。今後は気を付けて欲しいかな。あー、えっと、その、大事な人以外の異性の裸は見ちゃいけないっていうかな。あ、勿論見せるのもな?」

男はどう説明したら良い物かと悩みながら、少女に今回の事を伝える。
ただ自分は何を言っているのだろうと思っているせいか、若干訳が解らない感じになっている。
それでも少女はコクコクと頷き、男の言葉をしっかりと聞いていた。

本当に解ったのかは少し不安である。
だがこれ以上突っ込むの逆に怖い男は、頷く少女の頭を撫でて終わらせた。

「でも気持ち良かったよ。それは本当だ。ありがとうな」

ポンポンと頭を軽く叩いてその場を去る男。だが男はその時の少女の顔を見るべきだった。
少女は「褒められた」と認識し、本当に花が咲く様な笑顔を見せている。
そしてそれは「次こそ体を洗おう」と決意を下した瞬間でもあった。

何故なら男は大事な異性の裸以外は見てはいけないと言ったのだから。
少女にとっては男は自分を幸せにしてくれた大事な人だ。だから見ても問題ない。
なので次こそと少女は心に誓い、その時男は自分の迂闊さを呪うのであった。
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