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40、拡大していく畑
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「寒い」
段々と冬の気配を感じる中、男は上着を着こんで震えながら畑に立っていた。
収穫用の籠を用意する少女はモコモコではあるが元気いっぱいに動き回っている。
今日は使用人服用に用意された上着なので汚れが目立たない地味な服なのだが、それでもチマチマ動き回っている少女の可愛さは消せていない。
男はまさかこんな寒空の中収穫をやるとは、やはり予想していなかった様だ。
少女の誘いに最初は戸惑っていたが、現状の畑を見ては納得するしかない。
「いつの間にかビニールハウスなんて出来てるし・・・」
男が視線を動かすと中々豪華なビニールハウスがあり、その中では冬では育てられないであろう野菜が育てられている。
更に男にとっては不可解な事に、その横にこの寒空にもかかわらず元気に緑色を保って育っている植物もあった。
まさかあれは真冬でも育つのだろうかと、ここに至って自分の言葉の軽率さに本当の意味で気が付く男である。
「爺さん、ビニールハウスはちょっとやり過ぎじゃないか?」
「あはは、申し訳ないですなぁ」
少女に知識を与える原因となった老爺に文句を言う男だが、老爺は堪えた様子を見せない。
むしろ少女が楽し気に走り回っているのを、お茶を手に楽しげに見つめている。
「大体あんな物を設置する為の金をどっから出したんだ」
「おや、旦那様が許可したと旦那様の御付き様からお聞きしましたが」
「あの女ぁ!」
今畑にあるビニールハウスの資金は屋敷の維持費から出ている。
なので懐が痛むのは男だけであり、その事実を今初めて知ったのであった。
とはいえ女は別にこの事を黙っていたわけではなく、必要書類にこっそりと混ぜておいたのだ。
女のやる事だからと、屋敷の維持費用をきちんと確認しなかった男が悪いのである。
「くっそ。まあどうせ最終的には許可出してたと思うから良いけどさ」
「ははは、お二人共あの子に甘いですなぁ」
「爺さんに言われたくないな。お互い様だろ?」
「はは、確かに」
暖かいお茶を手に少女を見守る老爺も、伝えればどうなるか解っていてビニールハウスを教えたのだ。
男はそれも理解しているからこそ、最早何も言う気が起き無くなっている。
なにせ少女に甘いのは自分も同じなのだから。
いや、甘いという点だけで言うならば、屋敷の住人全員が少女に甘いのだろうが。
「ま、可愛いのは認めるよ。あんな娘なら欲しいな。素直で可愛くて元気で良い子だ」
「旦那様はまだ遅くないでしょう?」
男の言葉に老爺は口を出すが、男は少し暗い顔をして空を見上げる。
そのまま暫く黙っていたが、大きな溜め息を吐いてゆっくりと口を開いた。
「うーん、子供の前に相手がな。好きな女とか出来た事が無いんだよなー」
「一人もですかな?」
「一人も。屋敷の使用人共は気楽で良いんだが、異性と思えるかと言えば全く思えない」
「難儀ですなぁ」
男は別に男が好きなわけではない。そして女の体に興味が無いわけでもない。
だがしかし、どうにも恋愛としての異性というものに興味が持てなかった。
好きな女と言われれば挙げられる人間は数人いるのだが、それはあくまで性別が女性なだけ。
単純に友人や家族、仕事仲間として好きなだけという話でしかないのだ。
「・・・まあいざとなったらあの子を養女ってのもアリか」
「この国は夫婦でないと、養子にするには色々と面倒ですよ?」
「あー・・・まあ、一応簡単にやる案は、無いわけじゃない。あいつが嫌がらなきゃだけど」
「何となく想像がつきました。喧嘩にならない事を祈ってますよ」
男の考えは少し問題が有るのだが、その中身に察しがついた老爺はそれ以上追及しなかった。
下手に口にして誰かの耳に入れば、そちらの方が面倒なのだから。
「わー、めっちゃ手を振ってる、あれこっち来てって事だよな。ここ風よけあるから避難してるんだけどなー」
少女は準備が出来たと、男を呼ぶ為に手をブンブンと振っている。
その顔は満面の笑みであり、男が動かなければどうかしたのかと全力でかけて来るだろう。
「行ってらっしゃい旦那様」
「偶には爺さんも来いよぉ」
「年よりは寒さに弱いんですよ」
「その服の中懐炉詰まってるくせに。良いよ、行って来るよ。あーさみ」
男はぶるぶると震えながら、早く早くとせかす少女の下へ早足で向かう。
その楽し気な様子を遠くから見ている老爺は、二人は本当の親子の様だと思っていた。
そして願わくば、このまま暖かい時間がずっと過ぎて行きますように、とも。
なお、今日の収穫物は芋である。
サツマイモの様に連なる芋を、と言うか完全にサツマイモを引き抜く男。
収穫日が少し寒くなり過ぎではあるが、それでも何とかなったので少女は満足であった。
後で複眼がこれでお菓子を作ってくれる約束も有るので、楽しみで仕方ない様だ。
「え、これどれだけ出てくんの。ていうかこの芋は時期ちょっと遅くね?」
という男の言葉は一切聞こえていなかった。
段々と冬の気配を感じる中、男は上着を着こんで震えながら畑に立っていた。
収穫用の籠を用意する少女はモコモコではあるが元気いっぱいに動き回っている。
今日は使用人服用に用意された上着なので汚れが目立たない地味な服なのだが、それでもチマチマ動き回っている少女の可愛さは消せていない。
男はまさかこんな寒空の中収穫をやるとは、やはり予想していなかった様だ。
少女の誘いに最初は戸惑っていたが、現状の畑を見ては納得するしかない。
「いつの間にかビニールハウスなんて出来てるし・・・」
男が視線を動かすと中々豪華なビニールハウスがあり、その中では冬では育てられないであろう野菜が育てられている。
更に男にとっては不可解な事に、その横にこの寒空にもかかわらず元気に緑色を保って育っている植物もあった。
まさかあれは真冬でも育つのだろうかと、ここに至って自分の言葉の軽率さに本当の意味で気が付く男である。
「爺さん、ビニールハウスはちょっとやり過ぎじゃないか?」
「あはは、申し訳ないですなぁ」
少女に知識を与える原因となった老爺に文句を言う男だが、老爺は堪えた様子を見せない。
むしろ少女が楽し気に走り回っているのを、お茶を手に楽しげに見つめている。
「大体あんな物を設置する為の金をどっから出したんだ」
「おや、旦那様が許可したと旦那様の御付き様からお聞きしましたが」
「あの女ぁ!」
今畑にあるビニールハウスの資金は屋敷の維持費から出ている。
なので懐が痛むのは男だけであり、その事実を今初めて知ったのであった。
とはいえ女は別にこの事を黙っていたわけではなく、必要書類にこっそりと混ぜておいたのだ。
女のやる事だからと、屋敷の維持費用をきちんと確認しなかった男が悪いのである。
「くっそ。まあどうせ最終的には許可出してたと思うから良いけどさ」
「ははは、お二人共あの子に甘いですなぁ」
「爺さんに言われたくないな。お互い様だろ?」
「はは、確かに」
暖かいお茶を手に少女を見守る老爺も、伝えればどうなるか解っていてビニールハウスを教えたのだ。
男はそれも理解しているからこそ、最早何も言う気が起き無くなっている。
なにせ少女に甘いのは自分も同じなのだから。
いや、甘いという点だけで言うならば、屋敷の住人全員が少女に甘いのだろうが。
「ま、可愛いのは認めるよ。あんな娘なら欲しいな。素直で可愛くて元気で良い子だ」
「旦那様はまだ遅くないでしょう?」
男の言葉に老爺は口を出すが、男は少し暗い顔をして空を見上げる。
そのまま暫く黙っていたが、大きな溜め息を吐いてゆっくりと口を開いた。
「うーん、子供の前に相手がな。好きな女とか出来た事が無いんだよなー」
「一人もですかな?」
「一人も。屋敷の使用人共は気楽で良いんだが、異性と思えるかと言えば全く思えない」
「難儀ですなぁ」
男は別に男が好きなわけではない。そして女の体に興味が無いわけでもない。
だがしかし、どうにも恋愛としての異性というものに興味が持てなかった。
好きな女と言われれば挙げられる人間は数人いるのだが、それはあくまで性別が女性なだけ。
単純に友人や家族、仕事仲間として好きなだけという話でしかないのだ。
「・・・まあいざとなったらあの子を養女ってのもアリか」
「この国は夫婦でないと、養子にするには色々と面倒ですよ?」
「あー・・・まあ、一応簡単にやる案は、無いわけじゃない。あいつが嫌がらなきゃだけど」
「何となく想像がつきました。喧嘩にならない事を祈ってますよ」
男の考えは少し問題が有るのだが、その中身に察しがついた老爺はそれ以上追及しなかった。
下手に口にして誰かの耳に入れば、そちらの方が面倒なのだから。
「わー、めっちゃ手を振ってる、あれこっち来てって事だよな。ここ風よけあるから避難してるんだけどなー」
少女は準備が出来たと、男を呼ぶ為に手をブンブンと振っている。
その顔は満面の笑みであり、男が動かなければどうかしたのかと全力でかけて来るだろう。
「行ってらっしゃい旦那様」
「偶には爺さんも来いよぉ」
「年よりは寒さに弱いんですよ」
「その服の中懐炉詰まってるくせに。良いよ、行って来るよ。あーさみ」
男はぶるぶると震えながら、早く早くとせかす少女の下へ早足で向かう。
その楽し気な様子を遠くから見ている老爺は、二人は本当の親子の様だと思っていた。
そして願わくば、このまま暖かい時間がずっと過ぎて行きますように、とも。
なお、今日の収穫物は芋である。
サツマイモの様に連なる芋を、と言うか完全にサツマイモを引き抜く男。
収穫日が少し寒くなり過ぎではあるが、それでも何とかなったので少女は満足であった。
後で複眼がこれでお菓子を作ってくれる約束も有るので、楽しみで仕方ない様だ。
「え、これどれだけ出てくんの。ていうかこの芋は時期ちょっと遅くね?」
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