角持ち奴隷少女の使用人。

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23、少女の給金。

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少女はピョコピョコと元気良く働いている。
今日も使用人に揶揄われながら、いつも通りのニコニコ笑顔で仕事をこなしていた。
ここにきてからまだ一年もたったわけでは無いのに本当に良くやっている。
男は働く少女を眺めながら、ぼんやりそう思っていた。

何も知らない状態から少女はここまでになっている。
いや、何も知らないからこそ少女は吸収が良いのかもしれない。
どちらにせよ、そろそろ男がお客さん扱いするには困る程少女は働いていた。

ポカミスが多々あるが、それでも役に立たないとは言えない程に動いている。
まず少女は体力が凄まじい。
体力仕事だと、数日かけてやるような事でも一日で終わらせてしまう。
それだけでも雇うに値する物だと男は思っていた。

「と、言うわけで、そろそろまともな給金を真剣に考えているんだが」

男は少女の今後の扱いをどうした物かと女に相談をする事にした。
今までも少女にお金を渡した事が全くないというわけではない。
ただそれは本当にお小遣い程度の金額。子供が買いに行けば消える様な可愛い金額だ。

なので今回男は、少女の面倒を一番見ている人間に意見を聞こうとしている。
このまま雇っても良いかどうかと。
女は男の言葉を聞きながら少女を見つめ、暫くしてから口を開いた。

「あの子に給金を渡す事自体は悪いとは言いませんが・・・」

女にしては珍しく、歯切れの悪い様子をみせる。
男自身そんな様子を珍しいと思いながら女の言葉を待った。
その最中、少女はこけてテーブルに突っ込んでいた。ちょっとした惨事がそこで起こっている。

慌てて駆け寄る周囲の使用人達と、びっくりした様子で起き上がる少女。
怪我はない様だ。

「あの子はあくまで買われて来た子。その金額を超える仕事をしたのかどうか。あの子の為にかけたお金の分はどうするのか。その辺りの事ははっきりさせるべきでしょうね」

そして今その換算の中には、少女がつっこんで壊したテーブルも含まれているだろう。
少女は起き上がって心配してくれている周囲に謝ると、女がじっと見つめていた事に気が付いて、背筋をピンと伸ばしてぺこぺこ頭を下げる。
そんな少女の様子を見て男は苦笑していた。

「そうだな。勉強道具もそうだし、その為にお前を拘束していた時間があった事もそうだし」

少女にかけた金額は決して馬鹿高いという物では無い。
真面目に働いていれば普通に返せるような金額だ。

ついでに今少女が壊したテーブルも高い物では無い。
男は基本、成金趣味な家財道具は好まないどころか、安物を好む傾向がある。
稀に高くても気に入って買ってしまう事も有るが、本当に稀だ。

「少なくとも後二年、あの子にはこの現状のまま在って貰うのが良いかと私は思っております」
「二年も給金なしか」
「旦那様、お忘れですか? あの子は奴隷であり、旦那様は飼い主です。たとえ解放するとしてもそれなりの手続きが要ります。そこにかけるお金をあの子自身が支払いをしない、と?」
「あー、そっか、そっちが有ったかぁ。完全に忘れてた」

男は元々少女のやりたい事はやらせるつもりで屋敷に連れてきていた。
なのでその辺りは、自分が補助すれば何の問題もないと思っていた。
だがもし少女を正式に、奴隷では無く使用人にする為には、ある程度の手続きが必要なのだ。

もし少女が自分にかかる金の事を知ればどう思うか。そんな事はすぐに解る。
自分を解放する手段にもそれなりの金がかかると知れば、きっと少女は手続きを受けない。
手続きの際に説明をされ、その説明を聞いた少女が首を縦に振るとは思えない。
男はそう結論に至った。

「勿論衣食住を本人に稼がせているというなら別ですが、現状旦那様は全てをあの子に与えています。この状況で、未だ彼女自身にかけた金額も回収出来ていないのに払うとなると、色々と面倒ですね」
「屋敷の人間皆で口裏合わせてもダメか?」
「出来ない事は無いですが、そんな面倒をかけるぐらいならあの子にこのまま数年過ごして貰う方が楽で、何の面倒もありません」
「そっか、なら、しょうがないか」

男としては、少女を屋敷から出して遠出させるのは危険だと思っている。
だからこそ屋敷内で好きにやりたい事をやらせてやりたい。
だというのに、少女は仕事が有るなら率先してやろうとする。
あれを見て給金を考えないというのは、男には少し苦痛であった。

「それに大体あの子に給金を渡して正式に使用人にしたら、色々と他の事も大変ですよ?」
「あん、なんでだ」
「ここの屋敷の使用人は、割のいいお仕事として認識されているんです。あの子はお手伝いの子という扱いだからこそ平和ですが、そうではなくなった事が周囲に知られればどうなるか。あの子が何年も働いているベテランならともかく、先ほどの様なポカをやらかす子ですよ」

女の発言に、男は少女の方に目を向ける。
少女はせっせと先程突っ込んで壊したテーブルを片付けている。
怪我が無いのが不思議なほどの壊れ方だ。

「確かに、そっちの問題が有ったか」
「ええ、ですので、せめてああいった事が無くなるまでは今まで通りがよろしいかと」

男も従業員への待遇にはそれなりに気を遣っている。
働き口として良い場所で在る様にとは思っており、そしてその成果は出ている。
なので周囲の人間にとって、ここはとても良い働き口であった。

「それに、どう説明するんですか。彼女がしっかりとやりたい事を見つめるまで、そのままの方が貴方にとっても良いと思いますよ。彼女の生い立ち、説明しないと駄目でしょう、その場合」
「あっ・・・!」

男が驚いた様に声を上げた事で、女は冷めた目を男に向ける。
男はその視線を悔しいと思うものの、言い返せないので甘んじて受け入れた。

「あの子に、貴方の口から話すんですよ。出来ますか?」
「いや、前にその話はちょろっとしたから多少は覚悟できてっけどさ・・・」
「そうですか、ではあの笑顔が曇るのも覚悟の上という事で良いですね?」

女に促されて男は少女を見る。楽しそうに、本当に楽しそうに笑顔で仕事をする少女を。
コロコロと笑い、仲の良い使用人達にトテトテと付いて回る少女を見て、男は気が重くなるのを感じた。

「きっついな・・・」
「でしょう。因みに私も嫌ですよ」
「わーってるよぉ」

男の出した結論に、女も同じだと口にする。
絶対に代わってなどやらないとの意思も込めて。
男は女の言葉に項垂れながらも女の言葉を肯定する。それは自分がやるべき事だと。

「あの子がやりたいという事を見つけて、それがあの子を開放しないと駄目な事でない限り、このままで良いと思います」
「まあ、生活に不自由させない様にさせればいいか。給金自体も小遣い程度なら渡せるし」

男は女に相談して良かったと心から思っていた。
自分が逸って手続きを進めていたら、かなり面倒な事になっていたと感じていたからだ。
少なくとも、少女が心に傷を負った可能性がある。

「旦那様があの子にお金を渡すさまって、援助交際みたいですよね。流石旦那様気持ち悪い」
「感謝して損した! 一言多いなお前は!」
「何ですか? かかってきますか? ほらほらおいでなさい」
「上等だこの年増が。無駄に生理痛起こしやがって」
「あ? 生理痛舐めてますね? 何よりも無駄にってどういうことか詳しく説明して貰いましょうか。内容次第によっては容赦しませんよ」

そして二人はいつも通りのリアルファイトに発展するのだった。
ただし先の通り女は生理痛で調子が悪く、男に勝利した後に貧血で倒れてドロー。
慌てた少女が女を抱き上げて部屋まで運んだ事を後で知らされ、記憶がない事を本気で後悔する女であった。
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