角持ち奴隷少女の使用人。

四つ目

文字の大きさ
上 下
9 / 247

8、執事見習い。

しおりを挟む
「よ、よろしくお願いします!」

ある日、少年が執事見習いとして屋敷にやってきた。
とはいってもここでずっと働くわけでは無く、ここで勉強をしていずれ帰る身だ。
男の友人の家に勤める執事の孫らしい。少女と同じぐらいの年齢だ。
子供らしい高い声での挨拶が可愛らしく感じる事だろう。

「ああうん、よろしく。まあ、何か困ったらこいつに言ってね」

男はいつもの調子で軽く返事をし、女に少年の面倒を投げた。
女もいつも通りと対応し、少年の前に出る。
少年は女の眼光に固まっていた。相変わらずの女である。

「ここでは使用人の纏め役をしている。何かあれば私に言え」

この屋敷に「執事」は居ない。
その役は女が請け負っており、基本的に屋敷の事は女に聞けばほぼ解る。

「は、はい!」

少女はそれを、何故か使用人の中に混ざって見ていた。
少女は使用人達に混ざって仕事はするが、使用人ではない。
あくまで少女がお手伝いをしているだけだ。

給金の類は発生していない。だからこそ、使用人達も彼女を可愛がっている。
そこそこお手伝いの出来る、少し面倒を見ていなければいけない子として。

だが少年がそんな事を知る由もなく、並んでいた使用人に少女を見つけ、自分と同じぐらいの子がいると少し安心した。
この屋敷では、少年少女と呼べるような見習いは基本雇わない事にしている。
なのでこの屋敷には、少女以外に女の子と呼べる者は居ない。

そもそも使用人の数もそこまで居るわけでは無い。
大きな屋敷だからといって、必要以上に抱える気は無いという男の意向だ。
雇おうと思えば雇えるが、人があまり多いのが好きでないというのも理由ではある。

「では、まずは屋敷の中を案内しよう。ついて来い」
「はい、お願いします!」

女が少年を連れて奥に行くと、それを合図としたかの様に使用人は皆散っていった。
少女は解っていなかった為、皆が散っていくのをキョロキョロと見ていた。
そして少し悩んだ後、いつもの使用人の彼女にトテトテとついて行こうとする。

最近は完全に女か彼女が少女の面倒見役になっていた。
勿論、他の使用人達も面倒は見てくれている。完全にマスコットではあるが。

「あ、ちょっとまって」

だが少女は男に呼び止められ、すぐに振り返って男の下へ歩いて行く。
そして男の前でキチンと背を伸ばして、ワクワクした顔で男の言葉を待った。

その顔を見て男は少し悩む。
男の些細な言動からも、少女が張り切ろうとするのが最近は解っている。
だが、流石に今回の事は大丈夫だろうと気楽に結論を出し、男は少女に要件を告げた。

「あの子年近いだろうから、何かあったら様子見て、話し相手にでもなってあげて」

男は、子供が大人に話せない事が有ると知っている。だから少女に話し相手を頼んだ。
勿論相手が少女だから話せるという訳ではないが、まだ同じ子供の方が気楽だろうと。
頼まれた少女はコクコクと頷き女と少年の後を追おうとするが、それは男によって止められた。

「今日は良いから。しばらくしたらね」

と言われ、少女は首を傾げたものの、素直にコクリと頷いた。
ただ顔がワクワクしている事に、男は少しだけ不安を覚えたのであった。






少年が来てしばらくたった頃、少女は言われた通りに少年の様子を見ていた。
ただひたすらに、物陰からじっと見つめていた。
そう、ひたすらに様子を窺っていた。少年はいつ自分に話しかけてくるだろうかと。
そして使用人たちは皆、クスクスと笑いながらそんな少女を見ていた。

「あ、あの、何か用なのかな?」

最初の頃こそ、仕事ぶりを見られているのかと気にしない様にしていた少年だが、流石に毎日では声をかけずにはいられなかった。むしろ良く今まで声をかけなかった物である。
声をかけられた少女はやっと男との約束を果たせると、とてとてと少年の傍に歩いて行く。

「あ、あれ?」

そこで少年は気が付いた。少女が使用人の服を着ていない事に。
少女には見間違う事などありえない特徴がある。頭に一本の角という特徴が。
角の生えた少女など、この屋敷には彼女以外見かけた覚えは無い。

だが少年の目の前にいる少女は、とても可愛らしい服に身を包んだ良家のお嬢様の様だった。
それにより少年は混乱してしまう。少女はいったい何者なのかと。

「あれ、えっと、君、使用人じゃ」

狼狽えつつ問う少年の言葉に、ふるふると首を振る少女。
少女は、自分が使用人として雇える程ではないという自覚が有った。
何より面倒を見て貰っている身。その恩を少しでも返せればと行動しているに過ぎない。
だが少年は少女の答えに勘違いをして、一歩下がって頭を下げる。

「す、すみません、てっきり使用人の方かと。失礼な態度を取って申し訳ありません」

少年は少女がこの屋敷の主人所縁のお嬢様だと、そう認識して頭を下げた。
ある意味で間違ってはいないが、少女は別にこの屋敷のお嬢様ではない。
一応客人扱いされては居るものの、そこまで重々しい扱いをされてもいない。
使用人達には揶揄われ、遊ばれ、愛でられている事からも窺える。

だが少女は頭を下げる少年を前に、どうしたものかと悩む。
何故少年が頭を下げているのか解らなかったからだ。
先の通り、少女はそこまで客人扱いされているわけでは無い。
皆に気軽に話しかけられているので、少年が何故謝るのかが解らなかった。

とりあえず顔を上げさせようと、少女は少年の手を取り手と顔を上げさせる。
それに応じて少年が顔を上げると、にこやかな笑顔でこちらを見つめる綺麗な女の子がいた。
そしてその女の子は自分の手を握っている。
そう認識した少年は顔が熱くなっていくのを自覚し、狼狽えたように口を開く。

「あ、あの、て、手が仕事で汚れていますので、その」

あわあわとしながら口を開く少年を、不思議そうに首を傾げながら見つめる少女。
その仕草が余計に可愛らしく見え、少年は一層顔を赤くする。
少年は同年代の女の子に耐性が無かった。
周囲は大人ばかりで、関わりも仕事での関わりだった。
故に、同年代の少女に顔を近づけられ、手を握られるなどという事は初体験だった。

「す、すみません、ま、まだ仕事があるんで失礼します!」

少年はどうして良いのか解らなくなり、その場を走って逃げだした。
勿論少女の手を無理矢理振りほどく事などせず、優しく手を放してからだ。
少女は走って去って行く少年をポカンと見つめて見送った。
そして我に返り、失敗したのだと、少女は少し落ち込みつつ自室に戻る。






「・・・私はあんな事された事ないぞ」

それを見ていた女は、少年を恨めしそうに睨んでいた。
暫くなぜ睨まれているのか解らず、訊ねても別にお前は悪くないと返され、びくびくしながら仕事をする日が少年には続いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

交換した性別

廣瀬純七
ファンタジー
幼い頃に魔法で性別を交換した男女の話

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

処理中です...