角持ち奴隷少女の使用人。

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1、角持ちの少女。

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冷たい廊下に二人分の靴音が響く。片方は奴隷商人。片方はその客。
客の男は商人の後ろを特に何かを気にするでもなく、あまり興味無さげにただついて行く。
道中にいる奴隷には多少観察をする程度で、興味を引いたという様な行動は見られない。

男の注文は「安い子供」という雑な物で、そこまで質に拘っていないと感じる。
それ故に商人は好都合だと内心ほくそえんでいた。
早めに売ってしまいたい奴隷の中に、その条件の奴隷が居たからだ。

「コレで如何でしょうか」

商人が立ち止まって促した先には、やけに頑丈そうな格子の中で、格子に劣らず頑丈そうな枷を手足に嵌められている少女が一人。
頭には一本の角らしき物が有り、耳は少しとがっている。
一見して目立った外傷の類などは無いがやせ細っており、恐らく食事が足りていないのだろうという事が見て分かる体躯だ。体も随分と汚れている。

と、客の男は少し首を傾げつつ、少女を観察していた。
ただ少女の拘束にしてはいやに物々しいが、男はそれに対し特に疑問に思う様子は見せない。
男が格子に一切の疑問を口にしない事に、商人は口の端が自然と上がる。コイツはカモだと。

「コレはちょっと訳アリで売れ残ってまして、お安くできるかと」

商人が笑みを浮かべながら言うが、男は興味を惹かれた風もなく少女を見ている。
その所作を見て商人は内心、頼むから買ってくれと呪う様に祈っていた。

商人はこの奴隷を早く手放したくて、捨て値と言っていい安値で売り出している。
それでも今回の良く解らない様子で奴隷を買いに来た男を、この客を逃せばもう少女は売れないという予感が商人には有った。
それだけこの少女は訳アリ商品で、売れなくなる大きな理由付きの奴隷なのだ。
何よりその訳アリの事情を黙った上で売ろうとしている辺り、切羽詰まった感が良く解る。

そもそも少女は本来なら物珍しい奴隷だったりする。
少女の頭に有る角と同じ種類の角を持つ人間は、人を商品として扱う奴隷商も見た事が無い。
幼い少女で珍しい角着き。道楽で買いに来たならば本来食いついてもおかしくは無い。
むしろ捨て値で売るなど有りえなく、競売にかけて値を釣り上げても良い程。
だからこそ商人はこの少女を仕入れたのだが、それが運の尽きだった。

少女には角の珍しさ以上に、奴隷になった経緯を語ると売れなくなる程の理由が付いている。
商人は少女を手に入れる際にその辺りの情報確認を怠り、仕方なくお上に入られないように最低限の世話だけはして、そのせいで予想外の出費が増えてしまっていた。

だからと言って不正な処分をしてしまえば、自分が奴隷に等という事にもなりかねない
長期間における格子生活で倒れた等でも有れば商人にとっては良かったのだろうが、年単位の格子生活にも拘らず少女はしぶとく生き残っている。
このままだと費用と手間が無くなるのが何時になるのか解らず、どうにかして手放したいのだ。

「じゃあこれで」
「はい、お買い上げ有難うございます」

客の男は特に何も考えた風もなく少女を買い付けると告げる。
返事を貰った瞬間の商人は内心小躍りする程だったが、そんな事はおくびにも出さず少女を売る手続きをささっと済ませた。
書類には少女が奴隷になった経緯が書いているが、勿論そんな事は最後まで口にしない。
確認を怠る方が悪いのである。

「ほら、今日からこの人が主人だ。お客様、これがこの娘についている枷の鍵です」

商人がそう言い格子を開けると、少女は体をびくつかせながらおずおずと出て来て頭を下げる。
男が少女の頭に手をポンと置くと、少女は叩かれるのかと思わず体を縮こませた。
それを見て男は方眉を上げながら頭をポリポリとかく。

思っていたより少女は意志がしっかりしているなと、男は思ったらしい。
少女はここに居た期間が長い筈なのに、目がちゃんと生きていると。
だがそんな事を考えるよりとりあえずここを出ようと判断し、少女に声をかける。

「んじゃ、行こうか・・・いや、枷は外して行くか。デカくて邪魔だし」
「え!? いやお客様、それは・・・」
「ん、何か駄目なのか? 別に良いはずだろ?」
「ああいえ、すみません、お気になさらず。要らないのでしたらその辺に置いて行って下さい。私はちょっと他の仕事が有りますので失礼致しますね。ありがとうございましたー」

商人は逃げる様にその場を離れていき、男は相変わらず何も気にする様子無く少女の枷を外す。
言われた通りにその辺に枷を投げて放置すると、また少女の頭を軽く撫でた。

「じゃあ今度こそ行こうか」

男は少女から手を放して歩き出し、少女は戸惑いつつも慌てて彼の後ろをついて歩いて行く。
その歩みは、少女の歩幅で難なくついて行ける速度であった。
全てに必死な少女が気が付けるはずもなく、男も自然体にやっている事だったが。




外に出るとすぐ傍に止めてあった車に乗り、特に会話も無く黙々と車を走らせる男。
少女は流れゆく景色に少し興味をそそられながらも、何も語らない男に少し怯えている。

そのまま車で数時間揺られて少女が降ろされた先は、中々に大きい御屋敷の玄関の前だった。
先に降ろされた少女が入り口の前で呆けていると、男は車を駐車場に止めて歩いて戻り、屋敷の扉を開けて中に入っていく。
少女はわたわたしながら、慌ててその背中を追いかけた。

「お帰りなさいませ」

男が中に入ると使用人の恰好をした背の高い女が出迎え、男の上着を受け取った。
女は横目で少女を見て、何かを問う様に男に目を戻す。
その目はとても鋭く、少女は思わずびくりと身構えてしまっている。

「この子頼むな。女の子だし」
「畏まりました」

男は短く言うと、少女を女に預ける。
当の少女は状況が解らず、びくびくと怯えつつ女の様子を窺っていた。
女は鋭い目で上から下まで観察する様に少女を見る。その目はあまりに険しい。
少女は目に見えて怯えて涙目で後ずさるが、既に閉められたドアによって逃走は阻まれた。

「その汚さで屋敷をうろつかせるわけにはいかんな・・・先ずは洗うか」

女は凄まじい形相とドスをきかせた声音で少女に言い放ち、怯える少女をひょいと持ち上げる。
そして小脇に抱えなおすと、スタスタと何処かへ移動を始めた。

少女は抵抗すれば何をされるか解らないという恐怖から、なす術もなく連れていかれる。
女は脱衣所の着くと中に入り、少女を降ろして有無を言わさず服をはぎとった。
状況に追いつけず面を食らう少女だが、女が気にする様子は見られない。

「体を洗った事はあるか?」

またもドスのきいた声で問われ、少女は涙目でフルフルと首を横に振る。
少女は物心ついた時から奴隷だった。そんな少女が自分で体を洗った事などある筈もない。
そもそも体を洗うという概念も良く解っていない可能性が有る。

女は少女の答えを確認すると服を脱ぎだし、再度少女を小脇に抱えて浴場に入っていく。
少女は最早何をどうすれば良いのか解らず、終始びくびくしながら女の行動に任せていた。

「座れ」

女は短くそう言うと少女を下ろし、少女はの指示通り目の前にあった椅子に座る。
これから何が起こるのかと不安な少女の頭に女の手が乗り、思わず体を固くしてぎゅっと目を閉じていると、丁度良い温度のお湯を頭からかけ、優しい手つきで頭を洗い始める女。
少女は予想外の事に驚くも、その気持ち良さから自然と体の力が抜けていっていた。

女はシャンプーを洗い流し、今度はトリートメントを少女の髪につけ、それも綺麗に洗い流す。
それが終わるとスポンジに石鹸を付けて泡立たせ、当然の様に少女の全身を洗い始める。
女の力加減は絶妙で、少女が緊張を完全に忘れる程に気持ちが良い様だ。

だが洗い終わった後に女が少女の顔を拭き、少女が目を開けて女の顔を確認した事で再度その緊張は帰ってくる事となる。
女の表情は、少女には直視できない程の険しい顔をしていたのだ。

「良し・・・後は温まっていろ。ちゃんと温まってから出て来いよ」

少女は怯えながら慌てる様にコクコクと首を縦に振り、女は少女が湯船に入ったのを確認してから出て行った。
そして言われた通りちゃんと湯船で暫く温まってから、恐る恐る脱衣所に戻る少女。

すると女がバスタオルを持って構えており、わしゃわしゃと少女の全身を拭き出した。
少女は驚きと緊張で固まっていて良く解っていないが、女の拭き方は頭を洗った時と同じく、険しい態度とは違ってとても優しい。

「これに着替えろ・・・着方が解らんか」

拭き終わると女は着替えの衣服を突き出し、少女は怯えながら言う通りに着ようとする。
だがどう着ればいいのか解らない様で、女に手伝って貰いながら着る事になった。

着替えが終わると、女はまた少女を抱えてどこかに歩き出す。
この時点で少女は既に何かを諦めていた。慣れはじめていたともいう。
とはいえ怖いのは相変わらずで、不安げにきょろきょろとしているのだが。

そうして今度は大きな鏡台の前に少女を座らせ、ドライヤーを手に髪をとかし始めた女。
少女はどう対応していいのか解らずオロオロするが、結局大人しくしておいた方が良いという結論に至る。風呂場の時と同じだ。
女は手早く少女の髪を整え、揃っていない毛先も軽く切りそろえていく。

「これで良いか。前を見てみろ」

女の言葉を聞き、少女は初めて正面の鏡できちんと自分を見る事になる。
そこには栄養が足りず手足が細い物の、そこそこ悪くない容姿の小さな少女が座っていた。
屋敷に来るまでぼさぼさだった髪も綺麗に整っている。

少女は目をパチクリさせながら鏡を見て、首を傾げて確認している。
どうやら目の前の少女が自分だと上手く認識出来ていない様だ。

「取り敢えずはこれで良いだろう。後は・・・屋敷でも少し回るか」

ぽけーっとした様子で確認していた少女だが、女に話しかけられまたビクッとする。
なにせ女の視線は目で人が殺せそうな程険しく、訳の解らない迫力を発していたからだ。

その後は言葉通り少女は屋敷の案内を軽くされる事になるが、事有るごとに女にドスのきいた声で話しかけられ、次は何を言われるのかと常にびくびくと怯えている。
途中で他の使用人の者達に挨拶をされたが、少女は女に怯えるばかりで殆ど覚えていなかった。
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