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子供の事
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「あはは、そっか、咲さんそんな事言ってたんだ」
春さんに先日の母の事を伝えると、笑いながらそう返された。
因みに今日は春さんの家だ。ここ最近は相談せずとも、休日になるとどちらともなく当然の様にどちらかが家に会いに行っている。
いや、それは正確ではないか。最近は平日も休日も関係なく会う頻度が増えている。
私が会いに行く回数の方が多いので、少しばかり引かれてないか心配だったりするけど。
「ええ・・・真面目に話す時は最後まで真面目に話して欲しいものです」
笑う春さんに小さな溜め息を吐きながら応える。
この溜め息は春さんにではなくお母さんに対してだ。
一応本当に心配してくれてだとは思うけど、それならそれで最後までちゃんと母親をやってほしいと思うのは我が儘だろうか。
「でも咲さん、明ちゃんの事本当に大好きだからねぇ。心配は心配だと思うよ」
「まあ、その、子供の頃から、愛されてる自覚はありますけど・・・」
口にしておいてなんだが、少し恥ずかしい。
けど、ちゃんと解っている。お母さんは私を愛してくれている事を。
「母親かぁ・・・うちは居ないから少し羨ましいかな」
春さんは父子家庭だ。
春さんが小さい頃に亡くなったとは聞いているけど、それ以上の事は聞いた事が無い。
聞いて良いものかという想いや、聞いたところでどう返せばいいのかとも思っていた。
「そういえば春さんは、お母さんの記憶って在るんですか?」
でも、今は違う。
もし彼が話すのを嫌がればもうしないけど、変に気を遣い過ぎはしない。
お互いの事を聞く事を躊躇はしない。私達はそう決めたんだから。
長く付き合っていくなら、いつか知る事になる可能性も大きい事を避ける意味はない。
何より大好きな人の事だし、知っておきたいって思う。
「お袋には悪いと思うんだけど、俺の母の記憶って写真の中の存在だね。一応記憶の片隅にそれらしき記憶は有るんだけど、殆ど覚えてないんだ」
「そうですか・・・何ならうちの母に甘えてみます?」
「あはは、咲さんにはそれなりに甘えさせて貰ってるかなぁ。勿論母親というよりも頼りになる大人としてだけど」
「あの人が頼りになる大人ですか・・・」
お母さんはしっかり仕事をしているし、稼いでいるのは知っている。
色々と人脈も持っていて、私なんかよりよっぽど凄い人だという事は解っている。
けど「大人」と言われると、思わず首を傾げてしまう。
「あはは、身近過ぎるとそうなるのかもね」
「かもしれません」
お母さんは自由人な所を抜けばきっと立派な大人なのだろう。
その自由なところが、家族としては致命的なのだけど。
「それにどうせ甘えるなら、俺は君に甘えるかな」
「・・・それは、その・・・えっと、きますか?」
春さんのニヤッと笑いながらの言葉に少し照れてしまい、どう答えた方が良いのか悩んだ末、手を広げて迎える体勢をとってみた。
すると春さんは素直に私の胸に抱きつき、甘える様に顔をこすりつけて来た。
「ほらほら、甘えてるよ? 抱きしめてくれると嬉しいなぁー」
「え、あ、えっと、はい」
私にすりつく春さんを抱きしめ、何とも不思議な気分で頭も撫でる。
すると彼は心地よさそうに目を細め、私の方手を取って手にキスをして来た。
一度ではなく、何度も彼の柔らかい唇が私の手に降れる。
「えへへぇ、あーきらちゃん♪」
「――――っ」
あ、解った。この人わざとやってる。
それが解った所で、結局可愛いのでそのまま抱きしめて甘やかすけど。
ただこれ、春さんが甘えているのか、私が甘えて貰っているのか悩む。
・・・まあ、どっちでも良いか。幸せだし。
「大好きだよ明ちゃん。だから、子供は君も俺もちゃんと育てられるようになってからにしよう。俺達の為にも、子供の為にも」
「・・・このタイミングで真面目な事言うのは私がちょっと恥ずかしいです」
「あはは、ごめんごめん。それじゃ今日はいっぱい甘えさせて貰おうかな。明おねーちゃん♪」
「――――、春さん、狡いですよね。私のツボ抑えてばっかりで」
「こういう俺は嫌い?」
「大好きです。可愛すぎます」
嫌いなわけがない。可愛くて堪らないだけだ。
この調子でもし子供が出来たら、私はお母さんと同じになるんじゃないだろうか。
子供に惚気る親になるのは避けられない気がする・・・。
春さんに先日の母の事を伝えると、笑いながらそう返された。
因みに今日は春さんの家だ。ここ最近は相談せずとも、休日になるとどちらともなく当然の様にどちらかが家に会いに行っている。
いや、それは正確ではないか。最近は平日も休日も関係なく会う頻度が増えている。
私が会いに行く回数の方が多いので、少しばかり引かれてないか心配だったりするけど。
「ええ・・・真面目に話す時は最後まで真面目に話して欲しいものです」
笑う春さんに小さな溜め息を吐きながら応える。
この溜め息は春さんにではなくお母さんに対してだ。
一応本当に心配してくれてだとは思うけど、それならそれで最後までちゃんと母親をやってほしいと思うのは我が儘だろうか。
「でも咲さん、明ちゃんの事本当に大好きだからねぇ。心配は心配だと思うよ」
「まあ、その、子供の頃から、愛されてる自覚はありますけど・・・」
口にしておいてなんだが、少し恥ずかしい。
けど、ちゃんと解っている。お母さんは私を愛してくれている事を。
「母親かぁ・・・うちは居ないから少し羨ましいかな」
春さんは父子家庭だ。
春さんが小さい頃に亡くなったとは聞いているけど、それ以上の事は聞いた事が無い。
聞いて良いものかという想いや、聞いたところでどう返せばいいのかとも思っていた。
「そういえば春さんは、お母さんの記憶って在るんですか?」
でも、今は違う。
もし彼が話すのを嫌がればもうしないけど、変に気を遣い過ぎはしない。
お互いの事を聞く事を躊躇はしない。私達はそう決めたんだから。
長く付き合っていくなら、いつか知る事になる可能性も大きい事を避ける意味はない。
何より大好きな人の事だし、知っておきたいって思う。
「お袋には悪いと思うんだけど、俺の母の記憶って写真の中の存在だね。一応記憶の片隅にそれらしき記憶は有るんだけど、殆ど覚えてないんだ」
「そうですか・・・何ならうちの母に甘えてみます?」
「あはは、咲さんにはそれなりに甘えさせて貰ってるかなぁ。勿論母親というよりも頼りになる大人としてだけど」
「あの人が頼りになる大人ですか・・・」
お母さんはしっかり仕事をしているし、稼いでいるのは知っている。
色々と人脈も持っていて、私なんかよりよっぽど凄い人だという事は解っている。
けど「大人」と言われると、思わず首を傾げてしまう。
「あはは、身近過ぎるとそうなるのかもね」
「かもしれません」
お母さんは自由人な所を抜けばきっと立派な大人なのだろう。
その自由なところが、家族としては致命的なのだけど。
「それにどうせ甘えるなら、俺は君に甘えるかな」
「・・・それは、その・・・えっと、きますか?」
春さんのニヤッと笑いながらの言葉に少し照れてしまい、どう答えた方が良いのか悩んだ末、手を広げて迎える体勢をとってみた。
すると春さんは素直に私の胸に抱きつき、甘える様に顔をこすりつけて来た。
「ほらほら、甘えてるよ? 抱きしめてくれると嬉しいなぁー」
「え、あ、えっと、はい」
私にすりつく春さんを抱きしめ、何とも不思議な気分で頭も撫でる。
すると彼は心地よさそうに目を細め、私の方手を取って手にキスをして来た。
一度ではなく、何度も彼の柔らかい唇が私の手に降れる。
「えへへぇ、あーきらちゃん♪」
「――――っ」
あ、解った。この人わざとやってる。
それが解った所で、結局可愛いのでそのまま抱きしめて甘やかすけど。
ただこれ、春さんが甘えているのか、私が甘えて貰っているのか悩む。
・・・まあ、どっちでも良いか。幸せだし。
「大好きだよ明ちゃん。だから、子供は君も俺もちゃんと育てられるようになってからにしよう。俺達の為にも、子供の為にも」
「・・・このタイミングで真面目な事言うのは私がちょっと恥ずかしいです」
「あはは、ごめんごめん。それじゃ今日はいっぱい甘えさせて貰おうかな。明おねーちゃん♪」
「――――、春さん、狡いですよね。私のツボ抑えてばっかりで」
「こういう俺は嫌い?」
「大好きです。可愛すぎます」
嫌いなわけがない。可愛くて堪らないだけだ。
この調子でもし子供が出来たら、私はお母さんと同じになるんじゃないだろうか。
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