後藤家の日常

親友への愚痴

「ムカつく」

空也さんを背もたれにして、最近の草野の態度を思い出して悪態を吐く。
そんなあたしを片手で抱きしめ、反対の手で頭を撫でる空也さん。

「幸せそうなんだし、祝ってあげなよ」
「明の事は祝うけど、あいつは嫌だ」

さっきまで、明の最近の様子を話していた。
あたしと遊ぶ回数は変わっていないけど、間に草野が居る事が増えている。
それがあたしには気に食わなくて、その時の気分を思い出したのがさっきの言葉だ。

草野と話している時の幸せそうな様子の明を思い出し、複雑な想いが胸に渦巻く。
明が幸せな事が嫌なわけじゃない。むしろ嬉しい。
親友が幸せなんだ。嬉しくないわけがないんだ。それは間違いなく本心だ。
けど、どうしても胸にもやっとしたものが残る。

「なんか、草野っちに明を取られたみたいで、腹立つんだよねー」

あたしの方が付き合いは古いし、子供の頃から一番の友達なのに。
高校に入ってからたった数年の間に、その距離より近くに居る男。
あたしの親友の懐に、親友自身の望みの下で入り込んだ野郎。

「雛ちゃんは本当に彼女の事が好きだね」
「・・・そりゃねー」

空也さんには口が裂けても言えないが、明が男だったらきっと空也さんより惚れていた。
いや、女でもあっても、子供の頃はきっと明の事が好きだった。
あたしにとって明っていう人間は、そういう相手。
単純に友人以上の感情を持っている人間だ。

だからずっと傍に居た。小さい頃はそれこそ毎日だ。
勿論今の明に抱いている感情は違う物だけど、それでもやっぱり悔しい事は変わらない。
あの男はあたしが長年頑張って手に入れた所を、簡単に手に入れやがった。
明が望んで向かって言った事だと解っているけど、気に食わないものは気に食わない。

「空也さん、撫でるより抱きしめて欲しいかな」

空也さんはあたしの我が儘に何も言わずに応え、後ろから抱きしめてくれる。
友人が取られた寂しさを彼氏で紛らわしているなんて、酷い我が儘だ。
けどそんな我が儘をこの人は許してくれる。解っていてわざとやっている。
甘えているだけなのだが、甘えさせてくれるこの人が暖かいのが悪い。

「たぶん、以前は彼女も同じ様な気持ちだったと思うよ？」
「明が？」

空也さんの言葉に、彼の顔を見ようと振り向く。
彼は優しい笑顔でこちらを見つめていた。

「彼女は過去、俺に君との事を色々聞いて来た事が有るし、今でこそそうでもないけど、結構厳しい目で俺の事見てたよ？」
「マジで？」
「本当だよ」

え、なに、明ってばあたしにやきもち焼いてたの？
何それ可愛い。そういうのはちゃんと本人にしっかり言いなさいよ。
あ、いやでも、何かそんな感じの事さらっと以前言っていた様な。
いやいや、もっとしっかり言ってくれないと解らないって。明は言葉が足りないんだから。

「そっか・・・なら、おあいこなのかな」
「そうだね。だから素直に祝ってあげようよ」
「うーん・・・でもやっぱ草野は好きになれない」
「だめかぁ・・・」

空也さんの言う事も解るし、少し機嫌は良くなったけど、やっぱ気に食わん。
大体何よ、最近のアイツの見た目。
あたしより可愛いじゃん。すげームカつく。

「あの男が可愛い限りあたしは許さん。女として負けた気しかしない」
「あ、あはは」

空也さん流石に少し呆れた様子で笑っているが、ここは譲れない。
彼氏としては認めるけど、それ以上は認めないもんね！