後藤家の日常

四つ目

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母の技

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「春休みだけど、春くんと旅行に出かけたりしないのかーい? 春だけに。あ、ごめん、そんな冷たい目で見ないで。ママ泣いちゃう」

春休みに入って中頃に、お母さんがつまらない冗談と一緒にそんな事を言い出した。
冷たい眼を向けていると勝手に謝って来たので、視線を戻して洗濯物をたたむ。
別に旅行に行かなくても春さんとは良く会っているし、そもそも私達は学生だ。
親同伴で旅行に行くなら兎も角、本来は遠出程度で済ませるべきだ。

「でも実際、どこかに行かないの?」
「春さんと会えれば私は別に」
「ふーん」

私の答えにニヤニヤとした顔で返すお母さん。
その真意は全く解らないけど、何となくイラッとする。
でも無視して服をたたみ終える。

「ほら、ちゃんと自分の所にしまっておいてね」
「へーい」

適当な返事を返すお母さんに溜息を吐いて、時計を見る。そろそろ夕方か。
今日の春さんは仕事なので、終わってから会う予定だ。
・・・夜中になるので、勿論泊りだ。
こういう事をしている時点で、旅行とかあまり関係ない気がする。少なくとも学生のうちは。

「明ちゃんさー、お金足りてる?」
「何が?」
「いや、ラブホに行く頻度がどれぐらいかしらないけど、お金足りてるのかなって」
「っ、な、何言い出すの、お金に困る程そんなに行ってな――――」

しまった、これ誘導尋問だ。その証拠にお母さんの顔が一層いやらしい。
『やっぱりそこそこ行ってるんだ。ホテルでないと出来ない事やってるのね、解る解る』とでも言いそうな。
いや、これは考えすぎかもしれないけども、近い事は考えているはずだ。

「どんなプレイしてるのかな? お母さんに聞かせてみ?」
「酷い。思ってたより酷い」
「ふえ?」

私の頭を抱えながらの言葉に、お母さんは心底不思議そうに首を傾げる。
その様子を見て私は更に頭を抱え、深い深い溜息を吐く。何を考えてるんだこの人は。

「あのね、そういう事言うと思う?」
「え、でも近所の奥さんは娘が旦那との夜が上手く行ってないって話してたよ」
「ねえ、お母さん、まさか外で私の事話して無いよね?」
「話して無いよー。流石にそこはね」

良かった。流石にそこら辺の常識は持っていてくれたのか。
でもそれならなぜ私のプレイがどうなどと聞いたのか。この人は本当に訳が解らない。
真面目な時とふざけてる時の差が激し過ぎる。

「私がどれだけ旦那様愛しているかは言っちゃってるけどね。きゃは☆」

ポーズを決めながらそう宣言するお母さんに、死んだ目を向ける私。
駄目だこの人、本当に駄目だ。この人今年で47だという自覚は有るのだろうか。

「例えば、何言ったの」
「私の体でたーくんが触って無い場所は内臓以外無い事とか、今は兎も角若い頃は私よりたーくんの方が体力有ったせいでい―――」
「いい、もういい。お願い黙って」

もうやだ。この母親やだ。近所に一体何を言いふらしてるんだ。
絶対この人には春さんとの情事の内容とか知られるわけには行かない。

「ぶーぶー。良いじゃん愛し合ってる夫婦が惚気てるだけじゃんかー」
「それは惚気っていわないの。一歩間違えれば逮捕されるからね、それ」

言動だけでも公然猥褻は確か該当したはずだ。
相手次第で大変な事になる。

「ふーんだ。お母さんはこの鍛えた技で、春くんが喜ぶ事教えてあげようかなーって思っただけなのに」

お母さんの言葉に、思わず体がぴくっと動いた。
私の反応を見逃さなかったお母さんは、にんまりしながら私の顔を覗き込んでくる。

「教えてあげるよー?」
「・・・真面目に?」
「もっちろん!」
「・・・・・・・・・・・なら、お願い」

かなりの時間葛藤して、お母さんに教えを乞う事を決める。
その私の様子も楽しまれていた気もするけど、春さんが喜ぶかもという考えで頭が埋まって行った私にはどうしようもなかった。

「おーけーおーけー! まっかせて! 春くんが足腰立たなくなる様なの教えてあげるね!」

嬉しそうに全力で答えるお母さんに一抹の不安は覚えるが、本当に色々教えてくれそうだ。
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