後藤家の日常

四つ目

文字の大きさ
上 下
127 / 144

ハッピー

しおりを挟む
『仕事終わったから、今から向かうね』

携帯にメッセージが入っている事に気が付き、送り主が来るのを今か今かと待っている。
今日はどういう格好で来るのだろうか。流石に仕事上がりだからってドレスでは来ないだろう。
モコモコの着ぐるみ寝間着では・・・もっと無いな。
あの格好またしてくれないかな。凄く可愛かったのに、余り着てくれない。

「お母さん、今日春さん来るから」
「あいよー。ゴム要る?」
「怒るよ」
「やあん、まだ学生なのに避妊無しは危険だって、お母さんの親心なのにぃ」
「怒った」
「ああ、まってまって、ママそっち方向に腕曲がらないから! 痛い痛い、ギブギブ!」

そんな感じでいつもの調子でお母さんと雑談していると、呼び鈴の音が響く。
お母さんから手を放し玄関に向かい、今日はどんな格好かなと思いながら玄関の扉を開けた。

「ハッピーバレンタイーン」

そこには仕事の化粧のまま、ウィッグもつけたままの春さんが立っていた。
手には可愛らしい包装の箱が有り、上目遣いの様子を見る気配で彼は私を見つめている。

「春さん、これ、何ですか?」
「えーと、その、チョコレート」

チョコレート。春さんから私にチョコレート。
えっと、つまりそれは、彼が私に用意してくれていたって事で、あれ、でも、春さんはこのイベント好きじゃ無かったはずだけど。

「急ぎで作った生チョコだから、微妙な可能性が有るけど」
「春さんの気持ちの籠った物なら何でも嬉しいです」

しかもどうやら手作りの様だ。流石に私の様にカカオから作ってはいないだろうけど。
そもそもカカオから作る奴がおかしいので、そこは気にしてはいけない。
市販品を利用するのが一般的な物だ。

「嬉しいです。ありがとうございます、春さん」
「・・・良かった」

お礼を言うと、ほっとした様に息を吐く春さん。
そういえば、そもそも何故彼はそんなに緊張しているのだろう。

「ごめんね、実は咲さんから連絡貰ってさ・・・その、渡し難くなる様な事言っちゃったから、俺から渡せば少しは君の気が楽になるかなって。ごめんって意味も有るんだ、それ」
「・・・ああ、なるほど」

お母さんか。腹が立つなぁ。
本当、普段はろくなことしないのに、こうやっていい所を抑えてくれるんだから。
これだから嫌いになれない。
悔しいけど、お母さんが居なかったら春さんと付き合えたかも怪しいし。

「とりあえず、上がって下さい」
「あ、うん、おじゃまします」
「そうだ、化粧を先に落としますか?」
「そうだね、そうさせてくれると助かる」

私の言葉に頷いて、洗面所に向かう春さん。
最早お互いの家の間取りなんて、完全に解りきっているので案内は要らない。
私はその間にタオルを取りにいき、春さんの下へ持って行く。

「どうぞ、タオルです春さん」
「アリガト、明ちゃん」

春さんにタオルを渡し、私は冷蔵庫からチョコレートとチョコケーキを取り出す。
それを自室まで持って行き、道中で揶揄って来たお母さんに悔しいけど礼を言っておいた。
反撃を受けると身構えていたお母さんは、何故か物足りなさそうだったけど。
やっぱりあの人、ある程度は怒られたくてやってると思う。

「明ちゃん、入っていい?」
「どうぞ、春さん」

化粧を落とした何時もの顔の春さんが部屋に入って来たのだけど、何か違和感を感じた。
そうか、まだウィッグを外していないんだ。
何時もの春さんも良いけど、やっぱり髪の長い春さんも良いな。

「どうぞ、春さん。これは私からのです」

私はテーブルに用意しておいた二つの物体を、春さんの方にずいっと動かす。

「・・・なんか、二つあるうえに片方大きくない?」
「そっちはケーキですから。でもそっちの方が手間がかかって無いですよ」
「そうなんだ・・・ありがとう明ちゃん。嬉しいよ」

受け取った春さんは本当に嬉しそうに、天使のような笑顔で私に礼を述べる。
未だ見慣れない長髪も加わって威力が大きい。化粧を先に落として貰ってて良かった。
これでもし化粧迄されていたら、私は本当に昇天していたかもしれない。

「あ、そうだ、明ちゃん、その、流石に無いと思うんだけど、いっこ確認して良いかな」
「はい、どうしました?」
「今回の事は咲さんからメッセージ貰ったんだけど、追加でちょっと書かれてた事が有ってさ」
「はあ・・・」

春さんは携帯を取り出し、その画面を見せる。
見た瞬間、私はさっき礼を言った事を本気で後悔した。

『明ちゃん、チョコレートプレイ楽しみにしてると思うし、いっぱい楽しんでねーん。体に塗ったら全身舐められちゃうかもよ。あ、逆の方が良いかな?』

そんな、ふざけた文章が、書かれていた。
私は無言で立ち上がり、まだお母さんの居る居間に向かう。
関節技の痛みに叫ぶ声でお父さんが起きて私を止めるまで、お母さんへの制裁は続いた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

兄になった姉

廣瀬純一
大衆娯楽
催眠術で自分の事を男だと思っている姉の話

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

処理中です...