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ハッピー
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『仕事終わったから、今から向かうね』
携帯にメッセージが入っている事に気が付き、送り主が来るのを今か今かと待っている。
今日はどういう格好で来るのだろうか。流石に仕事上がりだからってドレスでは来ないだろう。
モコモコの着ぐるみ寝間着では・・・もっと無いな。
あの格好またしてくれないかな。凄く可愛かったのに、余り着てくれない。
「お母さん、今日春さん来るから」
「あいよー。ゴム要る?」
「怒るよ」
「やあん、まだ学生なのに避妊無しは危険だって、お母さんの親心なのにぃ」
「怒った」
「ああ、まってまって、ママそっち方向に腕曲がらないから! 痛い痛い、ギブギブ!」
そんな感じでいつもの調子でお母さんと雑談していると、呼び鈴の音が響く。
お母さんから手を放し玄関に向かい、今日はどんな格好かなと思いながら玄関の扉を開けた。
「ハッピーバレンタイーン」
そこには仕事の化粧のまま、ウィッグもつけたままの春さんが立っていた。
手には可愛らしい包装の箱が有り、上目遣いの様子を見る気配で彼は私を見つめている。
「春さん、これ、何ですか?」
「えーと、その、チョコレート」
チョコレート。春さんから私にチョコレート。
えっと、つまりそれは、彼が私に用意してくれていたって事で、あれ、でも、春さんはこのイベント好きじゃ無かったはずだけど。
「急ぎで作った生チョコだから、微妙な可能性が有るけど」
「春さんの気持ちの籠った物なら何でも嬉しいです」
しかもどうやら手作りの様だ。流石に私の様にカカオから作ってはいないだろうけど。
そもそもカカオから作る奴がおかしいので、そこは気にしてはいけない。
市販品を利用するのが一般的な物だ。
「嬉しいです。ありがとうございます、春さん」
「・・・良かった」
お礼を言うと、ほっとした様に息を吐く春さん。
そういえば、そもそも何故彼はそんなに緊張しているのだろう。
「ごめんね、実は咲さんから連絡貰ってさ・・・その、渡し難くなる様な事言っちゃったから、俺から渡せば少しは君の気が楽になるかなって。ごめんって意味も有るんだ、それ」
「・・・ああ、なるほど」
お母さんか。腹が立つなぁ。
本当、普段はろくなことしないのに、こうやっていい所を抑えてくれるんだから。
これだから嫌いになれない。
悔しいけど、お母さんが居なかったら春さんと付き合えたかも怪しいし。
「とりあえず、上がって下さい」
「あ、うん、おじゃまします」
「そうだ、化粧を先に落としますか?」
「そうだね、そうさせてくれると助かる」
私の言葉に頷いて、洗面所に向かう春さん。
最早お互いの家の間取りなんて、完全に解りきっているので案内は要らない。
私はその間にタオルを取りにいき、春さんの下へ持って行く。
「どうぞ、タオルです春さん」
「アリガト、明ちゃん」
春さんにタオルを渡し、私は冷蔵庫からチョコレートとチョコケーキを取り出す。
それを自室まで持って行き、道中で揶揄って来たお母さんに悔しいけど礼を言っておいた。
反撃を受けると身構えていたお母さんは、何故か物足りなさそうだったけど。
やっぱりあの人、ある程度は怒られたくてやってると思う。
「明ちゃん、入っていい?」
「どうぞ、春さん」
化粧を落とした何時もの顔の春さんが部屋に入って来たのだけど、何か違和感を感じた。
そうか、まだウィッグを外していないんだ。
何時もの春さんも良いけど、やっぱり髪の長い春さんも良いな。
「どうぞ、春さん。これは私からのです」
私はテーブルに用意しておいた二つの物体を、春さんの方にずいっと動かす。
「・・・なんか、二つあるうえに片方大きくない?」
「そっちはケーキですから。でもそっちの方が手間がかかって無いですよ」
「そうなんだ・・・ありがとう明ちゃん。嬉しいよ」
受け取った春さんは本当に嬉しそうに、天使のような笑顔で私に礼を述べる。
未だ見慣れない長髪も加わって威力が大きい。化粧を先に落として貰ってて良かった。
これでもし化粧迄されていたら、私は本当に昇天していたかもしれない。
「あ、そうだ、明ちゃん、その、流石に無いと思うんだけど、いっこ確認して良いかな」
「はい、どうしました?」
「今回の事は咲さんからメッセージ貰ったんだけど、追加でちょっと書かれてた事が有ってさ」
「はあ・・・」
春さんは携帯を取り出し、その画面を見せる。
見た瞬間、私はさっき礼を言った事を本気で後悔した。
『明ちゃん、チョコレートプレイ楽しみにしてると思うし、いっぱい楽しんでねーん。体に塗ったら全身舐められちゃうかもよ。あ、逆の方が良いかな?』
そんな、ふざけた文章が、書かれていた。
私は無言で立ち上がり、まだお母さんの居る居間に向かう。
関節技の痛みに叫ぶ声でお父さんが起きて私を止めるまで、お母さんへの制裁は続いた。
携帯にメッセージが入っている事に気が付き、送り主が来るのを今か今かと待っている。
今日はどういう格好で来るのだろうか。流石に仕事上がりだからってドレスでは来ないだろう。
モコモコの着ぐるみ寝間着では・・・もっと無いな。
あの格好またしてくれないかな。凄く可愛かったのに、余り着てくれない。
「お母さん、今日春さん来るから」
「あいよー。ゴム要る?」
「怒るよ」
「やあん、まだ学生なのに避妊無しは危険だって、お母さんの親心なのにぃ」
「怒った」
「ああ、まってまって、ママそっち方向に腕曲がらないから! 痛い痛い、ギブギブ!」
そんな感じでいつもの調子でお母さんと雑談していると、呼び鈴の音が響く。
お母さんから手を放し玄関に向かい、今日はどんな格好かなと思いながら玄関の扉を開けた。
「ハッピーバレンタイーン」
そこには仕事の化粧のまま、ウィッグもつけたままの春さんが立っていた。
手には可愛らしい包装の箱が有り、上目遣いの様子を見る気配で彼は私を見つめている。
「春さん、これ、何ですか?」
「えーと、その、チョコレート」
チョコレート。春さんから私にチョコレート。
えっと、つまりそれは、彼が私に用意してくれていたって事で、あれ、でも、春さんはこのイベント好きじゃ無かったはずだけど。
「急ぎで作った生チョコだから、微妙な可能性が有るけど」
「春さんの気持ちの籠った物なら何でも嬉しいです」
しかもどうやら手作りの様だ。流石に私の様にカカオから作ってはいないだろうけど。
そもそもカカオから作る奴がおかしいので、そこは気にしてはいけない。
市販品を利用するのが一般的な物だ。
「嬉しいです。ありがとうございます、春さん」
「・・・良かった」
お礼を言うと、ほっとした様に息を吐く春さん。
そういえば、そもそも何故彼はそんなに緊張しているのだろう。
「ごめんね、実は咲さんから連絡貰ってさ・・・その、渡し難くなる様な事言っちゃったから、俺から渡せば少しは君の気が楽になるかなって。ごめんって意味も有るんだ、それ」
「・・・ああ、なるほど」
お母さんか。腹が立つなぁ。
本当、普段はろくなことしないのに、こうやっていい所を抑えてくれるんだから。
これだから嫌いになれない。
悔しいけど、お母さんが居なかったら春さんと付き合えたかも怪しいし。
「とりあえず、上がって下さい」
「あ、うん、おじゃまします」
「そうだ、化粧を先に落としますか?」
「そうだね、そうさせてくれると助かる」
私の言葉に頷いて、洗面所に向かう春さん。
最早お互いの家の間取りなんて、完全に解りきっているので案内は要らない。
私はその間にタオルを取りにいき、春さんの下へ持って行く。
「どうぞ、タオルです春さん」
「アリガト、明ちゃん」
春さんにタオルを渡し、私は冷蔵庫からチョコレートとチョコケーキを取り出す。
それを自室まで持って行き、道中で揶揄って来たお母さんに悔しいけど礼を言っておいた。
反撃を受けると身構えていたお母さんは、何故か物足りなさそうだったけど。
やっぱりあの人、ある程度は怒られたくてやってると思う。
「明ちゃん、入っていい?」
「どうぞ、春さん」
化粧を落とした何時もの顔の春さんが部屋に入って来たのだけど、何か違和感を感じた。
そうか、まだウィッグを外していないんだ。
何時もの春さんも良いけど、やっぱり髪の長い春さんも良いな。
「どうぞ、春さん。これは私からのです」
私はテーブルに用意しておいた二つの物体を、春さんの方にずいっと動かす。
「・・・なんか、二つあるうえに片方大きくない?」
「そっちはケーキですから。でもそっちの方が手間がかかって無いですよ」
「そうなんだ・・・ありがとう明ちゃん。嬉しいよ」
受け取った春さんは本当に嬉しそうに、天使のような笑顔で私に礼を述べる。
未だ見慣れない長髪も加わって威力が大きい。化粧を先に落として貰ってて良かった。
これでもし化粧迄されていたら、私は本当に昇天していたかもしれない。
「あ、そうだ、明ちゃん、その、流石に無いと思うんだけど、いっこ確認して良いかな」
「はい、どうしました?」
「今回の事は咲さんからメッセージ貰ったんだけど、追加でちょっと書かれてた事が有ってさ」
「はあ・・・」
春さんは携帯を取り出し、その画面を見せる。
見た瞬間、私はさっき礼を言った事を本気で後悔した。
『明ちゃん、チョコレートプレイ楽しみにしてると思うし、いっぱい楽しんでねーん。体に塗ったら全身舐められちゃうかもよ。あ、逆の方が良いかな?』
そんな、ふざけた文章が、書かれていた。
私は無言で立ち上がり、まだお母さんの居る居間に向かう。
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