後藤家の日常

四つ目

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姉の祝福

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「春、お金稼ぐのは良いんだけどさ、明ちゃんにちゃんと会ってる?」
「会ってるよ。何だよ、家に連れて来いって話なら自分で誘えよ」
「えー、あんたから誘うから効果が有るのにぃ」
「やなこった」

仕事の休憩中、姉貴が明ちゃんと会っているかと聞いて来たので、その真意に先回りして返事をする。
案の定彼女を誘えと言う意味だったらしく、姉貴は渋い顔をした。
そうそう何度も玩具にされてたまるかよ。

「大体自分で連絡とってんだろうが」
「あら、とうとう知っちゃった?」
「つーか、明ちゃんが俺の事好きなのも知ってたんだって?」

姉貴は彼女の気持ちを知っていて、黙ってくれるようにお願いされていたらしい。
あの頃の彼女は自分に自信が無かったし、知られたら嫌がられると思っていたそうだ。
その話を聞いて、もしそこで知っていたら、とは思わなくはない。
けどそれは自分の勇気の無さを誤魔化しているだけなので、流石に情けないとは思っている。

「だから何回もケツ蹴ってやったんじゃん。ヘタレ」
「あーあー、はいそうですよ、ヘタレですよ」

こればっかりは、何を言われても肯定しか出来ない。
姉貴は知っていたからこその発破をかけていた。俺はそれが怖くて話を避けていた。
くそムカつくが、姉貴は姉貴なりに俺を応援してくれてはいたんだろう。

「ま、上手く行ったし、今も上手く行ってるみたいで安心したよ」
「なんだよ、珍しい」

本当に珍しく優しい雰囲気で言ってきた事に、何か裏があるんじゃないかと身構える。
酷いと思われるかもしれないが、姉貴なので信用できない。

「一応これでも責任すこーし感じてたのよ」
「ああ?」
「あんたの事好きになってくれる女の子なんて、貴重だと思うからね。どうにかくっつけないとと思ってさ。そんな趣味にした責任を取らないと、ってね」

この女は一体何を言っているのだろうか。まるで俺が女装趣味の様に言いやがって。
俺がこの格好をしなきゃいけなくなった理由はお前が原因だろうが。

「良い感じに言えば俺がほだされると思うなよ」
「ちっ」
「舌打ちしてんじゃねえよ! もうちょっと頑張れよ!」
「えー、めんどくさーい」

通用しないと見るや、即普段通りに戻りやがった。
大体こいつはこういう奴なんだ。自分の欲望優先で俺の事なんか一切考えてねぇ。
恋人が明ちゃんじゃなかったら一生恨んでるぞ。

「ったく、俺はもう戻るからな!」
「あら、もうちょっと休憩できるでしょ」
「姉貴の傍だと休憩にならねえんだよ!」

上着を手に取り店の方に戻ろうと、扉に手をかける。

「春」

そこで姉貴に呼ばれ、不機嫌を隠さずに振り向く。

「なんだよ」
「おめでと」
「意味が解んねえよ」

嬉しそうに祝いの言葉を言う姉貴に、適当に返す。それでも何故か、姉貴は嬉しそうだ。
それ以上何かを言う様子は無かったので、そのまま仕事に戻った。
なーにがおめでとうなんだか。
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