後藤家の日常

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見つめる明

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「気になるのは判るけど少し落ち着きなさい。春くんが困ってるじゃないか」
「あ、うん。ごめんなさい、お父さん」

お店で仕事をしている春さんをずっと目で追っていたら、お父さんに注意されてしまった。
なので注文して手を出していない食事をしようとして、それが無い事に気が付いた。
ふとお母さんの方を見ると、空の皿が置いてある。

「あ、ごめん明ちゃん、美味しかったです!」
「・・・うん、今回は私も悪いから良いよ」

普段通りの自由なふるまいだけど、今日は春さんに注視していた私も悪い。
とりあえず心を落ち着ける為にドリンクを口にする。
冷たい物を頼んでおいたおかげで、少しだけ頭が冷えて聞く様な気がした。

「おねーちゃん、こっちお願いー」
「はぁーい」

他のお客さんに呼ばれ、甘える様な可愛い声で応える春さんの声が耳に入る。
そのせいで、思わず彼に目を向けてしまう。

今日の彼は背中の思いきり開いたドレスだ。
でも彼は普段のショートでは無く、エクステを付けて腰まで髪が有る。
そのせいで背中がしっかり見えない事が、余計に目を奪われる。
背後からだと彼の細い腰だけがいやに目立つ。

「明、明、だから見過ぎだって」
「あ・・・うん」

またお父さんに注意されてしまった。
でもだって、お店に出てる春さんを見るのは初めてなんだもの。何あれ、素敵すぎる。
営業スマイルなのは解っているけど、常に笑顔で、それもあんな猫なで声。

あの春さんが見れるなら、もっと早く連れて来て貰えば良かった。
何となく今までお店の方には来づらかったんだけど、早く来るべきだった。
普段と違って強めの化粧をしているからか、雰囲気もまるで違う。
ああ、凄く抱きしめたい。でも流石にお店でそれは出来ない。

「明ちゃん、手がやらしい」
「はっ」

お母さんにまで突っ込まれてしまった。自分を見ると、今にも掴みかかりそうな体勢だ。
一体私は何にタックルを仕掛けに行くつもりだ。
そこでふとお姉さんと目が合い、くすっと笑われてしまった。恥ずかしい。

「ママァー、お客さん呼んでるよー」
「はーい、今行くー」
「マッ!?」

春さんが春さんのお父さんを呼ぶのを聞いて、驚いてグラスを落としそうになった。

「いや明ちゃん、お店なんだから普通普通」
「春くんはお店に出ている時は、いつもあんな感じだぞ」

だがお母さんとお父さんは特に気にしていない。
実家の手伝いとはいえ、二人は春さんがオカマバーで仕事をしているのを許容してるんだよね。
一人娘の恋人相手なのに、懐広いなぁと今更思う。

「しっかしこれでまた、春くんと新しいプレイが出来るね、明ちゃん」
「ぶふっ、けほっ、けほっ」

もう一回落ち着こうとドリンクを口にした瞬間言われたせいで、吹き出してしまった。
何を言い出すんだこの母は。
私達はそういうのした事無いから。お母さんと違ってやらないから。

・・・この間のチャイナドレスは、その、ちょっと別で。
あれはしょうがない。だって春さんがいたずらして来たんだもの。

「おがあざん、げほつ、なに、げほっ、けほっ」
「ひゃー、こわーい」
「ああもう、明、ほら、とりあえず気管から出し切ろうな」

お母さんに文句を言おうとしたけど、気管にも入ってしまったせいでむせてしまう。
お父さんが背中を擦ってくれるが、結構勢いよく入ってしまったせいで結構苦しい。

「明ちゃん、大丈夫?」

気が付くと、春さんが傍まできて、小声で様子を伺いに来ていた。
それに応えたいのに、むせてしまって応えられない。

「大丈夫大丈夫、ちょっとむせただけだから」
「君が答えるのはどうかと思うよ咲ちゃん」

心の底からお父さんの言う事に同意したい。
お母さんめ、帰ったら覚えてろ。

「けふっけふっ、その、本当にちょっとむせただけで、大丈夫です。心配かけてすみません」
「そっか、良かった。何かあったらすぐ呼んでね」

先程の営業スマイルとは違い、本当にほっとした感じの、普段の笑顔で言う春さん。
けどそれも化粧の影響か、全然雰囲気が違って見えた。
それに思わず見惚れている間に、春さんはお父さんに呼ばれて仕事に戻って行ってしまった。

「明は本当に春くんが好きだな」
「だしょー。休み入ってからずっとこんなの見せつけられてんだよー?」
「それは普段の咲ちゃんと同じなんじゃないかな」
「私はもうちょっと周り見えてるもーん」

春さんを見つめる私の耳にそんな会話が入って来たけど、お母さんはもっと酷いと思う。
娘にどういうプレイをして燃え上がったとか、そういう事は言わないで良い。

ああでも、良いなぁ、あの春さん。
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