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いつもと大分違う帰り道
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『終わったよー』
放課後に端末を確認すると、そうメッセージが入っていた。
送られて来た時間は昼休みが終わった後頃か。
『お疲れ様です』
何か気の利いた言葉でも掛けたかったのだけど、思いつかずにそんなシンプルな返事を送る。
我ながらつまらない人間だなと思いながら、溜め息を吐きつつ端末を仕舞う。
そして鞄を持っていつも通り教室を出ようとする。
「明ちゃん、一緒に帰ろうー」
何故か、春さんが教室の外で待ち構えていた。
今までそんな事は一度も無かったので、とても珍しい。
いや、私は学校が終わったらすぐ出て行くので、そんな暇が無かっただけか。
教室にはまだ多くの生徒が残っているせいか、春さんの出現にざわついている。
「はい、春さん」
とはいえこの人が目立つのも、学校内では有名人なのも周知の事実なのできにせず返事をする。
すると何故か、教室内のざわめきは更に大きくなった。
流石にこれには不思議に思い、周囲を見渡す。
けど私が顔を向けると、皆少し目線を逸らして口をつぐむだけだった。
「気にするだけ無駄だと思うよ。じゃーねー」
ただ北島さんだけは、いつも通りの調子で私に手を振って帰っていった。
それを受けて、私の疑問よりも春さんを待たせる方が良くないと判断し、彼の傍に向かう。
「春さん、今日は早いですね」
「学校には戻ってくる予定だったんだけど、授業は受けなくてよくてさ。だから待ってたんだ」
つまり受験が終わって学校に戻ってから、ずっと私を待つためだけに学校に居たのか。
余りこれを嬉しいと思ってはいけないのだろうが、とても嬉しい。
「そうですか、じゃあ、いきましょうか」
「うん、いこうか」
彼の手を取り、靴を履き替えに階下に向かい、履き替えた後もまた手を繋いで帰路に就く。
ただ彼の手を取った際、凄い声が廊下に響いていた。
ざわめきが大きすぎて聞き取れなかったけど、皆驚きというか、信じたくないというか、そんな感じの声だった。
通学路では最近いつも手を繋いでいるけど、それでもあの反応か。
やっぱり春さんは人気あるんだな。
「春さん、今日は何かご予定はありますか?」
「うんや、特にないけど」
「なら今日はうちに来ませんか? ご馳走しますよ」
「んー、なら甘えようかな」
「はい、是非」
雛が夕食に来るのはいつもの事だが、最近は春さんもやってくるようになった。
勿論私が誘った時か、お母さんが誘った時だけだけど。
そのきっかけを作る事になった雛は、当日春さんをとても睨んでいたな。
「そういえばお父さんが最近、春くんはいつ来るんだ、何て言ってますよ」
「あー・・・明ちゃんの親父さん、優しいよね」
「はい、自慢の大好きなお父さんです」
「・・・うん」
お父さんの事を口にしたら、春さんの反応が少し鈍かった。
何か変な事を言ったのだろうかと不安になり、春さんの顔を覗き込む。
「どうしました、春さん」
「ああ、いや、ごめん。つまらない嫉妬だよ」
「・・・もしかして今のにですか?」
「まあ、うん」
照れくさそうに目を逸らしながら呟く春さん。照れている顔がとてもキュートだ。
上目づかいでこちらをチラチラ見る様子なんて、私を悶え殺す気かと言いたくなる。
その上その理由が、父を好きだと言った嫉妬とか、可愛すぎるだろう。
ああもう、この人本当に狡いぐらい可愛いな。
「お父さんには申し訳ないですけど、今の私には春さんが一番ですよ」
「・・・うん、ありがと。ごめんね、ちょっと情けないね今のは」
彼の手をぎゅっと握って、気持ちを伝える。
春さんはその言葉に、嬉しい様な困った様な情けない様なという、複雑な顔をしていた。
そんな春さんが余計に可愛くて堪らない。
今日は春さんお泊りだなと勝手に決定して、幸せな気持ちで歩を進める。
でもまずは、春さんの為に美味しい夕食を作らないと。
放課後に端末を確認すると、そうメッセージが入っていた。
送られて来た時間は昼休みが終わった後頃か。
『お疲れ様です』
何か気の利いた言葉でも掛けたかったのだけど、思いつかずにそんなシンプルな返事を送る。
我ながらつまらない人間だなと思いながら、溜め息を吐きつつ端末を仕舞う。
そして鞄を持っていつも通り教室を出ようとする。
「明ちゃん、一緒に帰ろうー」
何故か、春さんが教室の外で待ち構えていた。
今までそんな事は一度も無かったので、とても珍しい。
いや、私は学校が終わったらすぐ出て行くので、そんな暇が無かっただけか。
教室にはまだ多くの生徒が残っているせいか、春さんの出現にざわついている。
「はい、春さん」
とはいえこの人が目立つのも、学校内では有名人なのも周知の事実なのできにせず返事をする。
すると何故か、教室内のざわめきは更に大きくなった。
流石にこれには不思議に思い、周囲を見渡す。
けど私が顔を向けると、皆少し目線を逸らして口をつぐむだけだった。
「気にするだけ無駄だと思うよ。じゃーねー」
ただ北島さんだけは、いつも通りの調子で私に手を振って帰っていった。
それを受けて、私の疑問よりも春さんを待たせる方が良くないと判断し、彼の傍に向かう。
「春さん、今日は早いですね」
「学校には戻ってくる予定だったんだけど、授業は受けなくてよくてさ。だから待ってたんだ」
つまり受験が終わって学校に戻ってから、ずっと私を待つためだけに学校に居たのか。
余りこれを嬉しいと思ってはいけないのだろうが、とても嬉しい。
「そうですか、じゃあ、いきましょうか」
「うん、いこうか」
彼の手を取り、靴を履き替えに階下に向かい、履き替えた後もまた手を繋いで帰路に就く。
ただ彼の手を取った際、凄い声が廊下に響いていた。
ざわめきが大きすぎて聞き取れなかったけど、皆驚きというか、信じたくないというか、そんな感じの声だった。
通学路では最近いつも手を繋いでいるけど、それでもあの反応か。
やっぱり春さんは人気あるんだな。
「春さん、今日は何かご予定はありますか?」
「うんや、特にないけど」
「なら今日はうちに来ませんか? ご馳走しますよ」
「んー、なら甘えようかな」
「はい、是非」
雛が夕食に来るのはいつもの事だが、最近は春さんもやってくるようになった。
勿論私が誘った時か、お母さんが誘った時だけだけど。
そのきっかけを作る事になった雛は、当日春さんをとても睨んでいたな。
「そういえばお父さんが最近、春くんはいつ来るんだ、何て言ってますよ」
「あー・・・明ちゃんの親父さん、優しいよね」
「はい、自慢の大好きなお父さんです」
「・・・うん」
お父さんの事を口にしたら、春さんの反応が少し鈍かった。
何か変な事を言ったのだろうかと不安になり、春さんの顔を覗き込む。
「どうしました、春さん」
「ああ、いや、ごめん。つまらない嫉妬だよ」
「・・・もしかして今のにですか?」
「まあ、うん」
照れくさそうに目を逸らしながら呟く春さん。照れている顔がとてもキュートだ。
上目づかいでこちらをチラチラ見る様子なんて、私を悶え殺す気かと言いたくなる。
その上その理由が、父を好きだと言った嫉妬とか、可愛すぎるだろう。
ああもう、この人本当に狡いぐらい可愛いな。
「お父さんには申し訳ないですけど、今の私には春さんが一番ですよ」
「・・・うん、ありがと。ごめんね、ちょっと情けないね今のは」
彼の手をぎゅっと握って、気持ちを伝える。
春さんはその言葉に、嬉しい様な困った様な情けない様なという、複雑な顔をしていた。
そんな春さんが余計に可愛くて堪らない。
今日は春さんお泊りだなと勝手に決定して、幸せな気持ちで歩を進める。
でもまずは、春さんの為に美味しい夕食を作らないと。
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