後藤家の日常

四つ目

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店長逃げられず

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「店長」
「な、なにかな?」

今日はバイトの日。そして今日は普段通り暇。
という事で私は店長を問い詰める事にした。

「店長、私の学校喋ったでしょう」
「あ、いや、えーと」

先日あの男が学校傍までやってきたが、ここから学校までそこまで近くない。
少なくとも私は、彼に自分の通っている学校を教えた覚えはない。
なのに彼はあそこまでやって来た。なら情報源が有るはず。

私が知る限り、その情報源となり得るのは店長だけ。
問われた店長は焦る様子をみせ、目線をグルグルと彷徨わせている。

「店長、今回の事は、犯罪行為になり得ますよ」
「げっ、いや、ちょ、勘弁してよ!」

特に感情を乗せずに店長に言い放つと、あの時の彼と同じような事を言って頭を下げた。
そんな店長を見下ろしながら、私は続ける言葉を口にする。

「時給、上げて下さい」
「・・・はい」
「100円でお願いします」
「50円じゃダメ?」
「110番しますね」
「150円でも良いよ、うん」

こうして静かな時給交渉は成立した。
彼が私の学校を知った所でどうとでも出来るけど、不快だった事実は間違いなくある。
今後そういった事が無いようにする為にも、しっかり店長に不利益を与えなければ。

「あの子何したの?」
「学校の帰り、校門前で待ち伏せしてました。その上私に付きまとって彼氏に会わせろと」
「うわー・・・」

店長の質問に端的に答えると、店長は何とも言えない表情になった。
けどその原因を作ったのは貴方なんだけど、解っているんだろうか。
まあいいか、とりあえず時給が上がっていれば。

「彼も諦めないよねぇ。どうみても脈なんか無いのに」
「それが解る人なら、私が迷惑だと言っているのに付きまとう様な事はしないでしょう」

何度も迷惑だと言っているし、貴方の事を好きになる事はあり得ないとも言っている。
機嫌の悪い時は嫌いだとはっきり言っているし、目の前から消えて下さいとも言った。
そもそもが、店から叩き出した女に惚れるっていうのがおかしい。

「春さんの様な可愛らしくて優しくて、芯の強い人に生まれ変わってから出直して貰わないと」
「それもう、彼には死ねって言ってるよね」
「別に彼がどうなろうと私には一切興味がありませんので」
「うっは、ドライ。君って興味がない相手には本当に冷たいよね」

別に興味が無いから冷たいわけじゃない。
彼に関して言えば、興味を持ちたくないから冷たいだけだ。
出来れば一切の関わり合いを持ちたくない。端的に言うと大嫌いだ。

「まあでも、彼氏には気を付けて貰う様に言っときなよ。バカはなにするか解んないから」
「原因を作ったのは店長なんですけど」
「さーて、夜の仕込みしようかなー」

逃げた。これ以上下手な事口にしたら不味いと思って奥に行った。
もう50円上げてやろうかなと思ったんだけど、流石に不味いか。

しかしバカは何するか解らない、か。一応春さんと相談しておいた方が良いのかな。
流石に闇討ちみたいな事はしないと思うんだけど・・・。
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