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母の気持ち
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「で、チケット渡したんだ」
娘にペアチケットを渡した事を旦那様に伝えると、少し複雑そうな顔で確認して来た。
多分確認というか、自分の気持ちを落ち着けるためもあると思う。
なんだかんだ可愛い一人娘だからね。何をしに行くのかって思うと気が気じゃないんだろうね。
「うん、駄目だった?」
でも私は解ってて、あえて彼に聞き返す。
この人が駄目なんて言わないって知っていながら、わざとそう聞いた。
彼は予想通りその言葉に否とは言わず、一つため息を吐いて私の傍に座る。
そしてもう一度ため息を吐いてから、ぽつりと呟いた。
「前にも思ったけど、解ってはいるけど、何とも言えない気分になるね」
そう口にした彼が本当にとても寂しそうで、お腹の下あたりキュンキュンした。
かわーいいー。弱ってる旦那様かーわいー。
まあ、弱らせたの私ですけど。なので少しフォローしないとね。
「まあまあ、私達だって、ほら、ね?」
私達が関係を持ったのも、彼らとさして変わらない年齢だ。
その上私は色々と問題があった。それを考えれば娘は大分健全だ。
春くんとは学生らしい好意を持って、学生らしい緊張感もあって、その上でだ。
「・・・まあ、学生の頃にそういう関係になったけどね」
そう答えるとまた溜め息を吐いて、私を引き寄せて抱きしめる旦那様。
私が苦しくない程度に強く抱きしめているのがとても可愛い。
そんな旦那様をそっと抱きしめ返す。手が彼の背中に回りきらないのはご愛敬。
「たーくんは、何が嫌?」
「嫌って・・・わけじゃ、無いんだけどさ」
彼は私の問いに、微妙な顔で答える。
けどその顔は、私にとっては嘘をついている様に見えた。
長年付き添ってる妻舐めんなよ。
「嘘だー。その顔は寂しいってだけじゃないでしょ」
「・・・そうだな、嫌、なのかもしれないな」
そうだね、寂しい気持ちも有ったけど、明確に私達と同じ事をするんだって思うと、そういう気分も出てくるよね。
正直私も、自分で背中押しておきながら似たような気持ちはあるよ。
我が儘な話だけど、さ。
「正直でよろしい」
「あはは、咲ちゃんには敵わないなぁ」
力なく笑いながら、私を抱きしめる力が強まる。
たーくん、ちょいまって。今度は本当に力が強い。ギブギブ。
慌てて彼の背中をタップすると、彼も慌てて力を緩めた。
「気持ちは分かるけど、祝福してあげよう。大好きな人と一緒なんだよ? それも、大好きな人に始めてをあげられるんだから。私は、それがどれだけ幸せな事か解るんだ」
「咲ちゃん・・・」
私は、この人に、この大好きな人に、何も始めてをあげられなかった。
この人に会った時、おおよそ五体満足で出来る事は全てやってしまっていた。
それで金を稼いでいたんだから、仕方ないけど、後になってとても辛かった。
けど、それでも、たーくんは私を愛してくれている。
全てを知って、全てを理解して、私を受け入れてくれた。
「あの子は貴方と私の自慢の愛娘だよ。だから、一番良い気持ちでいさせてあげたいでしょ?」
「そっか。うん、そうだね」
さっきとは違い、とても優しい笑みで私を撫でるたーくん。
その手に顔をこすりつけに行く。どうやら私の気持ちを察してくれた様だ。
娘に、自分が感じられなかった幸せを、良い環境で与えてやりたいと。
「ごめんね、たーくん、わがままで」
「いいさ。俺達の娘、だろう?」
私はたーくんを捕まえた事で最終的に幸せになれた。
勿論春くんが明ちゃんを幸せにしてくれないやつだ、なんて思って無い。
けど、世の中、本当に何が有るのかは解らないんだ。
だから現時点で、一番明ちゃんが幸せである選択を取って欲しい。
その為にも、親としては幸せな時間をあげたかった。
我が儘だなぁ、私。
自分が叶わなかった事を娘に託してるだけだなぁ。
でも幸せになって欲しいって気持ちも本当なんだよ?
・・・幸せになってね、明ちゃん。
なーんて、まだまだ早いし重いね☆
娘にペアチケットを渡した事を旦那様に伝えると、少し複雑そうな顔で確認して来た。
多分確認というか、自分の気持ちを落ち着けるためもあると思う。
なんだかんだ可愛い一人娘だからね。何をしに行くのかって思うと気が気じゃないんだろうね。
「うん、駄目だった?」
でも私は解ってて、あえて彼に聞き返す。
この人が駄目なんて言わないって知っていながら、わざとそう聞いた。
彼は予想通りその言葉に否とは言わず、一つため息を吐いて私の傍に座る。
そしてもう一度ため息を吐いてから、ぽつりと呟いた。
「前にも思ったけど、解ってはいるけど、何とも言えない気分になるね」
そう口にした彼が本当にとても寂しそうで、お腹の下あたりキュンキュンした。
かわーいいー。弱ってる旦那様かーわいー。
まあ、弱らせたの私ですけど。なので少しフォローしないとね。
「まあまあ、私達だって、ほら、ね?」
私達が関係を持ったのも、彼らとさして変わらない年齢だ。
その上私は色々と問題があった。それを考えれば娘は大分健全だ。
春くんとは学生らしい好意を持って、学生らしい緊張感もあって、その上でだ。
「・・・まあ、学生の頃にそういう関係になったけどね」
そう答えるとまた溜め息を吐いて、私を引き寄せて抱きしめる旦那様。
私が苦しくない程度に強く抱きしめているのがとても可愛い。
そんな旦那様をそっと抱きしめ返す。手が彼の背中に回りきらないのはご愛敬。
「たーくんは、何が嫌?」
「嫌って・・・わけじゃ、無いんだけどさ」
彼は私の問いに、微妙な顔で答える。
けどその顔は、私にとっては嘘をついている様に見えた。
長年付き添ってる妻舐めんなよ。
「嘘だー。その顔は寂しいってだけじゃないでしょ」
「・・・そうだな、嫌、なのかもしれないな」
そうだね、寂しい気持ちも有ったけど、明確に私達と同じ事をするんだって思うと、そういう気分も出てくるよね。
正直私も、自分で背中押しておきながら似たような気持ちはあるよ。
我が儘な話だけど、さ。
「正直でよろしい」
「あはは、咲ちゃんには敵わないなぁ」
力なく笑いながら、私を抱きしめる力が強まる。
たーくん、ちょいまって。今度は本当に力が強い。ギブギブ。
慌てて彼の背中をタップすると、彼も慌てて力を緩めた。
「気持ちは分かるけど、祝福してあげよう。大好きな人と一緒なんだよ? それも、大好きな人に始めてをあげられるんだから。私は、それがどれだけ幸せな事か解るんだ」
「咲ちゃん・・・」
私は、この人に、この大好きな人に、何も始めてをあげられなかった。
この人に会った時、おおよそ五体満足で出来る事は全てやってしまっていた。
それで金を稼いでいたんだから、仕方ないけど、後になってとても辛かった。
けど、それでも、たーくんは私を愛してくれている。
全てを知って、全てを理解して、私を受け入れてくれた。
「あの子は貴方と私の自慢の愛娘だよ。だから、一番良い気持ちでいさせてあげたいでしょ?」
「そっか。うん、そうだね」
さっきとは違い、とても優しい笑みで私を撫でるたーくん。
その手に顔をこすりつけに行く。どうやら私の気持ちを察してくれた様だ。
娘に、自分が感じられなかった幸せを、良い環境で与えてやりたいと。
「ごめんね、たーくん、わがままで」
「いいさ。俺達の娘、だろう?」
私はたーくんを捕まえた事で最終的に幸せになれた。
勿論春くんが明ちゃんを幸せにしてくれないやつだ、なんて思って無い。
けど、世の中、本当に何が有るのかは解らないんだ。
だから現時点で、一番明ちゃんが幸せである選択を取って欲しい。
その為にも、親としては幸せな時間をあげたかった。
我が儘だなぁ、私。
自分が叶わなかった事を娘に託してるだけだなぁ。
でも幸せになって欲しいって気持ちも本当なんだよ?
・・・幸せになってね、明ちゃん。
なーんて、まだまだ早いし重いね☆
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