後藤家の日常

四つ目

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気が付いた事実

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「んあ・・・」

何だか体に温かい物がかかる感覚と、ジャーっという一定音が耳に入る。
そして何か解らないが、ぬるめの気持ち良いなにかが体を這い回っている。
とても気持ち良くて、とても眠くて、このまま目を開けたくない気分になる。
けど、回復し始めた意識は、ゆっくりと現状を思い出す。

そして自分が寝ていたという事実に気が付き、目を開ける。
視界に映った物は浴室らしき壁。シャワーノズルとそこから出て俺の体に当たるシャワー。
そして自身の体をよく見ると、誰かの手が俺の体を洗っている。

「あ、れ、えっと」

状況がつかめずに混乱して、言葉がうまく出てこない。
何でおれ風呂で寝てて、その上洗われてるんだ。
寝起きの頭は上手く働かず、それでも何とか寝る前の出来事をゆっくりと思い出す。

そしてそれと同時に背後から、耳元から声が聞こえた。
背中や後頭部に温かい何かが当たっているのも、そこで気が付く。

「春さん、もしかして起きました?」
「え? あ、その、あれ、明ちゃん、俺」

吐息がかかるほどに近くに聞こえた声にバクンと心臓が跳ね、慌てながら後ろを振り向く。
すると彼女の顔が物凄く近くて余計に慌ててしまった。
明ちゃんに抱きかかえられている。だから耳元で声が聞こえたんだ。

「母もそうなんですが、気持ちいいと途中で寝てしまう方が多いらしいです。春さんもどうやら気持ち良かったらしくて良かったです」

そして唇が触れそうなほどの距離で、にっこりと笑いながら彼女は言った。
俺は思わずその顔をぼーっと見惚れてしまう。
けどすぐに正気に戻り、顔を正面に戻して今の状況の説明を頼む為に口を開いた。

「えと、俺が寝てたのは解ったんだけど、その、今何してんの?」
「ローションを洗い流しています。春さんが起きるのを待つより、私が洗い流してあげた方が良いかなと思ったので」

成程、それで俺は彼女に抱きかかえられ、その上彼女の手が俺の体を撫でていたのか。
混乱しながらもなんとか状況を飲み込もうとしていると、彼女は俺の太ももにも手を伸ばし、下半身も洗い始める。

そこで否が応にも気が付いてしまう物があった。
彼女の手が伸びる、その傍に、在ってはいけないものがある事に気が付く。
俺の体の真ん中が、自己主張している事に、気が付いてしまう。

サーッと血の気が引く感覚を覚える。
明ちゃんに、思いっきりこれを見られている。
短パンは脱がされていないとはいえ、俺のこんな状態を見られている。

「あ、あき、あきらちゃ、あの、お、おれ、あ、あのさ」

何か言い訳をしなければと思うが、言葉にならずにただ慌てている事だけが伝わる様子を見せてしまう。
やばい、どうしよう、この子は可愛い俺が好きって事が解ってるから、こういうのは見せない様に今までしていたのに。

「ど、どうしました春さん、私何か失敗しましたか?」
「あいや、そ、そうじゃなくて」

俺が慌ててしまった事に、明ちゃんは心配そうに問い返してくる。
しまった、彼女に心配させてどうすんだ。
いやでも今の状態を彼女が理解していないってのはあり得ないよな。
ていうかさ、俺っていつからこの状態だったんだろうか。

聞いて大丈夫だろうか。聞いたら後悔する気がするけど、聞かなければならないだろうか。
でもこうなった以上誤魔化すことは不可能だろう。
だって今の彼女の手は俺の太ももにあるし、その傍で自己主張しているのだから。

ていうか、背中や首に当たってる柔らかい感触で気が付いたんだけど、明ちゃんもしかして厚手の服着てるだけでブラしてないんじゃないか、これ。
そう思うと、既に自己主張している自身が、さらに自己主張を強めた。
俺はその事に更に慌て、気絶しそうなぐらいの緊張をもって彼女に問う。

「あ、明ちゃん、その、俺、いつから、こんな状態だったのかな」

自分でも声が震えているのが解る。
彼女がなんていうのか、どういう声音で返してくるのかを緊張した気持ちで待つ。
すると彼女からは何でもなさそうな声音で、びっくりする答えが返って来た。

「その、もしかして、今の春さんの大きくなってる状態ですか? 寝てる時にそうなってましたけど、生理現象ですから。気持ちいいとなる時もあるらしいですから気にしないでください。それに寝起きでもなる人はなるんでしょう?」

本当に淡々と、平坦な声で彼女は言った。
そこに込められた感情が読み取れないのが尚の事怖い。

「あ、あのさ、その、足は自分で洗うから」
「そうですか? 解りました。じゃあその間私は着替えてきますね」
「う、うん、ごめんね、折角やってくれたのに寝ちゃって」
「良いんですよ。さっきも言ったじゃないですか。気持ち良かったようで良かったです」

明ちゃんはそう言って立ち上がり、浴室を出て行こうとする。
そんな彼女を見送ると、当たり前だが彼女の衣服が濡れている事に気が付く。
当然だ。俺を抱きしめて洗っていたのだから。

そのせいで衣服が彼女の肌に張り付いて、彼女の体のラインをくっきりと浮かばせていた。
それだけでも俺にとっては心臓が跳ねる出来事なのに、魂が抜けそうになることにもうひとつ気が付いた。
彼女、上もだけど、下も下着をつけていない。下着のラインが無い。

「良ければゆっくりお風呂に入って下さい。一応浴槽にもお湯をためておきましたから」

そして彼女はにっこり笑って、浴室を出ていった。
後には魂の抜けている俺が、暫く彼女が去った後の扉を眺めているだけだった。
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