後藤家の日常

四つ目

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きっかけ

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春さんと一緒に駅に向かい、電車に乗る事暫く。
近隣の人間に確実に合わないであろう駅で降りて、また二人で歩く。

「いつもこの辺まで来るの?」
「そうですね。流石にちょっと近所でああいった物を買う勇気はありませんね」

本に関してはまだともかく、ああいった玩具を近隣で買う勇気は無い。
どっちにしろ同じだと思う人も多いかもしれないが、私にとっては重要な事だ。
そもそも本ならレジにでも並んでいない限り解らないけど、こういう物は買いに行った時点で何を買うのが解ってしまう。
私はこの図体が目立つのを解っているだけに、そこまで開き直れる勇気は無い。

「もうちょっと歩いた先にありますので」
「うん、行こうか」

春さんは私の手を取って、横に並んで歩く。
最近になって手を繋いで歩く様になったけど、私達は歩幅が違いすぎる。
そのせいでお互いがお互い相手のペースを気にして、結果ゆっくりになってしまっている。

まあ、私は春さんと手を繋いでるだけで幸せなので、別に構わないけど。
惜しむらくは、素手で手を繋いで出歩けない事だろうか。
手袋無しだったら、もっと春さんの体温がはっきり解るんだろうな。
いや、その前に春さんの手の感触がもっとはっきり解るんだろうな。

何で私こんな体なんだろう。
いや、この思考は止めよう。良くない思考だ。
下手に口に出たりしたら、お母さんが泣き出しかねない。

「そういえば、明ちゃん道具類とかはケースから出さないんだね」
「まあ、基本は出しませんね。元から入って無いジャンク品とかはありますけど」

集めるのが趣味なだけで、使う気は無い。
いや、正直に言えば少し、本当に少しだけ使った事があったりするけど、本当に数えるほどだ。
けどそれを正直に言うほど私は神経図太くはない。
それに春さんは私のコレクションを見ている。おそらく私の言葉を疑わないだろう。

「そういえば、明ちゃんは何でこういう物に興味持ち始めたの?」
「・・・そういえば、趣味があるという事だけで、理由の方は話してませんでしたね」

そもそも自分の趣味をさらけ出すだけでも恥ずかしいのに、そこから深い話をしに行こうと思えるわけがないのだけど。

「こういう事の興味のきっかけは、母なんです」
「咲さん? どういう事?」
「今でこそあの倉庫私のコレクション部屋と化してますけど、昔は母の私物の玩具やAVなんかが有ったんです。それを見た結果、もっと見たくなってしまった、という感じです」

細かい所は完全に省略したけど、大体そんな感じだ。
というか、細かい所を省略しないと外では話せない内容になってしまう。
流石の私も性を自覚してしまった事を話す性格はしていない。
ああ、顔が熱い。内容ぼかして伝えてはいるけど、ばれていないだろうか。

「咲さん、昔からそんな感じなんだ」
「ええ、子供の手の届かない所にしまっておいて欲しいですね、ああいう物は。今じゃそんな文句を言える立場にないですが」
「あはは、まあそれで明ちゃんが非行に走ったってわけでもないし、良いんじゃないかな」

私の言葉に笑って応える春さん。この感じならばれていないな。
流石に今ので詳細がばれたら、今日はギブアップさせて頂きます。
ただでさえ今から行くところを考えると、春さんに想像されると思っただけで体中熱い。

いや、どうなんだろう。春さんは結構普段通りだ。
今も緊張しているとかじゃなく、物珍しさが先に来ている。
そんな考えは一切なく、ただ見てみたいだけなのかもしれない。
そういう事全く興味なかった人だし。

「明ちゃん、どっち向かうの?」
「あ、こっちです。地下に行きます」
「あーい」

分かれ道に差し掛かり、向かう方向を聞いて来る春さんに返事を返す。
春さんはそれに可愛らしく返事をして、歩みを進めた。
何今の可愛い。
あーいって。元気よくあーいって。何でこの人はいちいち私を悶えさせるんだろうか。

「どしたの明ちゃん」
「いえ、何でもありません、行きましょうか」

一人心の中だけで悶えていると、足が止まっていたらしい。
春さんに不思議がられてしまったので、慌てて足を進める。
さて、そろそろお店が見えてきた。
ああ、近づいて来ると段々心臓がどくどく言ってるのが解る。
手袋が無かったら手汗も酷い事になっていただろう。

「ここ?」
「ええ、ここです」
「この風船の置物何だろ。初めて見る」
「あの、えっと、それは・・・」

男性が一人でする時に使うやつの、有名なメーカーの風船です。
いや、うん、中に入れば解るし、説明は恥ずかしいから止めておこう。
・・・どこまで正気でいられるかな、私。
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