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バイト先の舎弟
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「姐さん! 彼氏できたってマジッスか!?」
「・・・姐さんって呼ばないでくれませんか」
今日は喫茶ももいろでのバイトの日だ。
そして今日は私が入る時間丁度に来て欲しくない客が来た。
以前店で暴れてたから取り押さえた男が、春さんの話を聞いたらしく詰め寄って来た。
多分言ったのは店長だろう。思いきり顔を逸らされたから間違いない。
「姐さんは姐さんスよ!」
「・・・そうですか」
「そんな事はどうでも良いんスよ! 本当に彼氏できたんスか!?」
「・・・どうでもよくないですけど、出来ましたよ」
私の返事を聞いた彼は、この世の絶望でも見たかの様な顔でよろめいた。
いや、そんなにショック受けられても困る。
天地がひっくり返っても私が貴方に惚れることは無いから。
「ど、どんな奴なんスか! 勿論俺より強いやつなんスよね!」
何で基準が強い弱いなのか。私はそんな基準で惚れたりしない。
でも強いか弱いかで言えば、間違いなく強いと思う。
春さんは何でもありであれば、雛でも敵わない。おそらく彼じゃ絶対勝てない。
「・・・強いですよ」
それが理由で惚れたわけではないし、色々な理由が有っての人に惚れた。
今ではそのどれもがどうでもいいと言えるぐらい、好きだから好きと言える。
けど彼にそんな話をしたところで、おそらく聞かないだろう。
「あ、姐さんより強いんスか?」
私の言葉を聞いた彼はごくりと唾をのんで、恐る恐る聞いていた。
その言葉に、ふむ、と考える。
私は間違いなく春さんの方が強いと思っている。それにはもちろん理由が有る。
春さんは何度か、雛とお母さんに組手の相手をさせられている。
私はそれを見た時、これは勝てる気がしないと思った。
春さんは身体能力そのものはそこまで高くない。体のサイズがあれだし当然だ。
けど実は、反射神経と運動能力が並じゃない。
何であの運動神経で何も部活していないのかと思う程だ。
それに最近の私は、稽古は本当にサボっている。
一応健康維持程度は最近もやっているけど、体力があまりない。
お母さんの動きについて行けるという事を考えても、春さんには勝てる気がしない。
そうは思った物の、結論以外の事を彼に伝えた所で意味は無いな。
というわけでその結論だけを彼に伝える。
「・・・私より強いですよ」
そして彼は、完全に固まってしまった。
何がそんなにショックだったのかは知らないが、とりあえず放置しておこう。
今日は何故かお客さんがそこそこ多い。彼にばかり構ってはいられない。
お客さんの立った席を綺麗にしに行かないと。
店長がレジをやっている間にさっとテーブルを片付ける。
食器洗いも私の仕事だ。というか、私は基本的には裏方仕事だ。
接客は店長の仕事だったのに、いつの間にか私も接客メインになっていた。
私が物珍しいという事で、一時客引きにもなっていた様だ。
とはいえ今ではもう落ち着いてしまったし、常連さんは私に慣れてしまった。
もう裏方に戻って良いはずなのに、相変わらず表に出ている。
まあ、別にそこまで大変ではないので良いのだけど。
「明ちゃーん、お水お替り貰える―?」
「はい、ただいま」
このように常連さんはもう私を呼ぶので、店長はカウンターでポーッとしている。
まあ、バイト代を貰ってる身だから良いんだけど、それで良いのだろうか。
呼んだお客さんは店長の目の前にいるから、勿論わざわざ私をご使命だ。
水を持っていき、代わりの水も傍に用意しておく。
流石にこの水自体は店長が事前に作った物だけど。
お店に出せる料理なんて物を作れる自信はないし、そこまで舌にも自信はない。
なのでこの辺りは当然と言えば当然か。
「はっ、あ、姐さん、さっき俺なんか夢見てました」
どうやら復帰したらしい彼が、表に出てきた私にまた話しかけてきた。
大丈夫、それ現実だから。
「・・・彼氏なら出来ましたよ」
びしっと音がしそうな雰囲気で再度固まる彼。
けど今度は再起動が早く「うそだあああああああああ!」と叫んで店を出ていった。
勿論お金は置いて行っていない。
「店長、彼、無銭飲食です」
「よ、容赦ないね、君」
店長に彼の食い逃げを告げて、奥に戻る。
そんな私を店長はひきつった顔で見ていた。
けどそんな風にみられても困る。だってそもそも、私は彼の名前すら憶えていない。
というか、彼とは会話にならないから、本当は対話すら辛い・・・。
「・・・姐さんって呼ばないでくれませんか」
今日は喫茶ももいろでのバイトの日だ。
そして今日は私が入る時間丁度に来て欲しくない客が来た。
以前店で暴れてたから取り押さえた男が、春さんの話を聞いたらしく詰め寄って来た。
多分言ったのは店長だろう。思いきり顔を逸らされたから間違いない。
「姐さんは姐さんスよ!」
「・・・そうですか」
「そんな事はどうでも良いんスよ! 本当に彼氏できたんスか!?」
「・・・どうでもよくないですけど、出来ましたよ」
私の返事を聞いた彼は、この世の絶望でも見たかの様な顔でよろめいた。
いや、そんなにショック受けられても困る。
天地がひっくり返っても私が貴方に惚れることは無いから。
「ど、どんな奴なんスか! 勿論俺より強いやつなんスよね!」
何で基準が強い弱いなのか。私はそんな基準で惚れたりしない。
でも強いか弱いかで言えば、間違いなく強いと思う。
春さんは何でもありであれば、雛でも敵わない。おそらく彼じゃ絶対勝てない。
「・・・強いですよ」
それが理由で惚れたわけではないし、色々な理由が有っての人に惚れた。
今ではそのどれもがどうでもいいと言えるぐらい、好きだから好きと言える。
けど彼にそんな話をしたところで、おそらく聞かないだろう。
「あ、姐さんより強いんスか?」
私の言葉を聞いた彼はごくりと唾をのんで、恐る恐る聞いていた。
その言葉に、ふむ、と考える。
私は間違いなく春さんの方が強いと思っている。それにはもちろん理由が有る。
春さんは何度か、雛とお母さんに組手の相手をさせられている。
私はそれを見た時、これは勝てる気がしないと思った。
春さんは身体能力そのものはそこまで高くない。体のサイズがあれだし当然だ。
けど実は、反射神経と運動能力が並じゃない。
何であの運動神経で何も部活していないのかと思う程だ。
それに最近の私は、稽古は本当にサボっている。
一応健康維持程度は最近もやっているけど、体力があまりない。
お母さんの動きについて行けるという事を考えても、春さんには勝てる気がしない。
そうは思った物の、結論以外の事を彼に伝えた所で意味は無いな。
というわけでその結論だけを彼に伝える。
「・・・私より強いですよ」
そして彼は、完全に固まってしまった。
何がそんなにショックだったのかは知らないが、とりあえず放置しておこう。
今日は何故かお客さんがそこそこ多い。彼にばかり構ってはいられない。
お客さんの立った席を綺麗にしに行かないと。
店長がレジをやっている間にさっとテーブルを片付ける。
食器洗いも私の仕事だ。というか、私は基本的には裏方仕事だ。
接客は店長の仕事だったのに、いつの間にか私も接客メインになっていた。
私が物珍しいという事で、一時客引きにもなっていた様だ。
とはいえ今ではもう落ち着いてしまったし、常連さんは私に慣れてしまった。
もう裏方に戻って良いはずなのに、相変わらず表に出ている。
まあ、別にそこまで大変ではないので良いのだけど。
「明ちゃーん、お水お替り貰える―?」
「はい、ただいま」
このように常連さんはもう私を呼ぶので、店長はカウンターでポーッとしている。
まあ、バイト代を貰ってる身だから良いんだけど、それで良いのだろうか。
呼んだお客さんは店長の目の前にいるから、勿論わざわざ私をご使命だ。
水を持っていき、代わりの水も傍に用意しておく。
流石にこの水自体は店長が事前に作った物だけど。
お店に出せる料理なんて物を作れる自信はないし、そこまで舌にも自信はない。
なのでこの辺りは当然と言えば当然か。
「はっ、あ、姐さん、さっき俺なんか夢見てました」
どうやら復帰したらしい彼が、表に出てきた私にまた話しかけてきた。
大丈夫、それ現実だから。
「・・・彼氏なら出来ましたよ」
びしっと音がしそうな雰囲気で再度固まる彼。
けど今度は再起動が早く「うそだあああああああああ!」と叫んで店を出ていった。
勿論お金は置いて行っていない。
「店長、彼、無銭飲食です」
「よ、容赦ないね、君」
店長に彼の食い逃げを告げて、奥に戻る。
そんな私を店長はひきつった顔で見ていた。
けどそんな風にみられても困る。だってそもそも、私は彼の名前すら憶えていない。
というか、彼とは会話にならないから、本当は対話すら辛い・・・。
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