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彼女だから
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「ん・・・」
目が覚めて、まだ少しぼーっとした意識が起きるまで天井を眺める。
意識がはっきりしてきたら、体が軽いのを感じた。
どうやら熱はもう引いたみたいだ。
もうちょっと調子をはっきりは確かめようとして、片手が重い事に気が付く。
やけに暖かいその手を見ると、明ちゃんが手を握っていた。
ベッドの端っこで上半身だけ乗せて、落ちそうな体勢で寝ている。
「もしかして、ずっといてくれたのかな」
時計を見ると真夜中だった。
まさか明ちゃん、泊るつもりなんだろうか。起こした方が良いかな。
しかし明ちゃんの手は大きい。俺の手ぐらいなら完全に握り込めるな。
そんな事を考えて、少し握り返したりしていたせいか、明ちゃんが目を覚ました。
「んん・・・あ、春さん、おはようございます」
「あ、うん、おはよう。って言っても夜中だけどね」
俺の言葉に明ちゃんは時計を見て「本当ですね」と言って薄く笑う。
どこか楽しげな様子に見えるのは気にせいだろうか。
「明ちゃん、その、帰らなくて大丈夫なの?」
多分この子の事だし連絡は入れてるとは思うけど、一応聞いておく。
親御さんへの誤解のない関係は大事だ。もししてないなら今からでも連絡入れないと。
それに咲さんが心配している可能性が大きい。
「大丈夫ですよ。母には、看病しておきなさいと言われています。お姉さんも休憩に合間に様子を見に来て、よろしくと言ってました」
「そっか、何か、面倒かけてごめんね」
姉貴が頼んでしまったのか。それじゃあ明ちゃんが断れるわけがない。
面倒な事をさせてしまった。
「・・・春さん」
「ん、なに?」
明ちゃんはいつもの静かな声で、その半眼を俺に向けながら名前を呼ぶ。
応えると、少しだけ黙って俺を見つめてから口を開いた。
「私、春さんの彼女ですよね?」
「え、あ、うん、そうだね」
真顔で、静かな声音で淡々と問う彼女に、俺は少し狼狽える。
目の前の子が彼女だという事実を意識し直してしまって、余計に普通の返事が出来なかった。
明ちゃんも大概照れていたと思うんだけど、もう慣れちゃったのかな。
もしそうなら、そこはちょっとだけ残念だ。
「なら、春さんが弱ってるなら、お世話するのは当たり前です。面倒なんかじゃないです」
「・・・そっか、ありがとう」
普段と変わらない静かで平坦な声に込められた優しい気持ちに、思わず笑みが零れる。
それと同時に、自分が恋をした女性がどれだけ良い人かを再認識した。
そうだよな。明ちゃんは身近な相手にはこういう子だよな。
「どういたしまして。けど、役得もありましたから」
「役得? 何かあったの?」
親父か姉貴が何か明ちゃんにお礼でも用意したのかな。
でも明ちゃんの性格的に、そこを役得とは考えない気がする。
「可愛い春さんの寝顔をじーっと独り占めです」
「―――っ」
不意打ちなほどの、本当に嬉しいのだと解る満面の笑みでそういった彼女を見て、胸に何かが突き抜けるような錯覚を覚える。
可愛いのは君だよ。なんだよその笑顔。
しかも俺の笑顔見るのが役得って、なんだそれ。ちょっと可愛すぎるだろ。
でもやっぱり彼女にとって、俺は可愛い人、なんだなぁ。そこは残念だけど仕方ないか。
「それに・・・」
俺が嬉しいけど微妙な気持ちでいると、彼女は続けた言葉を止めた。
どうかしたのかと首を傾げていると「いえ、何でもないです」と、普段の顔に戻ってしまった。
まあ、彼女が何でもないというなら、それ以上の追求は止めておこうか。
「あ、その、春さん、すみません。少しお部屋を離れますね」
「うん」
明ちゃんは唐突に何かを思い出したように立ち上がり、部屋を出ていった。
どうしたんだろうか。
彼女が出て行った後の自室を、何となくぐるっと見回す。
明ちゃんが出ていっただけで、部屋の中が凄く寂しく感じた。
いつもの自室なはずなのに物足りない。同時に自分のテンションが下がるのも感じる。
「・・・あー、うん、ベタ惚れだな、俺」
あの子が居る時と居ない時で、自分のテンションが違いすぎる。
明ちゃんは平常心保てるみたいだけど、俺にはまだ無理だな。
彼女の笑顔見ただけで一瞬言葉に詰まる状態だし。
つーかあの子は本当に狡いよ。いつもの事だけどあの笑顔は駄目だって。反則だって。
「それにしても、明ちゃんどこに――――」
そこで、水音が耳に入った。この家は別に防音がしっかりしている家じゃない。
店の方はいろいろとしっかり作って有るが、自宅は別だ。
風呂に入ってる、シャワーの水音が、軽く響く程度の家だ。
響いてくる方向的に、確実に風呂から聞こえる水音。
その事実に、彼女が自宅で風呂に入っているという事を変に意識してしまった。
「やばい、これはやばい」
寝起きのせいなのか、回復したせいなのか、単純に俺が元気なのか。
理由がどれかは解らないが、今俺の体は確実に不味い事になっている。
明ちゃん関連以外ではこんな事、本当に滅多にならないのに、あの子が絡むと簡単にこうなる。
そういう目で見たいわけじゃないのに。いや、頭のどこかでそういう想いは有るのかな。
「いや、今はどっちでも良いから、とりあえず落ち着け」
幸い彼女は今はいったばかりだ。まだ上がってくるまでに時間がある。
それまでに落ち着けろ・・・!
目が覚めて、まだ少しぼーっとした意識が起きるまで天井を眺める。
意識がはっきりしてきたら、体が軽いのを感じた。
どうやら熱はもう引いたみたいだ。
もうちょっと調子をはっきりは確かめようとして、片手が重い事に気が付く。
やけに暖かいその手を見ると、明ちゃんが手を握っていた。
ベッドの端っこで上半身だけ乗せて、落ちそうな体勢で寝ている。
「もしかして、ずっといてくれたのかな」
時計を見ると真夜中だった。
まさか明ちゃん、泊るつもりなんだろうか。起こした方が良いかな。
しかし明ちゃんの手は大きい。俺の手ぐらいなら完全に握り込めるな。
そんな事を考えて、少し握り返したりしていたせいか、明ちゃんが目を覚ました。
「んん・・・あ、春さん、おはようございます」
「あ、うん、おはよう。って言っても夜中だけどね」
俺の言葉に明ちゃんは時計を見て「本当ですね」と言って薄く笑う。
どこか楽しげな様子に見えるのは気にせいだろうか。
「明ちゃん、その、帰らなくて大丈夫なの?」
多分この子の事だし連絡は入れてるとは思うけど、一応聞いておく。
親御さんへの誤解のない関係は大事だ。もししてないなら今からでも連絡入れないと。
それに咲さんが心配している可能性が大きい。
「大丈夫ですよ。母には、看病しておきなさいと言われています。お姉さんも休憩に合間に様子を見に来て、よろしくと言ってました」
「そっか、何か、面倒かけてごめんね」
姉貴が頼んでしまったのか。それじゃあ明ちゃんが断れるわけがない。
面倒な事をさせてしまった。
「・・・春さん」
「ん、なに?」
明ちゃんはいつもの静かな声で、その半眼を俺に向けながら名前を呼ぶ。
応えると、少しだけ黙って俺を見つめてから口を開いた。
「私、春さんの彼女ですよね?」
「え、あ、うん、そうだね」
真顔で、静かな声音で淡々と問う彼女に、俺は少し狼狽える。
目の前の子が彼女だという事実を意識し直してしまって、余計に普通の返事が出来なかった。
明ちゃんも大概照れていたと思うんだけど、もう慣れちゃったのかな。
もしそうなら、そこはちょっとだけ残念だ。
「なら、春さんが弱ってるなら、お世話するのは当たり前です。面倒なんかじゃないです」
「・・・そっか、ありがとう」
普段と変わらない静かで平坦な声に込められた優しい気持ちに、思わず笑みが零れる。
それと同時に、自分が恋をした女性がどれだけ良い人かを再認識した。
そうだよな。明ちゃんは身近な相手にはこういう子だよな。
「どういたしまして。けど、役得もありましたから」
「役得? 何かあったの?」
親父か姉貴が何か明ちゃんにお礼でも用意したのかな。
でも明ちゃんの性格的に、そこを役得とは考えない気がする。
「可愛い春さんの寝顔をじーっと独り占めです」
「―――っ」
不意打ちなほどの、本当に嬉しいのだと解る満面の笑みでそういった彼女を見て、胸に何かが突き抜けるような錯覚を覚える。
可愛いのは君だよ。なんだよその笑顔。
しかも俺の笑顔見るのが役得って、なんだそれ。ちょっと可愛すぎるだろ。
でもやっぱり彼女にとって、俺は可愛い人、なんだなぁ。そこは残念だけど仕方ないか。
「それに・・・」
俺が嬉しいけど微妙な気持ちでいると、彼女は続けた言葉を止めた。
どうかしたのかと首を傾げていると「いえ、何でもないです」と、普段の顔に戻ってしまった。
まあ、彼女が何でもないというなら、それ以上の追求は止めておこうか。
「あ、その、春さん、すみません。少しお部屋を離れますね」
「うん」
明ちゃんは唐突に何かを思い出したように立ち上がり、部屋を出ていった。
どうしたんだろうか。
彼女が出て行った後の自室を、何となくぐるっと見回す。
明ちゃんが出ていっただけで、部屋の中が凄く寂しく感じた。
いつもの自室なはずなのに物足りない。同時に自分のテンションが下がるのも感じる。
「・・・あー、うん、ベタ惚れだな、俺」
あの子が居る時と居ない時で、自分のテンションが違いすぎる。
明ちゃんは平常心保てるみたいだけど、俺にはまだ無理だな。
彼女の笑顔見ただけで一瞬言葉に詰まる状態だし。
つーかあの子は本当に狡いよ。いつもの事だけどあの笑顔は駄目だって。反則だって。
「それにしても、明ちゃんどこに――――」
そこで、水音が耳に入った。この家は別に防音がしっかりしている家じゃない。
店の方はいろいろとしっかり作って有るが、自宅は別だ。
風呂に入ってる、シャワーの水音が、軽く響く程度の家だ。
響いてくる方向的に、確実に風呂から聞こえる水音。
その事実に、彼女が自宅で風呂に入っているという事を変に意識してしまった。
「やばい、これはやばい」
寝起きのせいなのか、回復したせいなのか、単純に俺が元気なのか。
理由がどれかは解らないが、今俺の体は確実に不味い事になっている。
明ちゃん関連以外ではこんな事、本当に滅多にならないのに、あの子が絡むと簡単にこうなる。
そういう目で見たいわけじゃないのに。いや、頭のどこかでそういう想いは有るのかな。
「いや、今はどっちでも良いから、とりあえず落ち着け」
幸い彼女は今はいったばかりだ。まだ上がってくるまでに時間がある。
それまでに落ち着けろ・・・!
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