後藤家の日常

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母の選択

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「明は春くんの家か。良かった」

通話を切った端末を見つめながら、娘の無事に胸をなでおろす。
膨らみが何処にあるんだよとか言う声が聞こえた気がした。言ったやつぶっ殺す。

「いいのかい、咲ちゃん」

私のさっきの通話を聞いていた旦那様が心配そうに聞いてきた。
まあ、寂しくはあるけど、今の明ちゃんはそれが一番楽しい事でしょう。
帰って来たって私達の世話するつもりだろうし、それなら好きな事させてあげる方が良い。

「私は別にー。たーくんこそ寂しいんじゃないのー?」
「そりゃあ、少しね」
「あら、素直」
「娘が段々離れていくのは寂しいさ」

そうね、だからこの間酔いつぶれちゃったんだもんね。
あんな可愛いたーくん久々だった。
普段が落ち着いて頼りになるだけに、ああいう甘えてくれる行動はとても滾る。
ま、私はたーくんなら何でも良いけどねー。

「咲ちゃんだって、寂しいのは寂しいだろ?」
「そーりゃねー。こうやって構ってくれなくなるんだろうなーって思うとさ」

旦那様の言葉に、ぐでーんとテーブルに体を投げ出して応える。
寂しいのは当然だ。けど、娘にとっての一番をやらせたいのも本心だ。
相手が春くんってのもあるよなー。あの子可愛いし。
暇なときはゲームにも付き合ってくれるしなー。
そこで、ふと思った事があった。

「そうだたーくん」
「どうした、咲ちゃん」
「あたし、ネトゲに春くん誘う事があって割と良く話してたんだけど、これ明ちゃんに言ったら嫉妬されるかな?」
「嫉妬よりも、迷惑かけなかったかの心配されるんじゃないか?」
「酷い! 事実そうなると思うけど酷い!」

容赦のない旦那様の言葉に、よよよと泣き崩れる。
まあ、実際そんなもんだろうなー。でも一回試してみよ。
案外可愛い嫉妬が見れる可能性だってなくはない。特に今ならね。
今のあの子は春くん大好きで脳が埋まってるはずだ。詰まんない事で嫉妬の可能性は大だ。

「言うのは構わないけど、また明に嫌がられたらどうするつもりだい?」

私の泣き崩れる演技を気にせず会話を続ける旦那様。流石慣れておらっしゃる。
伊達に30年は付き合ってないね。

「あー、でも黙ってて後で知られても、それはそれで嫌な感じじゃん?」
「それもそうか、な?」

少なくとも私は、旦那様が私以外の誰かと内緒で楽しんでいたら、ちょっと嫉妬しそう。
浮気は・・・まあ浮気なら良いかな。浮気だし。帰ってくるなら良いや。
私はたーくん以外の男は要らないけど。

「さて、じゃあ今日は久々に腕を振るったご飯を食べますか」
「そうだね。明の為にと腕を振るった料理を頂こうかな」
「ちがうもーん。たーくんと明ちゃんの為だもーん」
「あはは、ごめんごめん」

笑いながらテーブルに食事を用意する。明ちゃんが帰ってこないから今日は腕を振るったのだ。
たーくんの為にも作ったっていうのは嘘では無いけど、久々の母の食事を食べさせられなかったのは少し残念だ。
食べるなら娘の料理が好きだけどね。
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