後藤家の日常

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とりあえず帰宅

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「あれ、ここ何処だ・・・」

目を覚まして起き上がると、見慣れていない部屋だった。
何か布団から自分の物じゃない良い匂いがする。

「ふあ~」

欠伸をして背を伸ばし、頭を起こす。
そして今自分が寝ている場所に気が付き、時計を見て脂汗が流れる。
彼女になったとはいえ、女の子の家に泊まり。咲さんに何かを言われるのは確定だろう。

いや、明ちゃんとの事を誤魔化す気は無いし、むしろ望んでいる。
でも揶揄われるんだろうなぁと思うと気が重い。
それと咲さんはともかく、明ちゃんのお父さんにはどう話をしよう。
娘さんのベットに寝てる彼氏ってどう思われるかな。ヤバイ、ちょっと怖くなってきた。

「そう言えば、明ちゃんは何処に行ったんだろう」

ベットから降りて立ち上がり周囲を見ると、彼女は何処にも居ない。
勝手に出て捜しに行って良い物か悩んでいると扉が開いた。
開いた先にはエプロン姿の明ちゃんが、いつもの様子でそこに立っていった。

「春さん、起きたんですね。おはようございます」
「あ、お、おはよう、明ちゃん」

昨日ずっとわたわたしていたとは思えない落ち着きで彼女は俺に挨拶をする。
俺と言えば、まだ彼女の顔を見ると少し顔が熱い。

「昨日のお昼から何も食べていませんし、お腹すいていませんか? 夜食を作ったので一緒に食べましょう」
「あ、う、うん」

余りに普段通りに戻っている彼女に少し驚きながら、彼女の誘導について行く。
居間に案内され「すぐに持ってきますから、座っていてください」と言われて素直に待つ。
暫く待つと白ご飯とお味噌汁、漬物と野菜炒めがテーブルに並んでいく。

「今日は何も仕込んでいないので簡単な物ですみません。お口に合えば良いんですが」

申し訳なさそうに言う明ちゃんだが、文句を言う気なんてさらさら起きない。
これは態々作ってくれたんだ。有難く頂こう。

「頂きます」
「はい、どうぞ。私も頂きますね」

夜なので外からも殆ど音が聞こえない静かな中、咀嚼音やみそ汁をすする音だけが部屋に響く。
ちらちらと明ちゃんが俺を見ているのが微笑ましい。
彼女は確かに普段通りに戻っては居るけど、少しだけ普段とは違う様だ。
いつもなら彼女はじっと俺を見つめて来る。今日の彼女はそれが出来ないらしい。

ご飯は鍋で炊かれたらしく、鍋ごと持って来ている。炊き加減は絶妙の一言。
冷ご飯になっても美味しい炊き方だ。
味噌汁もしっかり出汁を取ってあり、顆粒出汁とは違う優しい風味を感じる。
漬物は俺の好みでも知っていたかのような塩梅の物で、ご飯が進む。野菜炒めの味付けもかなり自分好みだ。
簡単にと言った彼女の言葉とは裏腹に、完全に俺の為に作ってくれている。

「美味しい。ありがとう明ちゃん」
「そうですか。口に合ったようで良かったです」

俺の素直な感想に、にっこりと可愛く笑う明ちゃん。
笑うと一気に年齢相応の可愛さになるのは狡いと思う。

料理上手で、綺麗で、可愛くて、良い子。
こんな子が俺の彼女になったのかと思うと、夢じゃないのかとか思ってしまう。
でも、彼女で良いんだよな。これはから、そう考えて良いんだよな。

「良ければ学校のお弁当もお作りしましょうか」
「え、いや、それは嬉しいけど、大変じゃない?」
「いえ、毎日やっている事ですし、特に何とも」
「あ、そうか、明ちゃん毎日自分で弁当作ってんだっけ」

そういえば彼女は家事を全部やっているんだった。
万能すぎるよな、この子。

「では、今度からお作りしますね」
「あ、うん、ありがとう」

少し強引さを見せる彼女の言葉に頷き、内心喜んでいる。
でも彼女だけに負担をかけるのもどうなのだろう。
いや、明ちゃん的にはついでなのかもしれないけど、こちらばかりというのは気が引ける。

「じゃあさ、交代で持ってかない?」
「交代ですか?」
「うん、最初は明ちゃんで、次は俺が作るよ」
「はい、解りました。楽しみにしてますね」

とは言った物の、彼女に食べさせられる程美味しい料理が作れるかと言われれば、それは否だ。
ここは悔しいけど姉貴に何かを交換条件にして教えて貰おう。
その後は和やかにご飯を食べ、食べ終わった片付けを申し出たが座っててくださいと言われてしまった。
彼女が片づける様を見て、結婚したらこんな感じなのかな、なんて妄想をしてしまった。

「いや、和んでる場合じゃないって。今それよりも大きい問題があるじゃん」

朝帰りだよこれ。完全にアウトだよ。
いやでもとりあえず一旦家に帰らなきゃだよな。連絡もしてねえし。
あー、でもどこ行くかは伝えてるからなぁ。何言われるかなぁ・・・。
でもこればっかりは正直に答えるしかやりようがないよなぁ。

後片付けの終わった明ちゃんに一旦帰る事を告げ、彼女は少し寂しそうに頷く。
それを見て後ろ髪引かれるが、流石に明ちゃんの親御さんの許可なく泊まりは気が引ける。
この時間までいておきながら何言ってるって言われそうだけど、その辺りはちゃんと筋を通しておきたい。
今度改めて話をしに来ようと思う。

「じゃあまたね、明ちゃん」
「あ、その、春さん」

玄関先で見送ってくれる明ちゃんに手を振って家を出ようとすると、彼女は俺を呼び止める。
どうしたのかと振り向くと、彼女は俺の頬に軽いキスをしてきた。
俺は驚いて動けずに、ただそれを見つめていた。

「き、気を付けて帰って下さい」
「う、うん、き、気をつける」

明ちゃんは俺から離れると、顔を少し赤くしながら手を振って俺を見送る。
俺はそんな彼女をぼーっと見ながら、慌てた心を隠す事も出来ずに手を振って帰った。
たったそれだけで、さっきまでの事で少し落ち着いていた心が一気に沸き立つ。
気を付けると返したものの、気を付けられる気がしない。地に足が付いていない。

その後正気に戻ったのは、家で待ち構えていた親父と姉貴の質問攻めにあった時だった。
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