後藤家の日常

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親御さんへの確認

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『と、言うわけなんですけど、俺行っても大丈夫ですかね』

通話先から恐る恐るといった様子が判る声音で聞いて来る春くん。
内容は両親が居ない間に家に遊びに来て良いのかという物だった。
娘よ、そんな話は私は聞いていないぞ!

とはいえ、その事を態々娘の親に確認するこの子は律儀すぎる。
私やたーくんなら何も考えずに行っちゃうぞ。
いや、夫はそこまで考え無しでは無いか。

でもあの人やくざ相手に大立ち回りする人だからなぁ。
あの時は完全にあの人の勘違いだったけど。爺が話が分かる爺で良かったよ、ホント。
いやマジ、あの時は流石の私も背筋が凍った。

たーくん頭に拳銃突き付けられてんだもん。焦るなっていう方が無理だわ。
でもあの時のたーくんは男前でかっこ良かったなぁ。
いや今でもかっこ良いけどね! 大好きだけどね! 旦那様愛してるー!

『あのー、聞いてます?』

懐かしい記憶にトリップしていると、不安そうな声が聞こえる。
いかんいかん、今はそんな場合じゃないってば。
今は愛する娘の事だ。

「それ、明ちゃんがそう言ってたの?」

もしあの子が言ったという事なら、何かの覚悟を決めた可能性が有る。
それなら親として、あの子の成長を祝う事はっても邪魔をする気は無い。
せいぜいどこかに監視カメラを仕掛けて、出先から覗くぐらいだ。
そして録画しておいて帰ったら鑑賞会をしよう。

『あー、その、最初にちょっと俺がお願いをして、じゃあ休日にって話になったんですよ』

けど春くんから返って来た答えは、予想とは少し違う物だった。
状況が掴めずに首を捻る。
だが考えるよりも内容を聞いた方が早いと判断し、彼に詳しく聞く事に決める。

「どういう事? もっと詳しく」
『えっと、この間の本の事件が有ったじゃないですか』
「・・・ウン、アッタネ」

私が明ちゃんに簀巻きにされた事件だね。覚えてる覚えてる。
膀胱が破裂しそうで、この歳でお漏らししそうだったのも覚えてる。

『それで本を借りる、って話になったのは、知ってます?』
「ああ、聞いてる聞いてる。明ちゃんすっごい真剣に選んでたよ」

あの時は、普段物静かな明ちゃんが暴走してて面白かった。
それと同時に好きな人の為に真剣に悩んでいる顔が物凄く可愛かった。
思わず抱きしめたくなるぐらいだった。体格的にもう不可能だけど。

「どうだった? 面白かった?」
『はい、凄く。知らない世界を見せてもらいました』

おー、いい子。ていうか、春くんは本当に面白い子だね。
知らない世界、か。この子の歳で出て来る答えでは無い気がする。
若い頃ってもうちょっと、自分がそこまで経験した世界で凝り固まると思う。
私がそうだったし。

「そっか、そっか、なら良かった。明ちゃんも頑張った甲斐が有るね」
『はい。で、その後なんですけど、借りた本全部読み終わって、もしまだ良い物が有るなら貸して貰えないかなって頼んだんですよ』
「あー・・・解った、何となく状況掴めた」

多分、多分だけどあの子、焦って家に来たらどうかとか、そんな事言ったんだろう。
んで後になって私達が家にいない事を思い出した、と。

「多分だけど、それ雛ちゃん辺りが言ったんじゃない?」
『あ、はい、そうです』

やっぱり。雛ちゃんは明大好きだからなぁ。
多分春くんに脅しのつもりで言ったんだろう。
けどおそらく春くんにその脅しの効果は無く、私に確認して来た、と。

「まあ、そういう事なら私は別に良いよ」
『え、その、良いんですか? あの、自分で言うのも何ですけど、一応男ですよ』

一応って言っちゃう辺りが春くんらしい。
でもねぇ、正直な所春くんが明ちゃんに手を出す絵面が、全く想像出来ないのよねぇ。
むしろ完全に頭がゆだった明ちゃんが、道具片手に迫る方がしっくりくる。

うん、想像してなんだけど、すごいしっくりくる。
ただ見た目は完全に百合状態だけど。
お姉さまと妹って感じ。良いね。凄く良いよ。

『あのー、咲さん?』
「はっ!」

いかん、また想像の世界にトリップしていた。
それもこれも燃料を投下した春くんが悪い。
よし、責任転嫁したところでそろそろ真面目になろうかな。

「ねえ、春くん」
『はい』
「私はさ、別にあの子が誰を呼ぼうと咎める気は無いよ。だってあの子の事を信じているから。勿論冗談で色々言う事はあるけど、その状況で春くんを誘った事が世間的にどういう意味が有るかぐらいは、あのこは解ってると思ってる。けどそれでもあの子は予定を変えなかった」

返答したその時は焦っていたとしても、後で冷静になって意味を理解しているはずだ。
けどそれでも、あの子は春くんを誘った後、予定を変更しようとしていない。
それは、きっとそういう事だろう。なら私は娘の邪魔をする気は無い。

「私は親としては不合格な親だけどさ、娘の事は信じてるつもりだよ。だから春くんを誘った事に「何で誘ったの」なんて本気で言う様な事はしない」

冗談であの子を揶揄う為にはやるけどね。
ていうか、この事実を知った以上絶対やるけどね。
小型カメラ何処にしまったっけか。探してこなきゃ。

『えっと、じゃあ、行って良いんでしょうか』
「良いどころか来てください、かな。娘が望んでるなら来てあげて欲しい」
『解りました。ありがとうございます』
「あはは、どういたしまして。どっちが礼を言う事なのかわかんないけどね」

娘の幸せを考えれば、娘が好きな人である彼に礼を言うべきかもしれない。
この子は良い子だ。とても優しい子だ。
明ちゃんが惚れる理由もよく解る。

それに可愛いし、私も服着せ替えたいし。
お姉さんとも仲良くなりたいし。

また今度たーくんつれてお店に飲みに行こっと。
いや、むしろこの日に帰りの予定ずらして飲みに行こう。
そして監視カメラの様子を向こうの親御さんと一緒に見よう。
おお、いいぞ! やる気がみなぎって来た!

「じゃあ、その日は頑張ってね!」
『へ? な、何をですか?』
「決まってんじゃん! 明ちゃんと仲良くね!」
『あ、はい、それは勿論』

おそらく私の言葉の意味を理解せず了承する春くん。
まあ良いか。後は明ちゃんしだいだ。
楽しみだなー。ネット回線で行けるカメラが有ったよなー。
明ちゃんにばれない様に設置しなきゃ。
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