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約束
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「春さん、その、約束の本なんですけど」
昼休み、いつも通り春さんと昼食をとり、悩みに悩んだ末の数冊を彼に渡す。
複数持って来た事には悪あがきの意味があって、色んな物を読むんですよ、偏って無いんですよという言い訳の様な物だ。
結局どう言い訳をしても、全部見てる以上意味は無い事ぐらいは解っている。
「な、なんか数多いね」
「春さんの好みが解らなかったので、色々持って来てみました」
しまった、複数持って来たのは失敗だったか。
でもあれでも減らした方で、最初はもっと多かった。
母にああいわれたものの、完全にゆだった頭では結局選びきれなかった。
けど言われた通り、気に入っている物だけにはしている。
話が好きな物、書き方が好きな物、表現が好きな物、題材が好きな物、色々方向性は違うけど、ちゃんと好きな物を持ってきた。
「へ~、こういうのが明ちゃんの好きな本かぁ」
渡した本の表紙と裏表紙を物珍しそうに眺めながら感想を口にする春さん。
顔が凄く熱いのは気のせいだろうか。熱でも有るのかと思うぐらい熱い。
何だろうこれ、何のプレイを私はしているんだろうか。
「ありがとう、ちゃんと全部読むよ」
「は、はい」
良かった、春さんの笑顔はいつもの笑顔だ。
勇気を出して持って来て良かった。変に誤魔化さずに持って来て良かった。
ホッとしていると、春さんは食事を中断して一冊開いて読みはじめる。
あの春さん、出来れば私の見ていない所で読んでくれると嬉しいんですけど。
ああ、完全に読む態勢に入っている。真剣な春さんの横顔が可愛い。
じゃなくて、その、今ここで読まれるのは何とも恥ずかしいのですけど。
私が狼狽えている間にも、春さんはパラパラとページをめくって行く。
普段から本を読んでいるのだなと解る速度だ。
そういえば本を読んでいる顔を見るのは初めてだったかもしれない。
こうやって横顔を眺めているのも良いな。
春さんは本を読む時は、普段より少し目が開くんだな。真剣に読むとそうなるんだろうか。
時々「ふむ」とか「んー」とか呟いているのが凄く可愛い。
「はっ、ごめん、普通に読んでた」
「へうっ」
「へう?」
は、恥ずかしい。春さんの顔を見る事に集中しすぎて、顔を上げた彼に驚いて変な声が出た。
春さん、その首を傾げる動作も可愛いですけど、今のは聞かなかった事にして欲しいです。
「何でも無いです。ちょっと噛んでしまっただけです」
「・・・そう?」
恥ずかしさを抑え込んで自分をつくろう。
こういう時だけは自分の表情の硬さがありがたい。
おそらく全部誤魔化せてるわけじゃ無いとは思うけど。
「しまった、昼休みもう終わるね」
「そうですね。すみません、止めれば良かったですね」
「ああいや、俺が集中しちゃっただけだから。じゃあこれ借りるね」
「はい。楽しんでいただければ幸いです」
そう言いつつ、春さんがどろっどろになっているシーンを見て興奮する様を想像し、私は救いようが無いなと思った。
だめだ、趣味がばれた辺りから前以上に妄想が酷くなっている。
趣味嗜好がばれたのはもはや仕方ないけど、この妄想だけはバレない様にしないと。
「さて、じゃあそろそろ戻ろうか」
「はい、ではまた」
「うん、またね」
手を振ってそれぞれの教室に戻る。
春さんに小説を渡した事によって、どう思われるだろうという一抹の不安は拭えない。
でも彼が私の趣味に歩み寄って、私の趣味の本を読むという事に嬉しさを覚える。
我ながらその趣味が趣味なのでどうかとは思うけど。
もうちょっと可愛い、女の子らしい趣味に何でならなかったのかな。
昼休み、いつも通り春さんと昼食をとり、悩みに悩んだ末の数冊を彼に渡す。
複数持って来た事には悪あがきの意味があって、色んな物を読むんですよ、偏って無いんですよという言い訳の様な物だ。
結局どう言い訳をしても、全部見てる以上意味は無い事ぐらいは解っている。
「な、なんか数多いね」
「春さんの好みが解らなかったので、色々持って来てみました」
しまった、複数持って来たのは失敗だったか。
でもあれでも減らした方で、最初はもっと多かった。
母にああいわれたものの、完全にゆだった頭では結局選びきれなかった。
けど言われた通り、気に入っている物だけにはしている。
話が好きな物、書き方が好きな物、表現が好きな物、題材が好きな物、色々方向性は違うけど、ちゃんと好きな物を持ってきた。
「へ~、こういうのが明ちゃんの好きな本かぁ」
渡した本の表紙と裏表紙を物珍しそうに眺めながら感想を口にする春さん。
顔が凄く熱いのは気のせいだろうか。熱でも有るのかと思うぐらい熱い。
何だろうこれ、何のプレイを私はしているんだろうか。
「ありがとう、ちゃんと全部読むよ」
「は、はい」
良かった、春さんの笑顔はいつもの笑顔だ。
勇気を出して持って来て良かった。変に誤魔化さずに持って来て良かった。
ホッとしていると、春さんは食事を中断して一冊開いて読みはじめる。
あの春さん、出来れば私の見ていない所で読んでくれると嬉しいんですけど。
ああ、完全に読む態勢に入っている。真剣な春さんの横顔が可愛い。
じゃなくて、その、今ここで読まれるのは何とも恥ずかしいのですけど。
私が狼狽えている間にも、春さんはパラパラとページをめくって行く。
普段から本を読んでいるのだなと解る速度だ。
そういえば本を読んでいる顔を見るのは初めてだったかもしれない。
こうやって横顔を眺めているのも良いな。
春さんは本を読む時は、普段より少し目が開くんだな。真剣に読むとそうなるんだろうか。
時々「ふむ」とか「んー」とか呟いているのが凄く可愛い。
「はっ、ごめん、普通に読んでた」
「へうっ」
「へう?」
は、恥ずかしい。春さんの顔を見る事に集中しすぎて、顔を上げた彼に驚いて変な声が出た。
春さん、その首を傾げる動作も可愛いですけど、今のは聞かなかった事にして欲しいです。
「何でも無いです。ちょっと噛んでしまっただけです」
「・・・そう?」
恥ずかしさを抑え込んで自分をつくろう。
こういう時だけは自分の表情の硬さがありがたい。
おそらく全部誤魔化せてるわけじゃ無いとは思うけど。
「しまった、昼休みもう終わるね」
「そうですね。すみません、止めれば良かったですね」
「ああいや、俺が集中しちゃっただけだから。じゃあこれ借りるね」
「はい。楽しんでいただければ幸いです」
そう言いつつ、春さんがどろっどろになっているシーンを見て興奮する様を想像し、私は救いようが無いなと思った。
だめだ、趣味がばれた辺りから前以上に妄想が酷くなっている。
趣味嗜好がばれたのはもはや仕方ないけど、この妄想だけはバレない様にしないと。
「さて、じゃあそろそろ戻ろうか」
「はい、ではまた」
「うん、またね」
手を振ってそれぞれの教室に戻る。
春さんに小説を渡した事によって、どう思われるだろうという一抹の不安は拭えない。
でも彼が私の趣味に歩み寄って、私の趣味の本を読むという事に嬉しさを覚える。
我ながらその趣味が趣味なのでどうかとは思うけど。
もうちょっと可愛い、女の子らしい趣味に何でならなかったのかな。
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