後藤家の日常

四つ目

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またも遭遇

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何故だ・・・何故こうなった。
神様。もし居るなら貴方は私の事が嫌いなのか。それともただ単にどSなのか。
私はMではないのでそういうプレイは止めて頂きたい。
ああでも、春さんとのプレイならちょっと興奮しないでもない。
いや、そうじゃなくて。落ち着け私。完全にパニックになってるじゃないか。

「あー、えっとさ、俺帰るから、気にしなくて良いよ?」
「いえ、お気遣いなく。良ければ付き合って頂けると」
「あー、えっと、うん。うん?」

完全に私に気を遣って帰ると言い出した春さんを、私自ら引き留める。
何してるんだ私。ああもうだめだ。
春さんと居たい。でも春さんにポルノ作品を買っているのは見られたくない。
もう趣味がばれているからって、それとこれとは話が別だ。

「春さん、今日は学校帰りなのに遠出なんですね」
「あー、うん。今日また新刊がね。大きな書店に行かないと手に入らないマイナー文庫もそこそこあるからさ」
「そうですね、近場の書店は小さな個人商店しか有りませんから」
「そうそう、売れ筋しか置いてないからねー」

予約をすれば良いのではないでしょうか。
私は買う物が買う物なので、予約は出来ませんけど。
いや、春さんの行動にケチをつけるのはお門違いだ。
私の事は完全に自業自得なのだし。

「あー、えっと、明ちゃん、大丈夫?」
「何がですか?」
「ああ、いや、大丈夫なら良いんだ、うん」

全然大丈夫じゃないです。冷や汗でいっぱいで、手汗もとても気持ち悪い事になっています。
何でこんなに短い期間にこんな事にならなければいけないのか。
ほぼ毎日何かしら新刊の出るこの国の作家の飽和量が憎い。
いや、だからこそストライクな作品が出るから憎めない。

創作大国最高です。もっとポルノ作品作って下さい。
いや、だから、少し落ち着け私。

「すみません。引き留めたものの、私は趣味が趣味なので春さんにはご迷惑ですね」

そうだ、春さんは興味が無いかもしれないんだし、態々その場を去ってくれようとしたんだ。
春さんと一緒に居たいのはやまやまだけど、春さんに無理させてまでやる意味はない。

「ん、大丈夫だよ?」

だが春さんの答えはとてもシンプルな返事だった。
そうですよね、態々去ると言ったのを引き留めて、居て下さいって言ったのは私ですものね。
ああでも春さんの笑顔可愛い。抱きしめたい。

「そうですか、じゃあ」

もういい。覚悟を決めた。どうせもう打ち明けたんだ。
少しでもこっちから踏み込んでいく。
雛にだって、少しは自分から行けって言われているんだから。
間違いなくこういう事じゃ無いと冷静な自分が言ってるけど、もう関係ない。
だって既に、官能小説コーナーに足を踏み入れてるのだから。

「・・・へぇ、こういう所来た事が無かったけど、結構いっぱい種類が有るんだね」
「この辺で一番大きな書店ですから」

やっぱりこの人こういうコーナー入った事無かった様だ。恥ずかしい。
こういう事に興味の無い男性と興味しかない女とか、それこそ何処の官能小説だ。
そうなると、知識の無い春さんを耳年増な私が押し倒して、色々教えながらという感じか。
良い。とても良い。

いや、良いじゃない。そんな妄想してる場合じゃなくて。
だめだ、前ほどではないとはいえ、冷静な思考回路が戻って来ない。
これじゃお母さんじゃないか。

「あれ、これ、この人こっちでも仕事してたのか」
「え?」
「この人。俺が集めてる本の作家さんなんだ」
「ああ、この方は元々はこっちの作家さんですよ。後々一般に移られた方です」
「へぇー、やっぱり沢山読んでるだけあって、良く知ってるねぇ」

うぐっ。はい、良く読んでます。その作家さんの本も殆ど持ってます。
もう良い。流石に耐えられない。
手早く新刊を買って帰ろう。もうそれで良い。私は頑張った。

「それどんな本なの?」

私が手に取った本を見て、春さんが質問をしてくる。
春さん、私もう、顔から火が出そうな気分なんですけど。
表情に出ているのか出ていないのか自分でも解らないぐらい焦っている。
けど春さんに聞かれた以上、応えなきゃ。

「これは最近一気に増えて来たファンタジーの官能小説の一つです。ファンタジー物だと女性が一方的に攻められる作品が多いですけど、この作品は普通にお互いを想う男女同士の話ですね」
「へぇ、普通に恋愛物も有るんだ。偶には俺もそういうのも読んでみようかな」

春さんが官能小説を読む。その言葉で心臓が跳ね上がる気がした。
官能小説を読みながら、興奮している春さん。
良い。すごく良い。春さんの可愛い顔が上気しているのを想像するととても良い。
いや、だからお願いだから落ち着いて、私。

「清算してきますね」
「うん」

そんな感情は表に出さず、本の清算を済ます。
こういう時だけは、自分の感情が顔にあまり出ない事に感謝出来る。
軽い感情変化は見破られているとは思うけど、完全にばれてはいないだろう。

「お待たせしました。一緒に帰りましょう」
「うん、帰ろっか」

出会った時に春さんには本屋以外の用事が無い事は聞いている。
なので、ここは素直に一緒に帰る選択をした。例え買った本が手に有るとしても。
ここまで恥をかいたんだ。これ以上恥ずかしい事なんて在るものか。

「そうだ、明ちゃん」
「はい、何ですか?」
「もしよかったら、明ちゃんのお勧めの本貸してくれない? 俺そっち系の本には本当に疎いから、どういうのが面白いとか解らないからさ」

前言撤回。さっきより恥ずかしい事が在った様です。
ちょっと待って下さい。それってつまり、私の性癖完全にばらすって事ですよね。
私のお勧めって事は、私はこういう物で興奮するんですって言う様な物ですよね。
春さん、一体何を思ってそんな事を言い出したんですか。
いや、待て、春さんの事だ、単にこちらの趣味に理解を示そうとしただけだろう。

だからといって恥ずかしいのは何も変わらない。

「ええ、解りました。今度学校でお渡ししますね」
「うん、ありがとう」

どうしようどうしようどうしよう。

何を持って行こう。スガグロ系はあまり無いから大丈夫だ。
BL物も嫌いじゃないので有るけど、春さんに見せるのは完全にアウトだ。
凌辱系物も結構好きなんだけど、そんな物持って行った日にはドン引きされかねない。

ここは割とソフト目の、普通の小説にそう言ったシーンが付随している程度の作品を・・・そんな物数える程度しかない。
今回買ったのだって、確かにお互いを想う男女物では有るけど半分はそういうシーンだ。
まずい、胃が痛い。辛い。

本当に、神様がいるならそいつは絶対どSだ。
ああもう、礼を言う春さんの笑顔可愛いな。
これが見られたならもう何でも良いや。
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