後藤家の日常

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家族で買い物

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「娘さんにどうぞー」

今日は家族で買い物に来ている。休日なのでお父さんも一緒だ。
そして大型モールの食品売り場でそんな風に言われて試食を勧められた。
勿論娘と言われているのはお母さんだ。私な訳が無い。

「わーい」

何の抵抗も文句も無く素直に受け取るお母さん。
いつも通りの事なので何も言わずに眺める私と、そんな私達に苦笑いのお父さん。

「そちらのお父さんとお嬢さんも、いかがですか?」

母が素直に受け取った事で私達を目標に定めた様だ。
父が居るおかげか母と呼ばれる事は無かった。
もはや文句を言う気など一切起きないが、気に食わないのは変わりない。

あれは言外に、父、娘、孫、という感じに見ている。
私をお母さんと呼ばなかったのはその為だ。
どちらにせよお母さんより上といわれている事には変わりないので気には食わない。

お父さんと夫婦と間違われるのなら、それは別にそこまで嫌な事では無いけど。
ああでも、どうせなら春さんとの方が良いな。絶対無理だけど。
先輩後輩、良くて姉妹だろう。間違いなく私が上で見られる。
でも春さんとなら特に不快になった覚えが無いな。何でだろう。

「もぐもぐ、明ちゃん、これ美味しいよ!」
「そう、じゃあ、私向こうに行くから」
「明ちゃん冷たい!」

だって、別にそれ買うつもりないもの。
私は買い物籠を入れたカートを押して、調味料コーナーに向かう。
切れている調味料と、面白い調味料が無いかの物色を始める。

「あ、これ面白そう」

幾つか試しで使えそうな、小分けサイズの調味料を籠に入れていく。
こういう小分けの物が増えてくれるともっとありがたい。
大きいと口に合わなかった時の処理が大変なんだ。

適当に籠に入れたところで視線を籠に戻すと、入れた覚えの無い物が詰まっていた。
こっそり少量入れるならともかく、山盛り入ってるじゃないか。
何考えてんだあの人。本人は居ないし、何処行った。

「お父さん。お母さんは?」
「つまみを買ってくると言っていたから、ハム類か干物類を見に行ったんじゃないかな」
「はぁ・・・」

何でこう、あの人は完全に自分の欲望の物だけを買おうとするかな。
籠の中が酷いので少し入れ直すと、中はお菓子や簡単に食べれる冷凍食品等ばかりだった。
しかも冷凍食品は揚げ物ばっかりだ。
あの人もうちょっとで50だっていうのに、これだけの油物良く平気だな。

「お父さん、どれ食べたい?」
「んー、俺はあんまり油物はなぁ。最近こう、腹が重くなる感じがして。明が作ってくれるのはあっさりしてて美味いんだが」
「そっか、じゃあ、これは下の籠に入れておくね」

お母さんが入れたと思われる物を、2段になっているカートの下の籠に入れる。
これはお母さんの財布から出して貰おう。あの人しか食べないし。
私は冷凍食品を全く使わないわけじゃ無いけど、あんまり使う気にはならない。
戻す芋とか豆とかは別だけど。

「あー、俺も、偶には食べるぞ?」
「甘やかさなくて良い」
「明は咲ちゃんに厳しいなぁ」
「普通だよ」

あの母は自由人過ぎるから、これぐらいで丁度良い。
完全に放置すると何するか解らないし、あの人。
このままお母さんを探すのも二度手間になるし、お父さんと二人で食材を物色するか。

「お父さん、何食べたい?」
「明が作る物なら俺は何でも良いぞ。美味いし」

カートを押しながら聞くと、お父さんはいつも通りな答えを返す。
大体最初はこう言って来る。なので更に聞くのがいつもの流れだ。
本気でそう思ってくれているのは解っているけど、そうじゃないんだよ。

「そう言ってくれるのは嬉しいけど、お父さんの食べたい物は無いの?」
「うーん、じゃあ、切り干し大根の煮物が良い」
「はーい」

流石に切り干し大根を作る所からは大変なので、素直に切り干し大根を買う。
あとは油揚げと、人参。
うーん、シンプルにそれだけの方が良いかな。
私はインゲンとかシイタケとか入れるのも好きなんだけど。

そんな感じでお父さんと楽しく買い物をしながら店を回る。
お母さんがいないと平和だな。

「明ちゃん! 明ちゃん! これ見て!」

そして平和な時間はすぐに破られ、お母さんに目を向けると馬鹿でかい入れ物に入ったさけとばを持っていた。
母の身長より大きいので、完全に持て余してる大きさだ。

「何それ、買うの?」
「うん!」
「味とか中身とかじゃなくて、単に大きいから持ってきたでしょ」
「うん!!」

元気の良い返事にイラッとする。
お父さんはそんなお母さんを見て和やかに笑うが、私には無理だ。

「はぁ・・・下の籠に入れておいてね」
「はーい!」

私の許可を得たと、喜んで籠に入れる母。
けどそっちは母の支払い用だ。私は知らない。
ただこの人の収入だと、この程度何の痛手にもならない。

だから結局この人の好き勝手になってしまうけど、稼いでるのは本人だ。
流石にそこまで口出しするほど、私は解って無い人間じゃない。
私は二人の稼ぎで暮らして、生活させて貰っている。

「私が預かってる分からは払わないからね」
「はーい!」

ニコニコ笑顔で私に応える母。やっぱりちょっと腹が立つ。
何でこの人はこんなに楽しそうなんだ。

「たーくん、楽しいねー!」
「ああ、そうだな、咲ちゃん」

お父さんと一緒に買い物でテンションが上がってるのかな。
いや、そんな事無いな。この人は普段からこうだ。
私と二人での買い物だってこんなものだ。

しかしああやってお父さんの腕にくっついている様は、どう見ても親子にしか見えない。
私はこの人の遺伝子をどこに置いてきたんだろう。
恨めしく思いながらお母さんを見ていると、お母さんは首を傾げて口を開く。

「明ちゃん、楽しくないの?」
「お母さんが静かなら楽しいよ」
「ぶーぶー。かーわいい愛娘と、だーい好きな旦那様と一緒なんだから、騒がしいのはしょうがないでしょー」

これだ。この人は私にもこうだ。ほんとずるい。
お母さんはこれを本気で言っている。それだけに質が悪い。
本心だと知ってるからこそ、これ以上邪険に出来ないのが本当に腹に立つ。

「周りの迷惑にだけはならない様にしてよね」
「うん♪」

嬉しそうな顔してもう。
結局、お母さんに甘いのはお父さんだけじゃなくて、私も一緒か。
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