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お昼
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遠い。物凄く遠い。いつもの道のりが異様に遠く感じる。
足が震えている。もしこの先にあの人が居なかったらと思うと怖くて堪らない。
もはやここに来ては、自分がそこに行きたいのか行きたくないのかも解らなくなってきた。
会いたい。会いたいけど会いたくない。
いや、会いたくないと思われている彼に会いたくない。
いつも通りの春さんがそこに居てほしい。
けど、そうじゃないならいっそ向かいたくはない。
そんな良く解らない感情を抱えながら、いつもの場所に向かう。
お昼休みにいつも一緒に食べている場所に。
どうか、どうかそこにいつもの春さんが居ますようにと願いながら
「あれ、明ちゃん今日は遅かったね」
かくして大好きな先輩はそこに居た。
いつも通りの優しい笑みで、優しい声で私に声をかけてくれた。
いつもの先輩がそこに居た。
「あの春さん」
「ん、どしたの?」
「この間の事なんですけど」
普段通りだからこそ言わなきゃいけない様な気がした。
ここを逃がしたら、もう言える機会がない気がしたから。
いつまでもこの人に、好きな人に隠し通すなんてしたく無かったから。
「あー、ごめんね、明ちゃん知られたくなかったんだよね」
「いいえ、春さんが謝る事じゃ無いです」
ばらしたのは母だし、あの時だってこの人は気遣ってくれた。
この人は何も悪くない。私が勝手に知られたくなかっただけだ。
引かれたくないと思っていただけだ。
「・・・隣、失礼しますね」
「うん、どうぞ」
春さんの隣に座って彼を見つめる。彼は私の様子に箸を止めた。
彼の気づかいに感謝して、私は口を開く。
「春さん、私、ああいう物を集めるのが趣味なんです」
「うん、みたいだね」
「本だけじゃなくて、DVDとかも集めてます」
「あー、うん、実はそれも聞いた」
ああくそ、やっぱ謝るんじゃ無かったかな。あの母め、全部言ってるんじゃないか。
という事は、色々と道具が有る事も聞いているんだろうな。
顔から火が出そうになってくる。
あれらは集めるだけで使った事は無いけど、使っていると思わてるかもしれない。
いや、ここで怯んでる場合じゃない。
折角春さんは聞いて来る体勢になっているんだ。話さなきゃ。
どれだけ恥ずかしくても、ここを逃したらもうチャンスは無い気がする。
「気持ち、悪く無いですか? 見た目はこんな大女で、趣味がポルノ収集なんて」
「ぜーんぜん。趣味なんて人それぞれでしょ。それで人に迷惑かけてるわけでも無し」
春さんは私の問いに返事をすると、止めていた橋を動かして卵焼きを口に運ぶ。
私はあっさりと軽く返事をされた事に、多少面を食らった。
一切のためも無く、何を気にしているのかと言わんばかりの普段通りな返事。
「明ちゃんが気持ち悪い? 馬鹿言っちゃいけない。こんな可愛い子気持ち悪いとか頭おかしいって。大体気持ち悪いって話なら、男のくせにこんな格好してる俺の方がよっぽど気持ち悪い」
「そんな事無いです!」
自嘲する様に言う春さんの言葉に、反射的に強く叫んでしまった。
すぐにはっと正気に戻り、慌ててしまう。春さんに何て事を。
けど春さんはそんな私を見て、笑顔を見せた。
「それが答えなんじゃない? 明ちゃんがこんな格好の俺を友達と思ってくれる様に、明ちゃんの趣味が何だろうと、明ちゃんを気持ち悪いなんて思わないよ。思うわけが無い」
「―――――っ」
ああもう、この人は、何でこんなに的確に私の心を掴んでくるんだ。
何でこの人はこんなに暖かいんだ。
「ありがとうございます、春さん。大好きです」
あまりに気持ちが高ぶり過ぎて、心のままに言葉が口に出る。
普段なら少しはテレが出る程の言葉を、勢い良く口にしてしまった。
「どういたしまして、俺も好きだよ」
そんな私の言葉に、にかっと笑って答えてくれる春さん。
ああもう、何て可愛い。なんて素敵なんだこの人は。
本当に、大好き。
足が震えている。もしこの先にあの人が居なかったらと思うと怖くて堪らない。
もはやここに来ては、自分がそこに行きたいのか行きたくないのかも解らなくなってきた。
会いたい。会いたいけど会いたくない。
いや、会いたくないと思われている彼に会いたくない。
いつも通りの春さんがそこに居てほしい。
けど、そうじゃないならいっそ向かいたくはない。
そんな良く解らない感情を抱えながら、いつもの場所に向かう。
お昼休みにいつも一緒に食べている場所に。
どうか、どうかそこにいつもの春さんが居ますようにと願いながら
「あれ、明ちゃん今日は遅かったね」
かくして大好きな先輩はそこに居た。
いつも通りの優しい笑みで、優しい声で私に声をかけてくれた。
いつもの先輩がそこに居た。
「あの春さん」
「ん、どしたの?」
「この間の事なんですけど」
普段通りだからこそ言わなきゃいけない様な気がした。
ここを逃がしたら、もう言える機会がない気がしたから。
いつまでもこの人に、好きな人に隠し通すなんてしたく無かったから。
「あー、ごめんね、明ちゃん知られたくなかったんだよね」
「いいえ、春さんが謝る事じゃ無いです」
ばらしたのは母だし、あの時だってこの人は気遣ってくれた。
この人は何も悪くない。私が勝手に知られたくなかっただけだ。
引かれたくないと思っていただけだ。
「・・・隣、失礼しますね」
「うん、どうぞ」
春さんの隣に座って彼を見つめる。彼は私の様子に箸を止めた。
彼の気づかいに感謝して、私は口を開く。
「春さん、私、ああいう物を集めるのが趣味なんです」
「うん、みたいだね」
「本だけじゃなくて、DVDとかも集めてます」
「あー、うん、実はそれも聞いた」
ああくそ、やっぱ謝るんじゃ無かったかな。あの母め、全部言ってるんじゃないか。
という事は、色々と道具が有る事も聞いているんだろうな。
顔から火が出そうになってくる。
あれらは集めるだけで使った事は無いけど、使っていると思わてるかもしれない。
いや、ここで怯んでる場合じゃない。
折角春さんは聞いて来る体勢になっているんだ。話さなきゃ。
どれだけ恥ずかしくても、ここを逃したらもうチャンスは無い気がする。
「気持ち、悪く無いですか? 見た目はこんな大女で、趣味がポルノ収集なんて」
「ぜーんぜん。趣味なんて人それぞれでしょ。それで人に迷惑かけてるわけでも無し」
春さんは私の問いに返事をすると、止めていた橋を動かして卵焼きを口に運ぶ。
私はあっさりと軽く返事をされた事に、多少面を食らった。
一切のためも無く、何を気にしているのかと言わんばかりの普段通りな返事。
「明ちゃんが気持ち悪い? 馬鹿言っちゃいけない。こんな可愛い子気持ち悪いとか頭おかしいって。大体気持ち悪いって話なら、男のくせにこんな格好してる俺の方がよっぽど気持ち悪い」
「そんな事無いです!」
自嘲する様に言う春さんの言葉に、反射的に強く叫んでしまった。
すぐにはっと正気に戻り、慌ててしまう。春さんに何て事を。
けど春さんはそんな私を見て、笑顔を見せた。
「それが答えなんじゃない? 明ちゃんがこんな格好の俺を友達と思ってくれる様に、明ちゃんの趣味が何だろうと、明ちゃんを気持ち悪いなんて思わないよ。思うわけが無い」
「―――――っ」
ああもう、この人は、何でこんなに的確に私の心を掴んでくるんだ。
何でこの人はこんなに暖かいんだ。
「ありがとうございます、春さん。大好きです」
あまりに気持ちが高ぶり過ぎて、心のままに言葉が口に出る。
普段なら少しはテレが出る程の言葉を、勢い良く口にしてしまった。
「どういたしまして、俺も好きだよ」
そんな私の言葉に、にかっと笑って答えてくれる春さん。
ああもう、何て可愛い。なんて素敵なんだこの人は。
本当に、大好き。
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