後藤家の日常

四つ目

文字の大きさ
上 下
19 / 144

慰め

しおりを挟む
「そうか、ばれてしまったのか」

自室で落ち込んでいる私を気にして、お父さんが様子を見に来てくれた。
お父さんの優しい声音と頭を撫でる優しい手に、今日あった出来事を俯きながら話した。

「・・・うん、嫌われたら、どうしよう」

自分の趣味が普通じゃ無い事ぐらいは理解している。
どこの女子高生がポルノ収集なんてするものか。どう考えてもそんな女まともじゃない。
まともじゃ無いというのは解ってるけど、これは私にとっては止められない趣味だ。

「うーん、その、俺は明の趣味に対する気持ちとかは、良く解らないんだが・・・」

お父さんは頭をかきながらそう口にして、一拍置いてから言葉を続ける。

「なあ、明。明が好きになった人は、それで明を嫌う様な人なのかい?」

優しい声音で発せられた言葉に俯いていた顔を上げ、お父さんの目を見る。
お父さんの目はとても優しく、落ち込んでいた心がほんの少し和らぐ様な気がした。
私が顔を上げたのを確認してお父さんはは続ける。

「明はその先輩の事が好きなんだろう? 自分が好きになった人は、そんな事で仲の良い後輩を嫌いになる様な人なのかい?」
「それは・・・」

春さんが人の趣味を知って人を嫌うか?
解らない。あの人と良く話すようになってまだ1年程度だ。
あの人を良く知ってるなんて言える程長い期間の関係じゃない。
春さんの好きな女性の趣味は知らないし、嫌うタイプの人間もそこまで知ってるわけじゃ無い。

―――――けど。

「そんな事、無いと思う」

頭に浮かぶのは春さんの優しい笑顔。
耳に残っているのは春さんの優しい声。
私の体質を面倒くさがらず、気にし過ぎずに付き合ってくれる優しい人。

私の無茶を怒ってくれた優しい人。
彼を助けに行って全てが終わった時、こんな大女に女の子が無茶するなと怒った。
自分の方が可愛らしくて、明らかに無茶に見えるのにだ。

初めて会った時のあの人が私を怒鳴った声が、表情がとても嬉しかった。
春さんの優しさがとても嬉しかった。

それがきっかけで春さんと良く話すようになった。
そしてあの可愛くて優しい人の、本当の優しさに惹かれてしまったんだ。
単純に一目惚れなだけじゃない、あの人の内面にも惹かれている

「あの人は、優しい人だから」

私の答えにお父さんは頷いて私の頭を撫でる。
その優しい手と自分の答えに、気落ちした心が消えていくのを感じる。

「なら大丈夫だ。自分の事に自信をもて。お前が好きになった人なんだから」

その言葉と目の強さに何とも言えない説得力を感じた。
お父さんが好きになった人はお父さんをを心から愛している。この人を大事に思っている。
ふざけた行動が多いが、お母さんはこの人を深く愛している。

「のろけ?」

少し余裕が出来た自分は、自分の事を誤魔化すように言う。

「あはは、そうかもしれないな」

私の返事に愉快気に笑いだすお父さん。
その顔は、若干の照れくささからの言葉なのだと理解している様に見える。

「いつもありがとう。お父さん」
「娘が困ってるんだから、当然だよ」

余裕が出て来た私はお父さんに素直に礼を言う。そしてまた頭を撫でてくれるお父さん。
ああ、本当に凄いな。お父さんは私の大変な時にいつも助けてくれる。大好きだ。

「お母さんにも泣きつかれたし?」
「あー、それも無くは無い」

やっぱり少し照れくさくて揶揄う様に言うと、困った様な顔でお父さんは応えた。
後でお母さんには謝っておこう。流石にちょっとやりすぎた。
あんな物半分は八つ当たりだ。そもそもその趣味はいつか知られる事なんだから。

「お母さんにも、後で謝っておくね」
「そうしてやってくれ。明ちゃんに本気で怒られた―って、完全に泣いてたからな」

その様が目に浮かぶ。あの人は行動は滅茶苦茶な自由人のくせに簡単に泣く。
私の事では特にだ。私のこの障害の事も昔は良く泣いていた。
ごめんねと、何度も泣いて抱きしめられたのは良く覚えている。
変で困った人だけど家族への想いは本物だ。

「明は良い子だな。本当に」

小さい頃を思い出す私に、優しい声音でお父さんは言った。
優しいのだろうか。私はお母さんには厳しい方だと思う。
でも、お父さんには私と違う物が見えているんだろう。

「じゃあ、俺はちょっとお母さんも慰めて来るよ」
「まだ気にしてる?」
「そりゃあ、大事な娘の事だからな」
「だったら普段から少し気を付けてほしい」

私の言葉に苦笑して、お父さんは部屋を出て行った。
お父さんもお母さんの自由人加減は良く知っているから。

「・・・正直に、言うか、な」

明日は春さんに趣味の事を話してみよう。
そう決めると、まだ彼を目にしてないのに緊張してくる。
手汗と心音が凄い事になっている。
深呼吸をして、眠れない様な気がしつつも横になる。

明日は、頑張ろう。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

シチュボ(女性向け)

身喰らう白蛇
恋愛
自発さえしなければ好きに使用してください。 アドリブ、改変、なんでもOKです。 他人を害することだけはお止め下さい。 使用報告は無しで商用でも練習でもなんでもOKです。 Twitterやコメント欄等にリアクションあるとむせながら喜びます✌︎︎(´ °∀︎°`)✌︎︎ゲホゴホ

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

処理中です...