後藤家の日常

春さんの焦り

どうしよう、やってしまったかもしれない。
もっとさらっと流すべきだったろうか。
いやでもさらっと受け流すには難しいだろう。

「でもなぁ、どう返事しろってんだよ」

好きな女の子が好きで買ってる本が官能小説で、しかもそれを俺に教えたのが彼女の母親。
明ちゃんのあの態度から、どう考えても知られたくなかったんだと思う。
そんなのさらっと返せるわけが無い。

「坂本は良いボディーブロー決めていくし・・・」

まだ腹筋が痛い。
明ちゃんがフラフラと店を出て行くのを見て、どうしたら良いか悩んでたら殴られた。

「おい、てめえ、明あのままほおっておく気か」

と、かなりドスの効いた声で言われて気圧された。
アイツほんと明ちゃん好きだよな。
でも空手やってんだからもう少し手加減してくれ。内臓が破裂するかと思った。

日傘をさしながら、ぼーっとした顔で家路につく明ちゃんを、とりあえず家まで送り届けた。
普段のしっかりした足取りが嘘みたいに危なげだったので、ついて行って良かった。
一応家の前で声をかけた時は頭を下げてくれたけど、明日からどうしよう。

俺としては彼女の趣味に特に思う所は無い。
いや、全くないってのは勿論嘘になるけど、嫌な感情は無い。
趣味は人それぞれだし。大体そんな事言い出したら俺の方が気持ち悪い。

男なのに女装してて、私服も女物ばかり。
外出時の格好は大半がスカートだし、化粧だってする。
だって中途半端だと格好悪いし姉貴も怒る。やるならちゃんとやった方が良い。
その方が明ちゃんも喜ぶし。

明日、顔会わせてくれるかな。
気にしないで欲しいって、言わないとな・・・。