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教室の状況
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靴を履き替えたら教室に向かう。
下足所もそうだが、学校敷地屋内で私が普段通る所は全て遮光カーテンが取り付けられ、普段から日光が入らない様になっている。
私一人の為に心苦しくはあるが、とても助かっている。
教室でも顔を布で覆うか日傘をさすなどはしたくないし、教室までの移動も同じくだ。
自分の体質に対応してくれているこの学校や生徒には感謝しないといけない。
とはいえ元々カーテン自体は存在していた。私一人の為に買い付けたというわけではない。
教室の前に辿り着くと、中では既に来ている生徒が楽しげに雑談する声が聞こえる。
ただしこの雑談は一瞬消える。
教室の扉を開けて皆が私の存在を認識すると、皆が黙るからだ。
いつもの事だ。慣れている。
一時静かになった教室をすたすたと歩き、自身の席に向かう。
「お、おはよう、後藤さん」
「おはよう御座います」
今日はその途中、近くに居た女生徒に挨拶をされた。ちょっと珍しい。
「おはよう」
挨拶を返すと、二人は小さく「きゃ」と言って他の生徒のいる方へ走っていき、小声で何か話している。
・・・いつも通りだ。私はあまり気にせず席に着く。
私は一番後ろの席だ。当たり前だ。2メートルの身長では、前の方では邪魔過ぎる。
普段からそうだけど、この女性らしからぬ身長には辟易だ。
通学路こそ誰も気にしなくなったけど、遠出すると必ずじろじろ見られるし。
「おはよ」
席に座ると、隣の席で机に突っ伏していた女生徒がその体勢のまま顔を横に向け挨拶をしてくる。
私の数少ない話し相手だ。
「おはよう北島さん。今日も夜更かし?」
「ふあ~、ゲームが終わんなくてさぁ。夏休みもうちょっと増えないかな」
北島さんは背伸びをして、こちらにちゃんと向き直る。
そしてちらりと教室内の状況を見ると溜め息を吐く。
「相変わらず人気者だねぇ」
「怖がられてるだけだよ」
「あんたがそれで良いなら別に良いけど、まあ所詮関わりを持ちに来ようとしない他人だしね。知ったこっちゃないか」
小さく欠伸をしながら、彼女は興味なさげに言う。とはいえ私が怖がられているのは本当だ。
過去の私は学内で大きな乱闘騒ぎを起こした事が有る。
いや、正確には乱闘騒ぎに巻き込まれている人を助けたくて、乱闘に突っ込んでいった。
結果として、その人と一緒に大勢の人間をのした。
相手の人数が人数であった為、私達は紆余曲折有ったもののお咎め無し。
以来他の生徒からは怖がられている。
怖がらないのは北島さんや、小さい頃からの親友等の一部の者ぐらいだ。
「そういえばあの先輩とはどうなったの?」
「春さん?」
「ほう?」
北島さんがニヤッと笑う。笑みが少しいやらしい。
彼女には以前、私の春さんに対する想いを話している。
「春さんねぇ。夏休みに大人になったのかなー?」
「名前で呼ぶようになっただけだよ」
「なんだつまんない。初体験済ませたのかと思ったのに」
本当につまらなそうに言う北島さん。
この人はこう言う所が変にサッパリし過ぎているせいか、彼女も彼女であまり友人は居ない。
言葉をオブラートに包むという事をしない為女子グループに馴染まず、だからと言って男子と仲が良いわけでもない。
特に虐められているわけではないが、そうだとしても彼女は一切気にしないだろう。
「ストレートだね」
「男と女なんだから、別に不自然な事じゃないっしょ」
「それは、まあ」
私も押し倒すのを考えた事が無い訳じゃない。時々頭によぎったのは間違いない。
けどそれで嫌われたら? 暫く立ち直れない自信が有る。
あの人の傍に寄れないなんて、考えるだけで胸が苦しくなる。
春さんの事は大好きだ。見た目だけじゃなく、とても暖かなあの人が好きで堪らない。
だからこそ、これ以上踏み込めない自分がいる。特に自分は大きなハンデが有る。
持病持ちで色々と迷惑をかけるだろう。今の関係でも彼には気を遣って貰っている。
そういう優しさも惹かれた理由ではあるのだけど。
「のんびりしてると取られるよー。先輩、割と人気だし。男女問わずね。あんなだから有名で、1年生も知ってるぐらいだからね」
「知ってる」
あの人は男の人から告白された回数の方が多いと聞いている。
あれだけ可愛いんだ。有りえなくはない。
まあ男だと知って驚愕する事と、男でも良いっていう人が居るみたいだけど。
女の人に告白された事も無いわけじゃ無いらしい。
でもそれでも春さんが誰かと付き合ったという事を聞いたことは無い。
そう考えると、やっぱり踏み込んで今の関係すら壊れる可能性が頭によぎる。
意気地無しだなと、我ながら思う。
その後も他愛ない雑談をしているとチャイムが鳴り、教師が入ってきた。
「あ、時間か」
「ん」
教師がホームルームを始め、軽く挨拶をし終わったら校長の長話の為に体育館へ移動となる。
長々と校長が話を終えたら教室に戻り、教師の終了の挨拶で今日の学校行事は終了。
特に進学校というわけでもない為か、うちの学校は色々と緩いなと思う。
帰り支度をして今日の夕飯を考えつつ、教室を出る。
母はおそらく、今頃ビールを飲みつつグダグダやっているだろうな。
・・・私の日本酒飲んで無いだろうな。
下足所もそうだが、学校敷地屋内で私が普段通る所は全て遮光カーテンが取り付けられ、普段から日光が入らない様になっている。
私一人の為に心苦しくはあるが、とても助かっている。
教室でも顔を布で覆うか日傘をさすなどはしたくないし、教室までの移動も同じくだ。
自分の体質に対応してくれているこの学校や生徒には感謝しないといけない。
とはいえ元々カーテン自体は存在していた。私一人の為に買い付けたというわけではない。
教室の前に辿り着くと、中では既に来ている生徒が楽しげに雑談する声が聞こえる。
ただしこの雑談は一瞬消える。
教室の扉を開けて皆が私の存在を認識すると、皆が黙るからだ。
いつもの事だ。慣れている。
一時静かになった教室をすたすたと歩き、自身の席に向かう。
「お、おはよう、後藤さん」
「おはよう御座います」
今日はその途中、近くに居た女生徒に挨拶をされた。ちょっと珍しい。
「おはよう」
挨拶を返すと、二人は小さく「きゃ」と言って他の生徒のいる方へ走っていき、小声で何か話している。
・・・いつも通りだ。私はあまり気にせず席に着く。
私は一番後ろの席だ。当たり前だ。2メートルの身長では、前の方では邪魔過ぎる。
普段からそうだけど、この女性らしからぬ身長には辟易だ。
通学路こそ誰も気にしなくなったけど、遠出すると必ずじろじろ見られるし。
「おはよ」
席に座ると、隣の席で机に突っ伏していた女生徒がその体勢のまま顔を横に向け挨拶をしてくる。
私の数少ない話し相手だ。
「おはよう北島さん。今日も夜更かし?」
「ふあ~、ゲームが終わんなくてさぁ。夏休みもうちょっと増えないかな」
北島さんは背伸びをして、こちらにちゃんと向き直る。
そしてちらりと教室内の状況を見ると溜め息を吐く。
「相変わらず人気者だねぇ」
「怖がられてるだけだよ」
「あんたがそれで良いなら別に良いけど、まあ所詮関わりを持ちに来ようとしない他人だしね。知ったこっちゃないか」
小さく欠伸をしながら、彼女は興味なさげに言う。とはいえ私が怖がられているのは本当だ。
過去の私は学内で大きな乱闘騒ぎを起こした事が有る。
いや、正確には乱闘騒ぎに巻き込まれている人を助けたくて、乱闘に突っ込んでいった。
結果として、その人と一緒に大勢の人間をのした。
相手の人数が人数であった為、私達は紆余曲折有ったもののお咎め無し。
以来他の生徒からは怖がられている。
怖がらないのは北島さんや、小さい頃からの親友等の一部の者ぐらいだ。
「そういえばあの先輩とはどうなったの?」
「春さん?」
「ほう?」
北島さんがニヤッと笑う。笑みが少しいやらしい。
彼女には以前、私の春さんに対する想いを話している。
「春さんねぇ。夏休みに大人になったのかなー?」
「名前で呼ぶようになっただけだよ」
「なんだつまんない。初体験済ませたのかと思ったのに」
本当につまらなそうに言う北島さん。
この人はこう言う所が変にサッパリし過ぎているせいか、彼女も彼女であまり友人は居ない。
言葉をオブラートに包むという事をしない為女子グループに馴染まず、だからと言って男子と仲が良いわけでもない。
特に虐められているわけではないが、そうだとしても彼女は一切気にしないだろう。
「ストレートだね」
「男と女なんだから、別に不自然な事じゃないっしょ」
「それは、まあ」
私も押し倒すのを考えた事が無い訳じゃない。時々頭によぎったのは間違いない。
けどそれで嫌われたら? 暫く立ち直れない自信が有る。
あの人の傍に寄れないなんて、考えるだけで胸が苦しくなる。
春さんの事は大好きだ。見た目だけじゃなく、とても暖かなあの人が好きで堪らない。
だからこそ、これ以上踏み込めない自分がいる。特に自分は大きなハンデが有る。
持病持ちで色々と迷惑をかけるだろう。今の関係でも彼には気を遣って貰っている。
そういう優しさも惹かれた理由ではあるのだけど。
「のんびりしてると取られるよー。先輩、割と人気だし。男女問わずね。あんなだから有名で、1年生も知ってるぐらいだからね」
「知ってる」
あの人は男の人から告白された回数の方が多いと聞いている。
あれだけ可愛いんだ。有りえなくはない。
まあ男だと知って驚愕する事と、男でも良いっていう人が居るみたいだけど。
女の人に告白された事も無いわけじゃ無いらしい。
でもそれでも春さんが誰かと付き合ったという事を聞いたことは無い。
そう考えると、やっぱり踏み込んで今の関係すら壊れる可能性が頭によぎる。
意気地無しだなと、我ながら思う。
その後も他愛ない雑談をしているとチャイムが鳴り、教師が入ってきた。
「あ、時間か」
「ん」
教師がホームルームを始め、軽く挨拶をし終わったら校長の長話の為に体育館へ移動となる。
長々と校長が話を終えたら教室に戻り、教師の終了の挨拶で今日の学校行事は終了。
特に進学校というわけでもない為か、うちの学校は色々と緩いなと思う。
帰り支度をして今日の夕飯を考えつつ、教室を出る。
母はおそらく、今頃ビールを飲みつつグダグダやっているだろうな。
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