暴食のグロリア

四つ目

文字の大きさ
上 下
7 / 23

第6話、現状確認

しおりを挟む
『グロリア、向こうだ』
「はい!」

頭に響く声が、ガライドさんが魔獣へと誘導してくれる。
目の前に移る手が指差し、言われるままに全力で走る。
何時もより力が張る。体が凄く軽い。まるで風になったみたい。

『いたぞ、アレだ! 先ずは――――――』
「ああああああああああ!!」

声を上げて拳に力を入れて、見つけた魔獣の頭を殴り飛ばす。
すると魔獣の頭が粉々に吹き飛んで、それどころか地面まで吹き飛んだ。
そのせいで胴体が勢いよく吹っ飛んでいって、慌てて追いかけて捕まえた。
ホッとしながら捕まえた魔獣を食べようとして、ふと思い止まってガライドさんに問う。

「勝ち、ました。食べて良い、ですか?」
『・・・まさかただ殴るだけで倒すとは思わなかった。何ださっきの数値。おかしいだろう。それに何だあの一瞬の鮮やか過ぎる動きは。戦い慣れているなんてレベルじゃないぞ。そもそも強化された状態にもかかわらず、当たり前の様に順応していないか』
「数値? でも、何時も、こうやって、勝ってます。戦いは、慣れて、ます」

ただ今日はやけに調子がいい。お腹が空いているけど体が良く動く。
空腹でも闘う時は何時も力が張るけど、今日は何時も以上に地を蹴る力が強かった。
手足が自分の物じゃないから、力が入ると言って良いのか良く解らないけど。

『・・・私に適合する者が中々出てこない訳だ・・・負傷でもしないと私が要らないんだな』
「・・・食べて、良い、ですか?」
『すまない。少々予想外の事態に驚いた。その前にもう一度確認しておきたい。君は本当に、普段から変異獣を口に入れているのだな? 嘘ではないな? 大丈夫なんだな?』

また聞かれた。あの建物を出る前に、何度も何度も答えたのに。
そんなに嘘をついてる様に見えるのかな。本当の事しか言ってないのに。

「食べて、ます。嘘じゃない、です」
『・・・ならばこれ以上何も言うまい。食べる事は許可しよう。だがどうやって食べる?』

どうやって? どうやっても何も、食べるだけ。
許可は貰えたし、流れる血をごくごくと飲み、肉にがぶりとかぶりつく。

『・・・まさか生で行くとは思わなかった。しかもこれは・・・うむ? 何かがおかしいな』

頭の中でまた声が響いているけど、今は気にしない。
お腹空いた。もっと食べたい。いっぱい、食べたい。
それにどれだけ食べても怒られないって、主人は言っていた。
なら全部、全部食べてしまおう。めいっぱい食べてしまおう。

魔獣の毛と骨以外を食べ終わって、ふうと一息吐く。
水分を大分取り込めた。お肉もいっぱい食べられて大分体が軽い。
闘技場で負けたから、結局食べれてなかったし、やっと少し楽になった。

『ふむ、変異獣を取り込む事でエネルギーに変換しているのか。勝てば食べれる。つまり勝つ為に食べている。確かに君の力が有れば理論上は可能だろう。いや、理にはかなっているが、理屈でやっているとは思えんな・・・何時から闘い続けていたのか。この様な少女が』
「私は、ずっと、闘技場で、闘って、ました」
『闘技場? 君の様な少女が闘技場とは、非合法の闘技場の類か?』
「ひごう、ほう? 闘技場は、帝国の、ごらくって、主人は言って、ました」
『・・・帝国? 主人?』
「私は奴隷で、闘技場の闘士で、戦って勝てば、食べる事が出来、ました」
『・・・・・・奴隷?』

そこまで言うと、急に頭の中の声が静かになった。
どうしたんだろうと思い、首を傾げながらもぐもぐ食べる。
下手に話しかけて怒られたくはない。怒られたら痛い事になるかもしれない。

『グロリア、少々、君の事を聞きたい。質問をさせて貰えるかな』
「はい、わかり、ました」

そこからの質問は良く解らないのも有ったけど、応えられるだけ答えた。
合間に魔獣を何体か殴り飛ばして、食べながら会話を続けた。そして――――。

『成程成程。君の話から予測するに、私を作った者達は大昔に死滅しているな! 文明が一回滅んで、再興し始めたという所か! はっはっは、人間は逞しいな! まるでSF小説だ!』
「そう、なん、ですか?」
『はっはっは、困った事にそういう事になるな・・・ふざけるなよ! 適合者が現れれば使うという話ではなかったのか! 道理で時刻表示がおかしい訳だ! 施設と自動同期していたせいで私の内部情報も狂ってしまっただろう! というか人類が変異獣に適合してるではないか!』
「っ!?」

お、怒られた。痛いのが来る・・・あれ、痛くない。
そうか、奴隷の首輪はもうないんだった。
でもこの手足は、なんだか奴隷の首輪に似てる気がする。何となく。

『あ、す、すまない。私は制作者の趣味で、どうもAIの雰囲気が出来るだけ出ない様にされていてね。こう、無駄な感情の振れ幅が有るのだ。全く、奴は本当に碌な事をしない』
「・・・奴?」
『こっちの話だ。しかしそうなると、私の役目は在って無い様なものか。まさか無駄に組み込まれたデータにある物語の様な立場に自分がなるとは。もう私はただのガラクタと変わらんな。何が最高傑作の最強の兵器だ。使える者が居なければ何の意味もないではないか。全く』
「役目、ですか?」
『・・・さっき説明したつもりだったのだが』
「す、すみま、せん。お腹、すいてた、から」

それに解らない事だらけだった。私は奴隷だし、知らない事が多い。
あんまり色々言われても、解らないとしか返せない。

『まあ良い。人類が滅んでいないのであれば、それは良い事なのだろう。我々は人類が生きながらえる為の道具。使う必要無く人々は適応した。そう思う事にしよう。でないとやってられん』
「はぁ・・・そう、ですか」
『所で、君はこれからどうするつもりなんだ』
「私は・・・魔獣に勝って、お腹いっぱい、食べます」
『いや、とりあえず食欲を満たした後は、どうするのかと』
「? いっぱい、食べます、よ?」

もしゃもしゃと、さっきまた倒した魔獣を食べながら答える。
どれだけ食べても良いのは凄く嬉しい。食べる度に体に力が入る。
けどそれでも足りないって、まだまだ食べたいって体が言ってる気がした。

『・・・暫く行動の判断は私がやろう。任せると不安だ』
「わかり、ました。ガライドさんは、どこに、居るんですか?」
『・・・そこからだったか。仕方ない。見て解る様にしよう』
「ふえ!?」

パキンと、いきなり腕が折れて、そこから玉が出て来た。
驚いている内に腕が元通りになって、慌てて手を握って開く。
お、思った通りに動いてる。でも勝手に動いた。びっくりした。

『これが私、という事にしておいてくれ』
「え、あ、え? この玉が、ガライド、さん?」
『そうだ。その手足も私なのだが、まあその理解は追々にな。これから宜しく、相棒』
「あい、ぼう」
『そうだ。過酷であった君のこれまでの人生に報いが有る様に、君のこれからを私がサポートしよう。うむ、そう考えれば、今更起きた事も無駄ではないと思えるな』

相棒。闘技場でも、そんな事を言ってる人が、居た気がする。
意味は良く解らないけど、私に指示を出してくれるって事だろうか。

「わかり、ました。お願い、します。ガライド、さん」
『さんは不要だ。それでグロリア、手始めに何かしたい事はあるかな』
「お腹、いっぱい、食べたい、です!」
『・・・そう言えばそうだったな・・・また変異獣・・・魔獣を狩るとしようか。誘導しよう』
「はい!」

やった。やっぱり私に指示を出してくれるんだ。
今度の主人はいっぱい食べさせてくれる人だ!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

ハイスペな車と廃番勇者の少年との気長な旅をするメガネのおっさん

夕刻の灯
ファンタジー
ある日…神は、こう神託を人々に伝えました。 『勇者によって、平和になったこの世界には、勇者はもう必要ありません。なので、勇者が産まれる事はないでしょう…』 その神託から時が流れた。 勇者が産まれるはずが無い世界の片隅に 1人の少年が勇者の称号を持って産まれた。 そこからこの世界の歯車があちらこちらで狂い回り始める。 買ったばかりの新車の車を事故らせた。 アラサーのメガネのおっさん 崖下に落ちた〜‼︎ っと思ったら、異世界の森の中でした。 買ったばかりの新車の車は、いろんな意味で ハイスペな車に変わってました。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...