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ピアスの代わりに噛み跡を
しおりを挟む「ねぇ、雫、ちょっといいかな」
「うん?どしたん、凛」
「あのさ……いきなりなんだけど、ちょっとピアス開けるの手伝ってくれない?」
「……えっ?」
とあるマンションの一室。
半年前から同棲している彼女である凛がピアッサー片手に困った顔をしていた。
「……いきなりどうしたの?」
「いや、実はさっきから1人でピアス開けようと頑張ってたんだけど、中々勇気が出なくて開けられなくて……」
「あー、さっきから洗面所で何やってるんだろうと思ったらそういう事だったのね」
「そうそう。何回もピアッサーを自分の耳に当てるんだけど、押す勇気が出なかったの。だから、雫に開けてもらおうと思って」
「ふーん、なるほど……」
「……なんか不満げ……だね?」
「そりゃ……好きな人の体をあまり傷つけたくないからね」
近づいてきた彼女のまだ綺麗な片耳をふにふにと触りながら、そう言う。
耳が少し弱いからか、彼女の顔が少しずつ赤くなっていくのを感じる。
流石に触りすぎたからか、彼女に優しく振り払われてしまったが。
「ふ、ふーん、そっか……」
「そう言えば、何で凛は急にピアス開けたくなったの?」
「別に急にって訳じゃなくて、ピアスに関しては前から開けたかったんだけど……し、雫とお揃いをピアス付けたかったから……」
まだ少し赤い顔を俯かせながら、恥ずかしそうに声を小さくしてそう言う凛。
……あれ、私の彼女ってこんなにも可愛かったっけ?可愛すぎたっけ?
あまりの可愛さに思わず「フフッ」と笑みが零れる。
「あっ、ちょっとー、笑わないでよ」
「ごめんごめん。あまりにも可愛い理由だったから、つい」
「むぅ、ホントにもー」
横を向き、頬をぷくっと膨らませ、凛は拗ねた態度をとる。
でも、ガチじゃないのが分かっているから目を合わせると互いに「ハハハッ」と笑い合う。
「それにしても、私とお揃いのピアスを付けたかったの?」
「うん」
「何で?」
「えっ、だって雫ってお出かけの時、いつも同じピアス付けてるよね。ほら、あの涙型の」
「あぁ、そうだね」
「私、あのピアス付けてる雫の姿がホントに好きでさ。だから、私も付けてみたいなっと思って」
「……ホント、君って子は可愛いな」
「何、またバカにしてるの」
「いやいや、本心だよ。心からの」
「ふーん……それなら嬉しい」
ニコニコしながらも立ちっぱなしだった状態からソファへ移動。
ちょこんと二人で座る。
「でも、実はもう1個、ピアス開けたい理由があるんだよね。開けたい理由というよりかは雫に開けてもらいたい理由かもしれないけど」
「へぇ、そうなんだ。何?」
「あ、いや、やっぱり……言ったら引かれるかも……」
「そこまで言われたら尚更気になるじゃん。ここまで来たなら言っちゃおうよ」
「言っても引かない?」
「それは内容によるかも」
「……えっと……ピアスを開ける時って結構痛みが生じるじゃん?」
「まぁ、人によっては」
「それで……あの……す、好きな人につけられる痛みって興奮しそうだな……っと思いまして……」
さっきの理由よりも大分言ってて恥ずかしいのか、顔を両手で隠しながら深く俯く彼女。
「……あれっ、私の彼女って変態だったっけ」
「ほらー!引いちゃうじゃん!やっぱり言うんじゃなかった!」
私の言葉を受けて、彼女は半ば泣きそうな顔をする。
だが、自分が少し気持ち悪いことを言っている自覚はあるらしく、またすぐに顔を手で覆い隠した。
それにしても『痛み』か……
……良い事を思いついた。
「や、やっぱり自分でピアス開けるよ。流石に恥ずかしいし……」
「……要するに痛みがあれば良いのだろう?」
その瞬間、私は凛のことをソファに押し倒す。
そして、彼女が「えっ」と言い終わる前に彼女の首筋にがぶりと噛み付いた。
いつも跡をつける時よりも一層強く。
噛み付きながら抱き締めると、どんどんと凛の体に力が入っていき、ふるふると震えていくのを感じる。
可愛い。
……そろそろいいかな。
気が済んだところで口を離す。
首筋には綺麗な歯形が残っていた。
噛まれた当人は「はぁ……はぁ……」と息を吐きながら、恥ずかしさとはまた違った色で紅く染まっていた。
「大丈夫?」
「う、うん、な、何とか……急にするからびっくりしたけど……」
「それで……どう?興奮した?」
「……した」
小さくも凄く幸せそうな声でそう彼女は呟く。
「フフッ、それなら、もうピアスは必要ないよね」
「(コクッ)」
まだ放心状態の彼女からピアッサーを取り上げて、机の上に置いた。
「……それにしても、凛はホント変態さんだね。私に噛まれただけでそんなになるなんて」
「好きな人にされたら、そりゃそうなるに決まってるでしょ」
「ふーん、そういうものなのか」
「逆に雫は無いの?なんか……今の私みたいに興奮するような事は」
「えー、私は別に凛みたいに変態じゃないからな……あっ、でも朝、鏡で背中に付いた傷とかを見たら少しムラッとはするかも」
「背中の傷?へぇー、そうなんだ……」
少し不思議そうな顔をする彼女だったが、私が言った言葉の意味に気づくとボンッとまた顔を赤くして、顔を俯かせて、恥ずかしさからかわなわなと体が震え出した。
この顔色をコロコロと変えていく素直さが、本当に愛おしく感じる。
「つ、次からはもっと、ち、力を抜けるように頑張ります」
「いやいや、このままで大丈夫だよ。何ならもっと強くしてくれたって構わない」
「で、でも、雫のこと傷つけたくないし」
「私もいつもこうやって傷つけているからお互い様さ」
そう言いながら、私は彼女の首筋に付いた噛み跡をそっと撫でる。
ピクッと彼女の体が少し震えた気がした。
「あ、あのさ、雫」
「うん?」
「さっきの首、噛んでくれたの気持ち良かったから、また今度もやってくれない?」
「……えっ」
恥ずかしながらもトロンと蕩けたような顔で懇願してくる彼女。
……どうやら私は彼女に対して新しい性癖を作ってしまった様だ。
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