タイツによる絶対領域

御厨カイト

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タイツによる絶対領域

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昼前の授業も無事に終わり、皆が足早に学食へと向かって行くのを横目で見ながら私はいつも通り購買で130円のメロンパンを買う。
一番端にひっそりと残っている感じが自分自身と重ねてつい手に取ってしまう。
あと、ただ単に美味しい。

そんな事を考えながら私は財布を出した際に前に行ってしまった長い黒髪を耳にかけ直し、お釣りの20円を受け取る。

よし、これで昼食の準備はオッケー。
それじゃ、向かいましょうかね。
この間は珍しく人がいたから今日はいなかったらいいなと私は階段を上りながら穴場であり、お気に入りの場所である屋上を目指す。


……良かった、今日は誰もいない。
屋上のドアを開け、誰もいない事を確認した私はそのドアの近くに壁を背にしてスカートを気にしながら腰を下ろす。
そして、さっき買ったメロンパンの袋をバリッと開けて一口。
うん、相変わらず美味しい。

ふと顔を上げると、屋根の無い屋上の特権である綺麗な青空が広がっていた。
「少し雲があった方がもっと綺麗になる」なんて捻くれた考えが脳内に浮かぶ。

あぁ、何だか物足りないと思ったら傍に"彼女"がいないからか。
……早く会いたいな。
まだ姿を現さない愛しの存在に胸を焦がしながら私は「ふぅ」と一息吐く。

すると、まるでそんな私の心を読んだかのように件の"彼女"が「あっおいー!来ったよー!」という声と共に屋上のドアをバンッと開けて入ってきた。


「……澪、声が大きいよ。他の人がいたらどうするの」

「えっ、あ、ごめんごめん。葵に早く会いたい気持ちが溢れちゃった!」


そう悪びれもせず、ウキウキな気持ちを表すかのように茶髪のショートを左右に揺らす澪。
まったく……そんな可愛い理由ならこれ以上何も言えないじゃないか。
これが天然なのか狙って言ったのか分からないが、とにかく嬉しそうに笑う澪に釣られて「ふふっ」と私も軽く微笑んだ。

この子が私の彼女。
愛する存在であり、掛け替えのない大切な存在。
そして、闇に覆い被されていた私に一筋の光をもたらしてくれた救世主でもある。

宝物を見るかのような眼差しで眺める私を余所に澪は私に対して、間を空けるように両手を左右に開くジェスチャーをする。
それを見て私は「はいはい」と体育座りをしていた両膝の間を空ける。
すると、澪は「ここは私の定位置だ」と言わんばかりにストンと座り、私の方へ振り返り満足そうに「えへへ」と笑う。

彼女が私よりも一回り小さいという事もあり、丁度良くこの位置にフィットしていた。
後ろから抱きしめやすい、そんなサイズ感。

……可愛いな。
ぽつりと心の中で呟きながら彼女の肩に顎を乗せると、澪はすかさず首を傾けてスリッと私の頬に自分の頬を擦り寄せてくる。
こういうトコ、こういうトコなんだよ!

そんな彼女の行動に悶えながらも幸せとして噛み締めていると、いつも通りマイペースな澪がのんびり話をし始めた。


「ねぇ、葵。この間の物理の課題ってもう終わった?」

「うん、全部終わってるけど……どうしたの?」

「えー、葵凄いなー!私、物理苦手だから全然進んでないんだよねー……どうしよう」


後ろからでも今澪が「うーん」と困ってる表情を浮かべてるのが雰囲気でよく分かる。


「それならさ、また私の家で勉強会する?ほらっ、夏休みでやった時と同じように」

「えっ、いいの!?」

「もちろん。ついでに課題だけじゃなくて澪が分からない単元とかの復習も一緒にやろ?」

「……葵、ありがとっ!」

私の方を見上げながら「パァ」と花のような笑顔を見せる澪。
喜怒哀楽が分かりやすいのは個人的にホント助かる。


「あっ、そうだ。話変わるんだけど私、最近太ってきちゃったんだよね~」

「そう?あまり見た目じゃ分からないけど」

「それなら良いんだけどさ、お腹とか色んな所で全体的にお肉がついてきちゃって、むちっとしてきたのが結構気になる」

「澪はそもそも細いんだから今ぐらいが丁度良いって。健康的だよ」

「ホント?葵がそう言うならじゃあいいかな~」


多分結構な悩みだっただろうに、私の言葉ですっかり安心しきった表情を見せ「ふんふふ~ん」と澪は楽しそうに鼻歌を歌う。

でも、確かに言われてみたら黒タイツが足に些か食い込んでおり、タイツの上にお肉がむにっと少し乗っている状態になっている。
後ろから見てパッと変化が分かる場所だったというのもあり、私は何の気なしに澪のその黒タイツの部分を撫でるように触る。


すると――




「ひゃんっ!」





妙に艶っぽい声が澪の口から不意に飛び出した。
澪も自分の口からそんな声が出た事に顔を一気に赤くさせ、パッと口を自分の手で塞ぐ。


……澪って足弱かったんだ。
少し足を触っただけでこんな声を出すという事実に背徳感と共に高揚感が私の背筋をゾクゾクッと駆け巡る。
何だかタガが外れた気がした。


「へー、澪って足弱かったんだー……」

「あっ、えっ、ちょ、ちょっと、あ、葵!?」


耳元で意地悪そうに呟き、澪の驚きに満ちた声を聞き流しながら私はさわさわと澪の足を触り始める。
じんわりとした温かさにモチモチスベスベしている肌が触っていて凄く気持ち良い。
それに加え、タイツが食い込んだことで付いた痕による窪みが手触りにおいて最高のマリアージュを奏でている。


触られている当の本人はというと途中まで両手で口を押さえていたが、折角だから声を聴きたいと思った私によって押さえていた手をゆっくり剥がされ、今では顔や耳を真っ赤にしながら恥ずかしそうにか細く「んっ」や「あっ」と呟くだけの存在となっていた。


「あ、葵……お、お願いだから、んっ、そ、そろそろ、や、やめてっ……」


涙目になりながらも蕩けるような顔でそう言ってくる彼女に私はより一層劣情を抱く。
――が、これ以上やったら流石に私が今まで築いてきた諸々のモノが一瞬で崩れ落ちてしまうと考えた私は名残惜しつつも手の動きをストップさせた。

まだ「はぁはぁ……」と息を荒くしている澪の姿を見て「少し調子に乗りすぎたか」と心の中で反省する。


「……澪、ごめんね。ちょっとやりすぎちゃった」

「ううん、大丈夫だよ。びっくりはしたけど葵の事だからちゃんと止めてくれるの分かってたから。あと……私も気持ち良かったし……」


最後の部分に関しては俯き、指をいじいじさせながら小声で言ってくる。


彼女は……どこまで……


その言葉で彼女に対する愛のバロメーターが上限突破した私は思わず足の間にいる澪の事をバックハグした。


「もー、葵、どうしたの?私はホントに大丈夫だから、ね?」


澪は優しい口調でそう言いながら、私のハグしている手に自分の手を上からキュッと被せてくる。




私はこんなに優しい彼女をずっと大切にしていこうと心の底から想うのだった。





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