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喫煙中には褒め殺し厳禁
しおりを挟む「はぁー……今日も疲れたな」
バイト帰り、僕はいつも通りそんなことを呟く。
休日で人が多かったからか、いつもより疲れた気がする。
まぁ、そのおかげでいつもより早く帰れたから良かったのかも。
多分、今日は雫さんの方が早く家に帰ってるかな。
……よし、今日こそは雫さんに甘えよう。
以前言っていた年上の包容力というのを見せてもらうことにしよう。
そんな事を考えながら、僕は家へと帰る足を速くする。
********
ガチャ
「ただいまー!」
……返事が無い。
あれっ?帰ってるはずだよね。
それに出かけているという連絡も入っていないから、こういう時は多分……
荷物を置きながらベランダへと向かうと、いた。
煙草を吸いながら、外の景色をボーと眺めている雫さんが。
フゥーと煙を吐く彼女の姿はやっぱり絵になるな、美しい。
僕はコンコンとベランダの窓を軽くノックして、ベランダへと入る。
その音でようやく僕が帰っていたのに気づいたのか、雫さんはこちらを向きニコリと微笑む。
「あっ、おかえり。ごめん、ベランダにいたから帰ったの気づかなかった」
「うぅん、大丈夫。声が返ってこないことで察したからさ」
「ハハハ、そうか」
そう笑いながら、吸っていた煙草の火を消そうとする彼女。
「あ、煙草消さなくて良いよ」
それを僕が止める。
「え、でも……」
「僕の事は気にしないで。雫さんが煙草を吸っている姿僕好きだから、もっと見ていたいな」
「……分かった」
火を消す手を止めて、彼女は少し照れ臭そうにまた煙草を吸い始める。
「でも、君ホント物好きだな。私の煙草を吸う姿が好きなんて」
「えー、でも雫さんのようなクールな人が煙草を吸ってる姿ってかっこいいし美しくない?ホント見ていて絵になるというか」
「そういうもんなのか。吸っている本人からしたらよく分からないのだが」
「そういうものなの!だから僕は好きなんだよね~」
ベランダの手すりに腕を置き、その上に顔を乗せながら彼女を見つめる。
「私的にはあまり君の健康を害するようなことはしたくないんだがな」
「そう言いながら、煙草をずっと吸い続けているのは誰ですかね?」
「アハハ、私だ。だが、本心でもある」
「勿論分かってますよ。でも、かっこいいし好きだから辞めて欲しく無いというのも僕の本心です」
「フッ、お互い面倒臭いな」
「本当にそれはお互い様ですね」
お互いに『ふふふ』と微笑む。
「でも、ホントに雫さんってかっこいいですよね」
「何がだ?」
「勿論この煙草を吸っているところも良いんですけど、普段の仕事をしている時の『出来る人』と言う感じの雰囲気とか良いな~と思うんですよね」
「なんか、恥ずかしいな……」
「他には多分無自覚なんだろうけど困っていることがあったら直ぐに助けてくれるところとか、と言うかそもそも見た目も凄く美しいですし――」
「おいおい、流石に褒め過ぎだよ。もういいよ」
珍しく頬を少し赤く染めながら、ぶっきらぼうな言い方で返す彼女。
おっ、これは照れてるな。
「いやいやいや、これでもまだまだ言い足りないですよ!良い所と言ったら料理が凄く上手なところですとか、あとは――」
「だから――」
「えっ?」
流石に痺れを切らしたのか、彼女は僕の胸ぐらを掴んでそのまま、
チュッ
「もういいって……言ってんじゃん」
強くキスをした。
「し、雫さん……」
「もういいって言ってるのに止めないからだよ。それとももっと深いのをしないと君は止まらないのかな?」
そうニヤリと微笑みながら言う彼女に僕はポッと顔が赤くなりながらも、慌てて否定する。
「え、あ、いや……すいません」
「アハハ、冗談だよ。……そろそろ良い時間だから、晩御飯の準備でもしようか」
「あっ、はい!手伝います!」
「うん、よろしく」
ベランダの窓を開け、家の中へと入っていく彼女の後を追う。
さっきのキスはやっぱり煙草の苦い味がした。
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