なんか、布団が美少女になっていたんですが。

御厨カイト

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なんか、布団が美少女になっていたんですが。

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「……ぇ……ぇ……ねぇ」


今日も朝を知らせるアラームが俺の耳に響いてくる。
だけど、今日はなんか調子が悪いようだ。
そろそろ電池を変えなくちゃな……

まだ、夢の中から抜け出せない俺はそんなことを考える。


「……ねぇ……ねぇ……ねぇ!」


……アラームの音が人間の声に聴こえてきている俺は多分疲れているのだろう。
何なら、その疲れを取るためにもう少し寝かせてもらいたいものだ。

そう思い、俺はその音を出している諸悪の根源を止めるためにバンバンと叩く。

……うん?止まらないな?
何でだろう?

それになんか……いつもと叩いている物の感触が違うような……?


「うぅぅぅ……い、いったーい!!!」


「えっっ!?」


俺はいきなりの大声に目をパチクリとさせる。
そして、まだボーとしている目を無理やり覚まして、その声が聴こえた方に向く。

すると、そこには……


何故か、美少女が座ってこちらを睨んでいた。


「もう痛いわよ!ずっと私の可愛い頭を叩きやがって!」

「へっ?」

「『へっ?』じゃないわよ!私は別に目覚まし時計じゃないの!それなのにずっとペシぺシペシぺシ私の頭を叩いて、マジで痛いのよ!」

「あ、そ、それは、ご、ごめんなさい」


なんか……うん、申し訳ないね……。


「もうー、ホントに気を付けてよね」

「は、はい、すいませんでした……」


……うん?いや待てよ。
何で俺、こんな朝っぱらから少女に頭を下げているんだろう。
と言うか、この子誰?
何で、ここにこんな子がいるの?


「……なんか、今更な気がするけど、君、誰?」

「はっ?何言ってんの?あんた、誰のおかげでいつも快眠出来てると思うの?」

「うん?」

「だから、私はあんたの布団!というか、見て分かんない?ほら、このパジャマ、あんたがいつも使っている布団と同じ柄でしょ?」

「……た、確かに同じ柄だ。……で、でも……そんなこと……」

「あり得ないって言いたいわけ?」

「はい……」

「はぁー、でも今目の前に私がこうやっているんだから、理解してもらわないと困るわ」


俺がいつも使っている布団と同じストライプ柄のパジャマを着ている少女が腕を組みながら、そう言い放つ。

そんな適当で良いのかな……
……まぁ、彼女がそう言っているし、それでいいのかも……?

一応俺はこれが夢じゃないか確認をするために、頬をつねる。
うん、痛い、これは夢じゃないな。
……個人的に夢であって欲しかったんだが。

「……えーっと……それで君は一体何の御用かな?」

「あ、そうだ。せっかくこの人の姿になったんだから言いたいことがあったんだった」

「な、なに?」

「あんたねぇ、いい加減私を天日干ししなさいよ!あんたの臭い汗とかが体に残ってるし、ダニとかだって……もうとにかく限界なのよ!」

「は、はぁ……」

「それにあんた、最近私の扱い酷いのよ!寝汗凄いし、いびきも五月蠅い、それに暑くなったら蹴っ飛ばすし。ホントいい加減にしてくれる!」

「す、すいません……」

「ったく……何で、あんたなんかが私を買っちゃうのよ。あぁあー、もっと良い人に買ってもらいたかったな」

「……」


……うん、これはごめんなさいだな。
いや、まさか布団にこんなことを思われていたとは。
こんな美少女に言われるもんだから尚更傷つく……

と言うか、普通に少女に怒られているサラリーマンの画って想像するだけでも情けなくなってくる……


「はぁ、まぁいいわ。一先ず!私のことをベランダまで案内しなさい!そして、ベランダの手すりに乗っけなさい!良いわね!」

「あ、うん、分かった……」


そうして、俺はベランダの手すりに彼女のことを乗っける。
さながら、と〇るシリーズのインデッ〇スの初登場シーンみたいな感じになった。


「はぁ~~、温か~い、生き返るわ~」


彼女はそれにお気に召したようで早速日光浴を堪能している。


「そ、それは良かった」

「ふんっ、もう少し頻繁にこういう事をしてもらいたいものだわ」

「……」


……よし、仕事に行く準備でも始めるか。
そう思って、ベランダから離れようとすると


「あれ?どこか出かけるの?」

「えぇ、これから仕事に」

「ふーん、いってらっしゃーい。夕方までには帰って来てよ。じゃないと私冷えちゃうからね」

「あ、うん、分かったよ……」

「よろしくね~、はぁ~、きもちいい~」


そうして、俺はまだ日光浴を楽しんでいる彼女をよそに準備を始める。


十数分後


「よいしょっと……それじゃあ、行ってきます」


……返答は無しっと。
うん、相変わらず日光浴を楽しんでいるようだ。


まぁ、こればっかりは俺が悪いからな。
反省である。

それにしても……、布団がまさか擬人化するなんてな。
人生生きてると色々なことがあるもんだ。

と言うか、布団が擬人化したってことは今日俺はどうやって寝れば良いの?

はぁ……、仕方が無い。
今日の帰り、買って帰るか。

そんなことを1人考えて、俺は会社へと向かうのだった。








********





「遅い!何時だと思ってるのよ!」


クタクタになって帰ってきた俺に対して、開口一番彼女が言ってきたことはこれだった。


「あんたが帰るの遅いからもうすっかり冷えちゃったじゃない!まぁ、人だったの思い出したから、もう自分で部屋に戻ったけどさ」

「す、すいませんでした……」

「まったく、本当はあんたが私を取り込むはずなんだけどね。」


……帰って早々、まさかまた説教を食らうとは。
まぁ、帰りが遅かった俺が悪いけどさ。


「それで、何でこんなに帰るの遅くなったのよ」

「あ、いや、ちょっと買い物に行っていたからね」

「ふーん、何買ったのよ……ってあんた、それって……!」

「うん?これがどうしたの?」


俺はさっき買ってきた布団を取り出しながら、そう言う。
……なんか、急に狼狽え始めたな。


「な、なんで新しい布団なんか買ってきたのよ!……ま、まさか私のことを捨てる気!?」

「え、いや、そういう訳じゃないけ――」

「い、嫌だ!嫌だ、嫌だ!お願いだから捨てないで!……あ、謝るから!言い過ぎたこと謝るから!だから、お願い捨てないで……」


俺はいきなり狼狽え泣き始めた彼女の様子に目をパチクリさせる。
えーっと……、これは勘違いをしているようだ。
……だけど、ちょっとこの状況を面白いと思っている自分がいる。
いや、流石に可哀想か。


「違うよ」

「違う?……ヒック……何が?」

「これは今日俺とかが寝る布団さ。だって、ほら今日まで使ってた布団は君になっちゃったわけでしょ?だから、今日寝る分の布団が無いからね。さっき買ってきたわけさ」

「そ、それって私はお役目ごめんという事じゃないの?」

「うぅん、違うよ。これは君も一緒に温まる用のものだよ」

「私も?」

「うん、だって、流石に君のような少女に『布団無しで寝ろ』なんて酷い事言えないからね」

「そ、それじゃあ、私は捨てられるわけでも、あの暗い押し入れに片付けられるわけでも無いの?」

「あぁ、そうだよ」

「……な、なんだ、そうだったのね。はぁ~……良かった、捨てられるかと思ったわ……」

「ハハハッ、流石にそんなことはしないよ」

「で、でも朝とか結構酷い事を言っちゃったから……それに怒ったのかと思って……」

「うーん、まぁ、確かに君のような少女から言われるのは中々辛かったけど、元々は俺の所為だからね。こっちこそ、ごめんね」

「確かに、あんた、いやあなたの使い方も悪かったけど……私の言い方も悪かったわ。ごめんなさい……」

「それだったら、今回の件はお互いが悪かったという事で一件落着だね」

「……フフッ、そうね。そうしましょう」


彼女は俺のそんな言葉に笑みをこぼしながら答える。

うん、やっぱり女の子は泣いている姿よりも、笑っている姿の方が良い。

そんなことを少し考えていると、彼女はまるで話題を変えるかのようにこう言う。


「……えっと、それで何だけど、まさか、この1人用の布団で一緒に寝る気……?」


あっ……


「……その様子だとそこまで考えてなかったようね」

「はい……その通りです。そうか、全く忘れていた。……ごめん、今日は僕はソファで寝るから、君が使って」

「そうは言っても、あのソファで寝るの?腰痛くなっちゃうわよ?」

「……で、でも、流石に君も俺と一緒になるのは嫌でしょう?だから、仕方ないよ。もう1セットの布団はまた明日買って来るからさ」


今度は、俺が少し狼狽えながらそう言う。
だけど、彼女はそんな俺の様子を見て微笑む。


「……うふふ、まったく、しょうがない人ね。いいわよ、今日ぐらい一緒に寝てあげる」

「え、ホ、ホント?……で、でもいいの?」

「いいの。流石にそろそろ温かくなってきたと言っても、布団無しで寝たら風邪を引いてしまうわ。だから今日は……」




「一緒に温まりましょう?」




彼女は無邪気に、そして少し妖艶にそう言う。



僕は何故か、そんな彼女の様子にドキッとしてしまうのだった。








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