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吸血鬼さん(同居人)、コンビニに行く。

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「ほぁー!これが”こんびに”というものか!」

「どうですか、初めて来た感想は?」

「そうじゃのう、本当にここには何でもそろっておるのじゃな!」


まるで子供かのように目をキラキラと輝かせながら、アイズさんは店内をキョロキョロと見回す。
いや見た目は完全に少女だから”ように”では無いのか。

俺はそんな彼女の様子に思わず頬が緩む。


「その様子を見ると本当にコンビニに来るの初めてだったんですね」

「そうじゃよ?今までも気にはなっておったんじゃが、如何いかんせんこの存在感がの……」

「存在感?」

「そう、昼はともかく、あの『夜は俺たちのステージ』と言わんばかりの異様な存在感。周りは真っ暗なのにここだけスポットライトが当たっている様な感じにいくら夜の住人と呼ばれる吸血鬼の儂と言えど、少々気圧されてしもうての」

「アハハッ、何だか可愛いですね。」

「なぬっ!この儂が可愛いじゃと!?この儂を何と心得る!儂はヴィクトリス家14代目当主アイズ――」

「あぁ、もうそれは聞き飽きたんで」

「むぅ、最後まで聞くのじゃ!」


まぁ、彼女が吸血鬼の名家だとか見た目は少女なのに齢300歳を超えているとかなんとか全部ひっくるめて、今は俺の気が置けないただの同居人だ。


「それじゃあ、アイズさんの長い口上はいつも通り置いといて、一先ず店内をぐるっと回ってみますか。」

「ぬぅ、少々腹立たしいがそうしようかの」



少しして、



「……本当にこんびにというのは色々なものが売っておるのじゃな。おにぎりやお菓子、日用品に雑誌まで。ぬぉっ!コーラまであるじゃないか!」

「ホント、アイズさんってコーラに目が無いですよね。」

「そりゃあ、こいつは儂のガソリンじゃからの。儂の血液の8割はコーラで出来ていると言っても過言ではない!」

彼女は無い胸を逸らせながら、そう言い張る。

「……それは吸血鬼としてどうなんでしょうかね」

「それぐらい好きという事じゃから何にも問題は無いのじゃ」

「さいですか。……そう言えばそろそろいい時間ですから、夕飯もここで買って行きましょうか」

「おぉ、それは良いの」

「何か食べたいものありますか?」

「うぅむ、そうじゃの……あっ」


そう顔を上げる彼女の目線の先にはホットスナックを売っている棚。

「のう、お主よ。あの棚の左側にある串状で売られておるアレは何じゃ?」

「串状……?あぁ、焼き鳥の事ですね。アレが食べたいんですか?」

「ほう、焼き鳥というのか……そうじゃな、アレが食べたい!」

「分かりました。それじゃあ種類はどうしますか?ももや鶏皮、つくねや軟骨などがありますが」

「……沢山あって分からん。おすすめは何じゃ?」

「そうですね……やっぱりももでしょうか」

「じゃあ、それにするのじゃ」

「塩とタレだったらどっちが……ってどっちも買って行きましょうかね。他には何かありますか?」

「他にはの……」


そうして、俺たちは珍しくコンビニで豪遊するのだった。






********





「いやー、結構買いましたね」

俺はキッチンに置かれたレジ袋を見て、そう言う。

「確かに、いつもと違って中々豪勢じゃな」

「流石に今日全部は食べれませんから明日とかにも回しましょうか。じゃあ、俺は準備するんでアイズさんは座っておいてください」

「了解なのじゃ」

俺は一先ず、今日食べるものだけを取り出してレンジで温める。
おにぎりは……温めなくていっか。

そんな事を考えているとにゅっと冷蔵庫から1.5Lのコーラのペットボトルを取る手が見えた。

「あれっ?アイズさん、今日コーラ何本目ですか?」

「……1本目だよ?」

「……(じとーっ)」

「はい、2本目です。ごめんなさい」

「素直でよろし。約束忘れて無いですよね?」

「コーラは1日1本……じゃよね」

「はい、じゃあそのコーラは置いて、お茶を机の方へ持って行ってください」

「……分かったのじゃ」

若干しょんぼりした様子で机へと向かう彼女。
こればかりはちゃんと守ってもらわなくちゃね。


すると丁度料理が温まる。
俺はそれを皿に出し、机へと向かう。


「おっ、美味しそうじゃの!」

「アハハッ、それじゃあ食べましょうか。せーの――」

『いただきます』

「……モグモグモグ、うむっ!この焼き鳥とやらすごく美味しいの!」

「お口に合ったようで良かったです」

「まぁ、いつもの野菜多め肉無しの野菜炒めよりはマシじゃからな。」

「おっ?働かずに家でグータラとしているような吸血鬼には言われたくないですね。明日からコーラを1.5Lから500mlの奴に変えるか」

「わ、儂が悪かった!じゃから、そ、それだけは勘弁しておくれ!」

「……本当に思ってるんですかね。というか、そろそろアイズさん働きません?良いバイト教えてあげますよ」

「この高貴な儂がアルバイトじゃと?それだけはい――」

「嫌、なんて言いませんよね?そんなこと言うなら今度こそコーラ禁止しますよ」

「……か、考えておくのじゃ」

汗をタラタラと流しながら、焼き鳥を食べる彼女。
そんな彼女の様子に微笑みながら、俺はおにぎりを頬張る。





そんなこんなで机の上の食べ物はどんどんと減っていき……



「いやー、食べた食べた!満足満足じゃ!」

「もしかしたら少し残るかと思ってましたが杞憂でしたね。それにしても全部美味しかった……」

「その中でも焼き鳥は美味しかったの!また食べたいのじゃ!」

「そんなに気に入ったんですね。まぁ、また今度買ってきますよ」

「頼むぞ!……とまぁ、美味しかったは美味しかったのじゃが、やはりアレが無いと満足しないのじゃ」

「アレ?」

「そう、アレ」

「……あぁ、アレですね。はいはい、少々お待ちを」


俺はいつも通りシャツをずらし、彼女に首筋を見せる。

「はい、どうぞ」

「じゃあ、遠慮なく!」


そう言い、彼女は俺の首筋にカプリと犬歯を刺す。
ずぶりとちょっとした痛みと共にポカポカと温かさを感じる。

そして、ドクンドクンと血が吸われていく。


……これに関してはもう慣れたのだが、この体勢にはやっぱり慣れない。


見た目は少女なのに、まるで抱き着くかのように吸血をしてくるアイズさん。
それに加えて、血を吸うたびにこくりこくりとその小さな喉を動かすもんだから、何だか背徳感が募ってくる。


こういう時はひたすら無心でアイズさんが満足するのを待つ。



それから幾許かして、彼女は俺の首筋から口を離す。

「ふぅー、満足じゃ。ありがとの」

口から垂れた血を拭いながらそういう彼女に、いつも俺は本当に彼女は吸血鬼なんだなと実感がわく。


「ホント、お主の血は絶品じゃ。こればっかりはどんな豪勢な食事にも勝るの!」

「それはようござんした」

「それじゃあ、用意はお主がしてくれたから片づけは儂がしようかの」

彼女はそう言い、お皿を持ってキッチンへと向かう。



……やっぱりこう見たらただの少女なんだけどな。



俺は彼女の後ろ姿を見ながら、そんな事を考えるのだった。



「……お主、今なんか失礼なことを考えておらんかったか?」





バレた。












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