その冷たい心は溶けている

御厨カイト

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その冷たい心は溶けている

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「ごめんなさい、待たせてしまったかしら」

「いえいえ、大丈夫です。それに先輩のためならいくらでも待ちますよ」

「うふふ、ありがとう。それじゃ行きましょう」

「はい」

先輩はそう言うといつものように僕の方に手を差し出してくる。
僕もその手を握る。
先輩はその様子を見て、満足げにニッコリと微笑んだ。

「君と付き合い始めて、大分経ったけどこうやって一緒に帰ることが当たり前になってきたわね」

「確かにそうですね。いつの間にかという感じですが」

「そうね。でも君と一緒に帰るのはホント楽しいわ。楽しすぎるからあっという間に私の家に着いてしまって、少し寂しいけれど」

「僕も先輩と帰るのはとても楽しいです。先輩と付き合えて良かった」

僕がそう言うと先輩はなぜか眉尻を下げる。
何か気に障ってしまったのだろうか?

「ありがとう。君にそう言ってもらえてとても嬉しいわ。でも本当に私で良いの?だって私は雪女だし、表情も豊かではないわ。君ならもっと良い子が……」

あぁ、そういうことか。
先輩は雪女という珍しい種族だから今まで肩身の狭い人生を送ってきたから、いつもこういう話題になるとそう考えてしまうそう。
だけど、そのことについてはいつも……

「……」

僕は無言で抗議の意を示す。

「あぁ、ごめんなさい。あなたにとっては愚問だったわね。でも私はほら雪女だし、普通の人間とは違うから、どうしてもそこは気になってしまうのよ。君にいつか愛想を尽かされてしまうのかもしれないってね」

「……先輩、ちょっとこっちを向いてください」

「えっ?」

「先輩はいつも考えすぎです。僕が先輩に愛想を尽かす?そんなことはあり得ません。だって僕は先輩のことを心の底から愛しているのですから」

「!?……ホント君って人は…………うふふ……」

僕が先輩の目を見ながらそう言うと先輩は頬を桃色に染めて、微笑む。

「ありがとう、君にそう言ってもらえて私は本当にうれしい」

「それは良かったです。ですが、そろそろそう言った考え方をするのやめませんか。そろそろ泣きますよ、僕」

「それはごめんなさい。だけど、こういった考え方は定着してしまっているからすぐに直せそうにないわ。でも、君も悪いのよ?」

「えっ、僕?」

「えぇ、あんまり私のことを『好き』とか『愛してる』とか言ってくれないから、心配にもなるわ」

「うぐっ、それは……すいません。どうしてもそういうことを言うのは恥ずかしくて。でも行動で示していると思いますけど」

「それでも、やっぱり言葉で言ってもらいたいものよ?」

「……善処します」

僕がそう言うと先輩はまたしても、その綺麗な顔でふふふと微笑んだ。


そんなやり取りをしていたら、いつの間にか先輩の家についてしまった。
本当に時間が流れるのは早いなと思う。

先輩も名残惜しいそうな顔をしている。

「もう着いてしまったわね」

「そうですね」

「もう少し君と話していたかったのだけど」

「僕もまだ先輩と話していたかったです。だけど仕方がないですね。また明日の朝、一緒に登校しましょう」

「そうね、そうしましょう」

「では先輩、また明日」

「えぇ、また明日」

先輩に挨拶した後、僕は一人寂しく帰途に就こうとする。
すると

「やっぱり、ちょっと待って!」

先輩に呼び止められる。


「どうしたんですか先輩?何か忘れものでも?」

「い、いや、そ、そういう訳ではないのだけど……」

「?」

「よ、よかったら、私の家あがっていかない?」

「えっ?」


えっ?





********






こ、ここが先輩の部屋か。
勉強机に本棚、そしてベッドというとてもシンプルな感じだけど、そのシンプルな感じが先輩の部屋という感じがしてとても良い。
ってなに冷静に人の部屋分析してんだよ。

先輩は「くつろいで構わないから」と言ってお茶の用意しに行っちゃったし。

それに好きな人の部屋でくつろげるわけがない。
絶賛心臓バクバク中。

するとお茶を両手に持って、先輩が戻ってきた。

「はい、お茶どうぞ」

「あ、ありがとうございます」

「うふふ、くつろいでいいって言ったのに、そんな正座なんてしちゃって」

「あっ、すいません。どうしても緊張してしまって。そう言えば先輩はそうして僕のことを家にあげたんですか?」

「それは……もっと君と話したい、親しくなりたいと思って……それで……」

「なるほど」

「それに今日は親が帰ってくるのが遅いの」

「……それって」

僕は良からぬことを想像してしまう。

「うふふ、一体なにを想像したのかしら。まったく、エッチな子ね」

「……すいません」

絶対先輩分かってて言ったでしょ。

「今日はそういう事じゃなくて、学校でできないようなことをしたいと思って、だから私の膝の上に来て」

「膝の上?」

「えぇ、膝枕よ。1回してみたかったの」

「な、なるほど」

「ダメ……かしら……」

「いえいえ、全然!僕でいいのなら」

「ありがとう。それじゃあ、早速ベッドの上に上がって、私の膝においで」

「そ、それじゃあ失礼します」

僕はそうして、先輩の膝の上に頭をのせる。

「お、重くないですか?」

「全然大丈夫よ。それでどうかしら私の膝枕は?」

先輩の膝枕はひんやりとしていて気持ちが良い。
その冷たさも機械のような無機質な冷たさじゃなくて、その冷たさの中にも温かさを感じる。

「ひんやりとしていて気持ちが良いです」

「そう?それなら良かったわ」

そうして僕は少しの間、先輩の膝枕を堪能する。




「こうしてみると、君は本当にかわいいわ」

先輩はふと僕を見ながら、そう呟いた。

「むぅ、僕のことからかっているんですか?」

「ううん、からかってなどいないわ。本当にそう思ったのよ。不意に頭を撫でたくなるようなそんな可愛さ」

そう言いながら先輩は僕の頭を撫でてくる。
なんだかとても心地が良くて、気持ちが良い。

「あら、心地よさそうね。うふふ、ならもう少し続けるわ」

それからまた静かに先輩は僕の頭を撫で続ける。
なんだか、心地が良くてうとうとしてくる。

「あらっ、うとうとしてきちゃったのね。ベットの上だし、このまま私の膝の上で寝てもいいからね」

「い、いや、それは流石に悪いですよ」

「それだったら、1度頭を上げてください。そうして、こうやって、君の隣に失礼して……」

「な、何をしているんですか!?」

「何って君と添い寝をするのよ」

「そ、添い寝!?」

「そう、お互いの体を寄せ合って一緒に寝るの」

そう言うと先輩は僕に抱き着いてくる。
僕はあまり衝撃に固まってしまう。

「あぁ、こうすると君の体温がいつも以上に伝わってくる。ずっとこうしていたい」

「……僕も温かいです」

「それは良かった。……君も分かっていると思うけど、私は普段感情を表に出すようなタイプじゃないんだけど君といる時はなんだか素直になれる気がするの」

「確かに、そんな気がします」

「うふふ、君が私を変えたのよ。もう私は君なしで生きていけなくなっちゃった。だから……」

すると先輩は僕の耳元に顔を寄せる。

「だから、私の心を溶かした責任、ちゃんととってよね」


先輩は艶やかな笑顔でそう僕の耳元で囁いた。









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